(女性弁護士の法律コラム NO.218)
男女雇用機会均等法が施行されたのが、1986年4月。
今年4月で、丸30年となる。
私が弁護士になった頃、雇用における男女平等を定める法律はなく、真の男女雇用平等法を作ろうと、女性労働者たちは全国で様々な運動を展開していた。
私も新米の女性弁護士として、それらの運動に関わり、講演なども多数行った。
しかし、その後1985年に成立した均等法は、採用などが努力義務となるなど、不十分な内容だった。
それでも、日本で初めて、雇用における男女平等を定めた法律ができたことは、女性運動の大きな成果だったし、成立後も、様々な分野で、均等法を活用した女性たちの闘いが展開されてきた。
そして均等法施行から30年。
日本の男女平等は進んだのだろうか。
2016年1月24日付け京都新聞朝刊の1面トップは、「女性総合職1期8割退社」という見出しだった。
均等法が施行された1986年に大手企業に入社した女性総合職のうち、昨年10月時点で約80%が退職していたという報道だった。
共同通信のアンケートによって、企業の基幹業務を担う幹部候補生である総合職となった大卒女性1期生たちが、長時間労働、育児と仕事の両立支援の遅れなどにより、現在50代前半で、多くが仕事から、当初の仕事から離れている現実が明らかとなった。
確かに、30年前とは職場の状況は大きく変化したと思う。
公務員はもとより、私たちに身近な法律事務所などの民間の職場でも、育児休暇などを取得する労働者も増えていることは事実だ。
しかし、均等法1期生の女性たちの8割もが職場から離れている現実は、30年経っても、雇用における男女平等が実は遅々として進んでいない現状を物語っているのではないだろうか。
そして均等法施行10年目や20年目の女性たちは、今、どうしているだろうか。
国は、女性の活躍推進を目玉政策として打ち出している。
単にかけ声だけでなく、均等法施行30年を機に、職場の実態を把握し、女性が本当に活躍できる制度や条件を作ってほしいと思う。
女性弁護士の法律コラム
(女性弁護士の法律コラム NO.217)
昨年12月、私が所属している弁護士グループの主催で、「マイナンバー制度の問題点」の勉強会が開催されましたので、参加しました。
講師は、日本弁護士連合会情報問題委員会委員長の坂本団弁護士(大阪弁護士会所属)。
坂本弁護士は、マイナンバー制度の問題点を非常にわかりやすく解説され、勉強になりました。
マイナンバー法の正式名称は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」。
マイナンバーというのは、あくまで行政機関における事務を効率化するための制度で、民間の事業者や個人がそのために「お手伝い」をするという制度なんです。
ですから、現時点では、国民にはほとんどメリットはありません。
制度が始まる以前から、マイナンバーの流出事故が報道されていますが、番号や個人情報の不正利用や改ざんなどにより、本人に「なりすまし」て財産その他の被害を負うおそれも指摘されています。
アメリカでは、深刻ななりすまし被害が増大し、2006~2008年の3年間で1170万人、損害額が毎年約5兆円と報告されています。
もし、今後、マイナンバーの利用範囲が拡大されれば、逆に、不正利用の危険性も高まると言えるでしょう。
また、マイナンバー法は、定められた目的以外で、個人番号を他人に提供したり、他人の番号を収集したりすることを禁止しています。
ですから、例えば、いくら自分の番号だからと言って、ブログやtwitterなどに番号を掲載することはできません。
また、客が身分証明書代わりに個人カードを店舗に提示しても、店が個人カードの裏面をコピーしたり、番号を書き取ったりすることは許されません。
(2016年1月8日付け京都新聞夕刊)。
国は、個人番号カードの普及に全力をあげていますが、悪用された時のリスクを考えると、取得するか否かは慎重に判断した方が良いと思います。
(女性弁護士の法律コラム NO.216)
当時、厚生労働省事務次官であった村木厚子さんが最高検察庁によって逮捕されたのは2010年9月。
その後、大阪地検特捜部の前田恒彦検事(当時)が証拠のフロッピーを改ざんしたことが明るみとなり、村木さんは無罪となった。
他方、前田氏は、その後、実刑判決を受け、受刑者となった。
2014年5月、京都弁護士会は、前田元検事を招き、全面証拠開示・全面可視化のシンポジュウムを開催した。
前田氏服役後、初めての講演だった。
彼が語る捜査の実態は生々しくリアルで、被疑者・被告人にとって有利な記述の削除や不利な供述だけを調書にする方法が実際に行われていると語った。
そして、前田氏は、今年1月5日までに、共同通信の取材に応じた(2016年1月6日付け京都新聞朝刊)。
証拠改ざんについては「最低でも官僚の立件」という誤った方針が先にあって罪を犯したこと、証拠は「検察のもの」として不利なものは隠すという歴史の末に改ざん事件があるなどと回想した。
「独善的な正義感に酔いしれていた」と当時を振り返るとともに、全事件での取り調べの録音・録画(可視化)の義務づけや被告人・弁護側に全証拠開示する必要性を強調した。
前田氏の事件以後も、検事が取調室で被疑者にカッターナイフを示したり、自白と引き換えに便宜を持ちかけたりする問題が表面化し、検察庁の体質は変わっていないのではないかと思わざるを得ない。
前田氏には、様々な所から「圧力」があるようだが、それらに屈せず、どんどん発言し、検察機構を改革する力となってほしいと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.215)
2016年1月から本格的に運用が始まるマイナンバー制度。
個人情報が漏洩される危険性が高く、憲法が保障するプライバシー権を侵害するとして、2015年12月1日、弁護士や住民ら計156人が、国を相手にマイナンバーの利用停止や削除を求める「マイナンバー違憲訴訟」を一斉に提起しました(2015年12月1日付け京都新聞朝刊)。
提訴したのは、仙台、新潟、東京、金沢、大阪の5地裁です。
今後、横浜や名古屋、福岡でも提訴が予定されているようです。
訴状では、マイナンバー制度は、個人情報を本人の同意なく集めており、自分の情報がどう使われるかをコントロールする権利を侵害していると主張。
さらに、セキュリティ対策が不十分で、民間から個人情報が漏れ、成りすましの被害に遭う恐れもあるとしています。
先日もこのブログで書きましたとおり、私もマイナンバーについては、大きな不安や危険性を感じていますので、まだ通知カードを受け取りに行っていませんし、個人カードを申請しようとも思っていません。
でも、もう私に番号はつけられてしまっていますし、行政側からどこかへ番号が漏れてしまうことは当然あり得ることです。
訴訟の推移に注目していきたいと思っています。
(女性弁護士の法律コラム NO.214)
私の離婚事件の元依頼者女性が、今年夏にガンで亡くなった。
私よりずいぶん若かったのに・・・未成年の子どもを残して・・・
実は、彼女は、数年前、ガンの手術を受ける1週間前に、私のところに法律相談に訪れた。
自分に万が一のことが起こった場合に、未成年の子どもの親権だけが気にかかるという相談だった。
民法839条には、「未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる」と定められている。
それで、彼女に遺言を書いておくことを勧めた。
彼女が亡くなったという知らせを母親からもらった時に、私は母親に、彼女の遺言の有無を尋ねたが、母親自身は「知らない」とのことで、「時間ができたら探してみます」と言われた。
その後も気がかりだったが、つい先日、遺言が見つかったようで、その遺言には、未成年者の後見人として、ちゃんと母親(未成年者の祖母)が指定されていた。
今後まだいくつか手続きがあるが、ひとまず、天国の彼女も少し安心しただろう。
(女性弁護士の法律コラム NO.213)
11月第1週が過ぎましたが、皆さんの所には、もう、マイナンバーの通知カードは届きましたか?
私の周囲では、まだ「届いた」という声は聞かれません。
法律コラムや当ブログで、少しだけ、マイナンバーの通知カードの授受についての一般論を書きましたが、実は、私自身は、マイナンバーは欲しくない、できれば通知カードを受け取りたくないと思っています。
マイナンバーの法律の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。
赤ちゃんからお年寄りまで、すべての国民に12桁の番号をつけて、個人情報を一元的に管理するというもので、基本的に番号は一生変更できません。
要するに、国民総背番号制です。
その意味では、いくら私が欲しくないと言っても、既に番号はつけられてしまっています。
10月5日以降に住民票所在地に簡易書留で送られてくるのは、マイナンバーが記載された通知カードと個人番号カードの申請書です。
ICチップが入った個人番号カードの申請は任意ですから、申請をしないかぎりは個人番号カードが自動的に発行されることはありません。
雑誌「ねっとわーく京都12月号」では、国民にとってのマイナンバーのメリットは「まったく無い」と書かれています。
憲法13条(個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉)に違反するということで、訴訟の準備をすすめている弁護士グループもあります。
政府は、暮らしに役立つ便利なカードのように言っていますが、紛失した時に悪用される危険性や個人情報をすべて国が収集することになるなど、多くの問題点が指摘されています。
個人番号カードをなくした場合、紛失届を出せば再発行されますが、単に「落とした」というだけで番号そのものを変更してもらうのは難しいようです。
では、どうしたらよいでしょうか。
個人番号を記載しなければ、行政上の給付を受けられないかのような宣伝がなされていますが、法律ではそのような強要はできないことになっています。
通知カードを受け取りたくない場合でも、番号をどうしても知りたければ、住民票を請求するときに請求すれば、個人番号を記載した住民票の写しを受け取ることができます。
国税当局に提出する申告書や法定調書等の税務関係書類には個人番号や法人番号を記載することが義務付けられています。
ただ、国税庁のホームページでも
「個人番号・法人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません」
「個人番号・法人番号を記載しなかった場合や誤りがあった場合の罰則規定は、税法上設けられておりません」
と書かれています。
カードを落として、なりすましで犯罪にまきこまれる可能性のあるカードは申請したくありませんし、できれば廃止してほしいと思っています。
(女性弁護士の法律コラム NO.212)
マイナンバーの通知カードを住民票の住所以外の場所で受け取る特例措置に関し、DV被害者を支援しているNPO法人全国女性シェルターネットは、居場所を書いた書類を自治体に提出することをためらい、断念する被害者が相次いでいるとして、総務省に配慮を求める要望書を提出しました(2015年10月15日付け京都新聞夕刊)。
10月5日からマイナンバーの通知カードを住民票の住所に郵送する手続きが始まりました。
他方、新聞報道によると、茨城県や北海道の自治体で、職員が住民票に誤ってマイナンバーを記載するというミスも既に起こっています。
個人情報が漏れるのではないか、悪用されるのではないか、マイナンバーに関する不安は増すばかりです。
9月7日付け法律コラムで、DV被害者など住民票の住所以外に居住している方についての特例措置についてご紹介しました。
ところが、同ネットによると、ある被害女性が手続きをしようとしたところ、戸籍謄本や住宅の契約書など書類7点の提出を求められ、「出せば加害者に居場所を知られるかもしれない」と恐怖を感じ、申請を諦めたといいます。
また、あるDV被害女性は、番号変更してから受け取ろうとしましたが(不正利用の恐れがある場合には例外的に変更ができます)、応対した職員から「DV被害証明が必要」と言われた上、被害に遭ったのが数年前だったことから「差し迫った危険はないので、制限できない」と告げられたそうです。
このように自治体によって対応がさまざまで、しかも、自治体によるミスが続いており、DV被害者は安心して居住場所を連絡することができないのが現状です。
同ネットは、総務省に対し、10月8日付けで要望書を提出し、その中で、DV被害者が番号変更を求めた際は現在の居所情報や被害証明を求めないこと、マイナンバーを担当する職員にDV被害者の安全配慮に関する研修を徹底することなどを求めました。
(女性弁護士の法律コラム NO.211)
1961(昭和36)年3月に起きた名張毒ぶどう酒事件の死刑囚奥西勝さん(89歳)が、10月4日死亡と報道された。
奥西さんは、長年、再審無罪を訴えて来られたが、結局、存命中には、その扉は開かなかった。
さぞかし無念だっただろう。
心からご冥福をお祈りします。
ところで、こうした「えん罪」が強く疑われる事件の再審請求を支援しようと、国内の研究者たちが、来春4月、立命館大学を拠点にネットワークを立ち上げる(2015年10月3日付け京都新聞夕刊)。
米国では、1992年から「イノセンス・プロジェクト」が始まっており、受刑者の無実の訴えに基づき、学者やジャーナリスト、弁護士らが新証拠を収集。
DNA鑑定などの新技術や従来の構図と異なる観点を基に事件の問題に光をあて、死刑囚を再審無罪につなげた例もあるとのこと。
同様の試みは、フランス、オーストラリア、台湾など国際的に広がっている。
現在、立命館大学以外の心理学者や法学者、弁護士も関与しながら、「日本版」の制度設計が進んでいるようだ。
このような新しい動きに、大いに期待したい。
(女性弁護士の法律コラム NO.210)
9月7日付けの法律コラムでも書いたが、10月5日から、いわゆるマイナンバー法が施行されるということで、配偶者と別居し、住民票の住所地に居住していない人たちから色々と心配する声が寄せられている。
マイナンバーの通知カードは、10月5日以降、住民票の住所地に世帯ごとに簡易書留で送付されることになっている。
「やむを得ない理由で住民票の住所地で受け取ることができない方は、8月24日から9月25日までに、居所情報登録申請書を住民票のある住所地の市区町村に持参又は郵送してください」と広報されているが、いったい、どのくらいの人が、この広報の内容を知っているのだろう。
9月25日はもうすぐだ。
私の依頼者の中には、新聞も読まないし、テレビもあまり観ないという女性がいる。
彼女も住民票を住所地に置いたまま別居しているので、メールで連絡した。
また、元依頼者の中には、離婚せず別居のままという女性もいるので、久しぶりに電話をかけてみた。
彼女は、既に居所情報登録申請書を提出し認められたと言っていたので安心した。
彼女は、言葉によるDVで自宅を離れ、確か、警察などには相談に行っていないはず。
そこで、「DV被害者としての公的な証明がなくても、申請は認められたの?」と尋ねると、詳しく別居した事情を説明し記入したら認めてもらえたと教えてくれた。
DV被害者として、警察や配偶者暴力相談支援センターなどの証明がなくても、きちんと事情を説明すれば、申請は受理されるよう。
これも安心した。
ただ、行政のミスでDV被害者の居所が漏れることも頻発しているので、居所登録情報申請書を提出したくない人もいるだろう。
そのような場合には、後日、身分証明書を持参して、住民票の住所地の役所に直接受領しに行くしかないであろう。
個人情報保護の観点からはとても問題の多いマイナンバー制度にふりまわされるのは、とても腹立たしい。
ただ、とりあえず、周囲に別居している人がいたら、これらの情報を教えてあげてくださいね。
(女性弁護士の法律コラム NO.209)
「私は、中立公正を本質とする最高裁の判事の職にあったことを考慮し、単なる政策の当否に関する政治問題については、発言を控えてきました。」
「しかし、国を運営する元となる憲法の大原則に深刻な変更が加えられるとすれば、全く別の問題になります。」
「法律家として、いうべきことをきちんという社会的責任がある、と考えます。」
こう語ったのは、2006年5月から2012年2月まで最高裁判事であった那須弘平さん。しんぶん赤旗のインタビューに答えた(2015年9月8日付け)。
那須さんは、
一内閣の閣議決定で憲法解釈を変更するには限界があり、集団的自衛権行使は違憲といわざるを得ない、
尖閣列島や北朝鮮などの問題は、外交で解決すべき問題である、
憲法前文は、「日本が不戦を約束した誓いの言葉」であり、アメリカ独立宣言、フランス人権宣言に匹敵する、
憲法の理念が破壊されようとしている今、前文の誓いを十分に果たしたと言えるか、国民一人ひとりが自身の良心に問うてみる必要がある、
などと語った。
参議院での安保法案審議が、来週にもヤマ場を迎えると報道されている。
主権者である私たち国民一人ひとりが、大きな反対の声をあげましょう。
(女性弁護士の法律コラム NO.208)
昨年10月に、最高裁が「妊娠による降格は男女雇用均等法が原則禁止しており、本人の同意がなければ違法」と初めて判断したことをうけて、厚生労働省は、今年3月末、育児休業の終了などから原則1年以内に女性が不利益な取り扱いを受けた場合には、直ちに違法と判断することを決めました。
そして、9月4日、厚生労働省は、妊娠を理由とした解雇をやめるよう求めた勧告に従わなかったとして、男女雇用機会均等法に基づき、看護助手の女性を解雇した茨城県内の病院名を公表しました(2015年9月5日付け京都新聞朝刊)。
マタニティーハラスメントで企業名を公表をするのは、初めてです。
勧告に従わなかった病院は、茨城県牛久市の「牛久皮膚科病院」です。
看護助手の20代女性が、院長に妊娠を報告したところ、約2週間後に「妊婦はいらない。明日から来なくていい」と突然解雇を告げられたそうです。
この病院は、労働局から口頭や文書で指導されても、解雇を撤回せず、厚生労働大臣が初の勧告を行いましたが、「均等法を守るつもりはない」などと答えたため、企業名公表に踏み切ったとのことです。
マタハラがこれほど社会問題化しているにもかかわらず、まだまだ職場の中ではマタハラが横行していることを痛感しました。
企業名公表が、マタハラは違法であることの認識を広めることやマタハラ抑止に働くことを期待します。
被害にあった場合には、 泣き寝入りせず、声をあげていくことが大切ですね。
(女性弁護士の法律コラム NO.207)
とうとう、元最高裁長官の口からも、安保法案は「違憲」の発言がなされた。
元最高裁長官山口繁氏は、8月3日、共同通信の取材に応じ、安保法案について「集団的自衛権の行使を認める立法は憲法違反と言わざるを得ない」と述べた(2015年9月4日付け京都新聞朝刊)。
山口氏は、1997年10月から約5年間、最高裁長官を務めた。
政府や与党が1959年の砂川事件最高裁判決を法案の合憲性の根拠として持ち出していることから、私は、最高裁判事経験者は、このような政府の見解をどのように思っているのだろう、元裁判官は誰も発言しないのだろうか、などとずっと思っていた。
多数の憲法学者が「違憲」と指摘されていることについて、高村自民党副総裁は「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と強調した。
しかし、ここに来て、その「憲法の番人」である最高裁の元長官が初めて意見を表明した。
画期的なことだし、それほどまでに現在の政府や与党のやり方が無茶苦茶だということの現れだ。
山口氏は、砂川判決に関し、当時の時代背景を踏まえ「集団的自衛権を意識して判決が書かれたとは到底考えられない。憲法で、集団的自衛権、個別的自衛権の行使が認められるかを判断する必要もなかった」と語った。
更に、
従来の解釈を変えるなら「憲法を改正するのが正攻法」
こうした憲法解釈変更が認められるなら「立憲主義や法治主義が揺らぐ」
などとも述べた。
政府・与党の独裁政治に、多くの人が声を上げ始めている。
安保法案が廃案しかないことは明らかだ。
(女性弁護士の法律コラム NO.206)
Eさんの事件を担当し始めて、途中、空いた年月はあったものの、もう数年が経過する。
長いつきあいになった。
Eさんは、60代後半で、一人暮らしの女性だ。
通常、事件を担当していても、依頼者のプライバシーのことは、事件に必要な範囲あるいは雑談程度にしか聞くことはない。
Eさんも、高齢者の域には入ってきたが、パートで頑張って働いていると聞いていたので、普通に生活しているものと思っていた。
ところが、最近になって、借家の家賃を滞納していることがわかり、相談を受けた。
必然的に家計状況を尋ねることとなり、かなりの金額の家賃滞納と、ほかにも借金があることがわかった。
元々、計画的に金を使えない性格であることは、知っていたが、反省して、堅実に生活しているものと思っていた。
「食事はどうしているの?」と尋ねると、節約のため、ほとんど毎日おにぎりなどですませているとのこと。
それでも「葬式代だけは貯めてますから」と言う彼女。
「死んだ後より、生きてる今の方が大事じゃないの!」と腹が立ったが、日本人やなあと哀れささえ感じた。
お中元でいただいたサラダ油があったので、それをさしあげたら、「これで、もやし炒めができる」と嬉しそうだった。
Eさんは大金を手にしていた過去もあり、自業自得と言えば、それまでだが、高齢になり、今はまだ元気で働けているが、これから先が心配だ。
(女性弁護士の法律コラム NO205)
日本航空の女性客室乗務員の神野知子さんが、妊娠中に地上勤務での就労希望を却下されて無給休職を命令されたのは、男女雇用機会均等法や労働基準法に違反するマタニティハラスメントだとして、2015年6月16日、東京地裁に休職命令の無効と未払い賃金などを求めて提訴しました(テレビ・新聞報道)。
日航には、妊娠中、休職するか、地上勤務に転換するかを選択できる「産前地上勤務制度」があります。
しかし、2008年、会社は「生産性の向上」を口実に、地上勤務は「会社が認める場合に限る」と規定を改悪しました。
妊娠した神野さんは、昨年8月25日、産前地上勤務を会社に申し出ましたが、会社は「空いているポストがない」として9月から休職を命じました。
休職中は、無給となり、勤続年数にも反映されません。
日航は、2008年6月、厚生労働省から、子育てサポート企業「くるみん認定」を受けています。
また、経済産業省からは、今年3月、女性活躍推進に優れた上場企業「なでしこ銘柄」に認定されています。
ところが、実は、「くるみん認定」を受けた2ヶ月前の2008年4月に、前記したとおり、産前地上勤務制度を改悪していたのです。
労働基準法65条3項では、妊娠中の女性労働者から請求があれば、軽易な業務に転換させなければならないとされています。
また、男女雇用機会均等法9条3項では、妊娠、出産等を理由とした不利益取扱いを禁止しています。
日航には、妊娠した客室乗務員に与えるべき「軽易な業務」がないのでしょうか。
マタハラを許さないこの裁判は、日航だけでなく、すべての女性労働者につながる重要な闘いだと思います。
(女性弁護士の法律コラム NO.204)
昨夜、フジテレビ系列の番組「ホンマでっか!?TV」を初めて観た。
新聞のテレビ欄に「弁護士の意外な使い方」という小見出しがついていたので、どんな内容かと思い観てみた。
男女問題に詳しいという女性弁護士が「幸せな結婚生活を送るための弁護士の意外な使い方」というテーマで解説していた。その主な内容は・・・
第3位
結婚後に金銭感覚のズレが問題になることが多いので、結婚前、弁護士に「結婚契約書」を作ってもらう。それに署名しない相手とは結婚しないこともある。
第2位
夫婦関係がこじれ修復したい時には、弁護士に頼んで、夫婦それぞれにカウンセリングしてもらう。
夫から依頼を受けたその女性弁護士は、妻と何回か食事をしたりして親しくなり、話ができる間柄になって夫婦関係修復に貢献したと解説していた。
第1位
結婚後浮気した場合、モメずに解決するためには、浮気相手にはっきり「嫌い」と言って、弁護士に愛人と別れる練習をしてもらったり、別れる場面に立ち会ってもらう。
う~ん。
どれも現実的じゃないし、このようなことに弁護士が関わっているなんて、あまり聞いたことがないなあ、というのが私の率直な感想。
以下、私の感想的コメント。
「第3位」の結婚契約書。
これは、結婚する前に、結婚後のことを色々取り決めしておくもので、このような契約書を実際に作成すれば、それは法的には有効である。
弁護士が関われる可能性はある。
でも、外国では、このような書類を作るカップルも少なくないらしいが、日本では、ほとんど例がないんじゃないかな。
「第2位」の夫婦関係修復のためのカウンセリング。
そもそも弁護士にカウンセリングの能力があるのか疑問。
仮に、能力があったとしても、夫婦双方に関わってしまうと、その後、結局、夫婦関係がこじれて離婚に発展した場合には、どちらの代理人にも付けないことになってしまう。
夫婦でカウンセリングを受けるなら、専門のカウンセラーの所に行った方が良いんじゃないかな。
「第1位」の愛人と別れるための練習や立ち会い。
愛人とトラブルになった時には、もちろん弁護士が代理人として交渉などすることはある。
でも「別れ方の練習」なんかしないよ~
(女性弁護士の法律コラム NO.203)
憲法9条改悪に反対する「明日の自由を守る若手弁護士の会」(略称アスワカ)の若手弁護士を講師として、お茶を飲みながら、気楽に憲法を学び語る「憲法カフェ」が全国各地で開かれている。
そして、京都府宇治市でも、子ども3人を育てる中村あゆ美さんが、保育園のママ友と、お茶会のような雰囲気の中で憲法を学ぶ「サクッと憲法カフェ」を開いた(2015年5月3日付け京都新聞朝刊)。
私も2014年11月16日付けの当ブログで、女性誌「LEE12月号」が憲法カフェのことを記事として掲載していることを紹介したが、中村さんも、各地の憲法カフェがファッション誌などで取り上げられているのを見て企画したそうだ。
近所の集会所で開催し、23人が参加。
憲法について自由に意見を出し合った。
中村さんたちは、大切なことは憲法に対して思うことを臆病にならず話すことだと信じる。
「普通のお母さんが憲法を語ってもおかしくない。そんな自由な場所が広がってほしい」と
語る。
私たち弁護士は、大学でも司法試験の勉強でも憲法を学んできた。
でも、普通の人たちは、憲法を読んだこともない人が圧倒的多数であろう。
他方、今の国会では、改憲派が多数を占めており、「戦争する国」へと進みつつある。
「憲法」って「読んだことない」「知らない」では済まされない社会になっている。
そんな普通の人たちが、男女を問わず、老いも若きも、気軽に集まって、憲法を学び語る「憲法カフェ」のような場がもっともっと増えていったらイイナ。
(女性弁護士の法律コラム NO.202)
4月25日(土)の午後は、京都弁護士会館で、同会と日本弁護士連合会の共催で、講演会「『積極的平和主義』を問い直す」が開催された。
開場時間の午後1時少し過ぎに会場に行くと、もう補助椅子を出さなければならないほどのたくさんの聴衆が来場されていた。
第1部は、元自衛官の泥憲和(どろ のりかず)さんの講演。
泥さんは、中卒の1969年に陸上自衛隊入隊し、三等陸曹で退官したという経歴の持ち主。
自公が積極的平和主義の根拠として言う「危機」や集団的自衛権行使の「歯止め」がマヤカシであることをわかりやすく説明。
フィリピンのミンダナオ島では、日本人(JICA=ジャイカ)が武装なき停戦監視で学校再建などいかに重要な役割を果たしたか、そして集団的自衛権を導入することは日本への信頼を失わせることだと強調された。
また、自衛隊の機関誌「朝雲」では、安倍内閣に「もっと冷静沈着になれ」という記事が掲載されているとのこと。
更に、元自衛隊の幹部らが、あちこちの集団的自衛権に反対する集会で発言されていること。
などなど、普段ではなかなか聞けない話が語られ、実に面白かったし、勉強になった。
(女性弁護士の法律コラム NO.201)
日本の裁判は、3審制で、例えば、離婚訴訟であれば、家裁→高裁→最高裁と3回裁判を受けることができます。
ただ、最高裁は、上告理由がかなり制限されていますので、事実を争うことができるのは、2審までです。
しかも、離婚事件のような場合、家裁段階で本人尋問などたいていの事実関係の証拠調べは終わっていますので、証拠書類を追加で提出することは可能ですが、高裁でもう1度本人尋問をすることは、申請しても高裁が採用してくれることはかなりマレです。
昨年末頃、控訴審から離婚訴訟を引き受けてほしいとの依頼がありました。
それも、夫が妻に対し離婚を求めている事案での妻側からの依頼でした。
家裁での第一審は、別の弁護士が担当し、夫の離婚請求が認められてしまい、妻にとっては敗訴判決でした。
事案は、夫との夫婦関係の悪化と言うより、長年にわたって同居してきた夫の親からのモラルハラスメントとも言えるような行為が原因での夫婦の別居でした。
彼女の話では、家裁を担当した弁護士は控訴審で判決を覆すことは難しいと言っているということで、私も彼女が持参した家裁の判決だけを読む限り、かなり難しい気がしました。
しかも、控訴の理由書は、控訴してから50日以内に提出せねばなりません(民訴規則182条)。
でも、彼女の必死な姿に打たれ、引き受けることにしました。
理由書提出期限がちょうど年始早々になっていたので、とりあえず期限を2月まで延期してくれるよう裁判所に上申しました。
次に、家裁での訴訟記録一式が手元に届いたので、早速、読んでみました。
彼女が「離婚したくない」「夫婦としてやり直したい」と言っていたからでしょうか、意外にも、家裁段階では、夫の言い分に対する詳細な反論や義親から受けた仕打ちによる彼女の苦しみがにじみ出た書面などは提出されていませんでした。
そこで、家裁での尋問調書を丁寧に読み、「親族の不和」を離婚理由とする過去の判例を調べ、またモラルハラスメントの本も読んで、かなり力を入れて控訴理由書を書き上げ、更に彼女の苦しくつらかった思い、夫への愛情などを書いた陳述書も作成しました。
予想どおり、高裁は第1回で結審しましたが、すぐその日から、裁判官を間に入れた和解(話し合い)が始まりました。
裁判官は、夫の親との関係で彼女が置かれていた状況や気持ちを理解してくれた上で、そのことを含んだ条件をつけて和解離婚を勧めました。
そして、彼女も離婚を決意し、和解離婚が成立しました。
多くのDVやモラハラ被害の女性がそうであるように、同居している時には、彼女には、自分が受けている仕打ちがモラハラであるとは思いもせず、自分を殺し「嫁」として必死につかえてきました。
彼女は、別居後、カウンセリングなどを受ける中で、徐々に、冷静になってそれまでの自分を見直すことができるようになってきたと語っていました。
彼女の事件は、比較的短い期間で終わりましたが、何回も打ち合わせ、高裁への行き帰りの電車の中でも色々話をしたりして、割と「濃い」時間を共有できたと思っています。
もう今の彼女は、ひたすら耐える女性ではありません。
次に会う時がとても楽しみです。
(女性弁護士の法律コラム NO.200)
毎年、この時期になると、京都地裁の敷地の東・南・西の3方にある「しだれ桜」が見事だ。
ただ、今年は、ちょうど満開になる頃に雨が降った日が多かったので、満開になりきる前に、たくさんの花びらが散った。
昨日は、関東では雪が降り、思いがけず桜と雪のコラボレーションを見ることができたようだが、京都も晴天となったが、かなり寒かった。
依頼者のIさんが地裁の桜を見たいと言われたので、一緒にランチをした後、プラプラと地裁周辺を歩いた。
昨日は、地裁の南側にある御所南小学校の入学式で、着物などを着て正装した、たくさんの保護者が、しだれ桜をバックに子どもらの写真を撮っていた。
桜はかなり散っていたが、それでも、まだまだ見応えはあった。
(女性弁護士の法律コラム NO.199)
つくづく高齢者が長生きしづらい社会だと痛感した。
2013年4月13日付け当ブログで書いた難病を抱えた元依頼者のMさんがケア付き住宅に引っ越して丸2年になる。
京都市内中心部からは、かなり離れている場所なので、なかなか訪問することができずにいたが、数日前に久しぶりにMさんから電話をいただいたため、4月1日に会いに出かけた。
Mさんは、80歳。
自分で歩くことはできないが、車椅子に乗って、笑顔で出迎えてくれた。
別居中の夫からの婚姻費用とわずかな年金で、今の住居の費用を支払っているMさん。
そんなMさんに、この住居の保証人となってくれている子どもから、もしMさんが100歳まで長生きし、父親も死亡したりして仕送りができなくなったら、どうするんだ、自分は破産だ、他の子どもにも保証人になってもらえ、なんとかしろというような手紙が届いたという。
別居中の夫がいつどうなるか、Mさん自身が何歳まで生きるか、その時に子どもらはどのように対応するか、その時に今の政治や社会保障はどうなっているか、先のことなどはわからないにもかかわらず、その保証人になった子どもは心配でたまらなくなっているんだろう。
Mさんは、「子どもは、私に早く死ねということでしょうね」とつぶやいた。
今の日本の社会に、もっと豊かな社会保障制度があれば、Mさんも、また子どもも、こんな思いはしなかったはずなのに・・・
親が長生きすることは素晴らしいことであるはずなのに、それが子どもらの手かせ足かせになる・・・そんな社会では絶対にダメだと思った。
翌日、私の不在中にMさんから電話が入り、「とても喜んでいたとお伝えください」との伝言が添えられていた。
行って良かった。