(女性弁護士の法律コラム NO.225)
GW前の4月28日夜、「自衛官の人権弁護団・北海道」の佐藤博文弁護士の講演を聴いた。
安全保障関連法が今年3月29日から施行された。
集団的自衛権の行使が可能となり、自衛官の武器の使用が大幅に認められるようになるなど、自衛隊の活動の範囲や質はともに大きく変容した。
自衛隊員は海外で殺し、殺されるかもしれない。
そうした厳しい状況に置かれるのに、自衛隊員の人権や労働環境に関する議論が置き去りにされている。
北海道で、自衛隊員に関連する法律相談や訴訟を多数手がけている佐藤弁護士らは、全国でいち早く「自衛官の人権弁護団」を立ち上げ、自衛隊員や家族のための電話相談や元自衛官を招いた勉強会などを行っている。
佐藤弁護士は、私たちが知らない自衛隊の世界を生々しく語ってくれた。
自衛隊内のセクハラやパワハラ、退職強要、自殺。逆に、「辞めたい」と言っても辞めさせてもらえない、等々。
しかし、自衛隊員も、日本国憲法で人権が保障されている主権者である。
ドイツでは、「兵士である前に市民」という考え方があり、違法な命令や人間の尊厳を侵すような命令には従わなくていいとされている。また、労働組合のような組織があり、監視のため議会直属のオンブズマン制度もある。
また、アメリカには、戦死遺族の補償や帰還兵の治療支援に当たる体液軍人省があり、日本の防衛予算を上回る膨大な予算が付いている。
現役の自衛官が自ら声を上げることは難しい。
家族からの声を少しでもすくい上げることが求められている。
女性弁護士の法律コラム
(女性弁護士の法律コラム NO.224)
「不安がなくなるから死んでしまいたい」「長寿は罪」・・・
65歳以上の高齢者が3000万人を突破し、今もどんどん増え続けている日本社会。
「老後破産」「下流老人」「無縁社会」などの言葉が定着し、高齢者の貧困や孤立が大きな社会問題になっている。
長生きすることが罪・・・いつから日本はそんな国になってしまったのだろう。
今日は、NHKスペシャル「老人漂流社会」シリーズの担当プロデューサー板垣淑子さんの講演を聴きに行った。
成年後見センター・リーガルサポート京都主催で、専門職や福祉関係者対象の公開講座で、京都弁護士会にも案内が来たので、申し込んだ。
4月17日にNHKで同番組「老後破産」の衝撃的な映像を観ていただけに、今日の講演は是非とも聴きたかった。
板垣さんは、2010年「無縁社会」から始まり、2012年に「老人漂流社会」とタイトルを変えたNHKスペシャルの担当チーフプロデューサー。
板垣さんは、現在の日本社会で現実に起こっている、高齢者の非常に厳しい現状を映像を交えながら生々しく語られた。
月10万円の年金だけで、電気も止められ、素麺だけを食べて生活する一人暮らしの高齢男性。
行政の支援を拒否する、一人暮らしの認知症の高齢女性。
40代の息子が失職して一緒に住むようになったため、生活保護が廃止になってしまった高齢男性。
どれも現実の姿だ。
板垣さんが語った高齢者の現状は本当に悲惨なもので、高齢者が置かれているそのような生々しい現実の姿を伝えることは、すごく意義がある。
じゃあ、どうするのか?何ができるのか?
生活保護制度が権利であることを徹底することや、同制度の正当な運用の仕方で、少しの人は今より改善するかもしれない。
でも、それでも救われない人は少なくない。
その対策として、板垣さんが言われたのは、手元に生活費を一定額残すようにするというような制度間調整だけであり、彼女の本音は別として、やはりNHKの限界というものを感じた。
社会保障費が全く不十分なのだから、小手先の調整では、今後の超高齢化社会に対応できるはずがない。
アメリカの「フォーブス」誌の「日本長者番付2016」によると、日本の富裕層上位のたった50人が保有する資産の合計は、実に16兆4000億円にも上る。
政治を転換し、このような富裕層・大企業にメスを入れない限り、本当の問題解決、超高齢化社会への対応にはならないと思った。
(女性弁護士の法律コラム NO.223)
最近、あっちこっちで不倫が取り沙汰されている。
週刊文春に続き、本日3月24日発売の週刊新潮が、「『乙武クン』5人との不倫」と題して作家乙武洋匡氏の不倫の記事を掲載している。
不倫した芸能人らが、マスコミに対し、記者会見を開いて謝罪するのは、とても違和感を覚える。
貞操義務はあくまで夫婦の間の問題であり、マスコミが面白おかしく取り上げて騒いでいるだけで、世間に対し、謝罪する必要なんてない。
だから、乙武氏がホームページで早々に謝罪したことは、いくら有名人であっても変。
(ただ、記憶に新しい、宮崎元自民党国会議員の場合は、国民の代表である国会議員であり、育休宣言の裏に不倫があったり国会中にラブラブメールをしたりとか、これはダメね。謝罪は当然。彼が辞任したことによる補欠選挙に、2億円とか3億円とかかかるというから、明らかに税金の無駄遣い。)
ところが、それ以上に、今回の乙武氏の場合、本人の謝罪だけでなく、妻も謝罪のコメントを出している。
これは、きわめて異例。
「多くのみなさまにご迷惑をおかけしたことをお詫び致します」
「このような事態を招いたことについては、妻である私にも責任の一端があると感じております」
なんで、妻が謝るの?
妻の責任って? 夫に対する監督不行き届き?
妻は被害者じゃないの。
法律の上では、妻に責任はありませんよ。
乙武氏は、今夏の参議院東京選挙区に自民党の「目玉候補」として出馬予定と言われていた。
なんか、夫婦そろっての謝罪は、「自民党さん、ゴメンナサイ」と言ってるように聞こえてならない。
それとも国民向けの選挙対策?
こんなことがあっても彼は出馬するんでしょうか。
「国民の代表」としての政治家ではなく、別な道で頑張ってください。
(女性弁護士の法律コラム NO.222)
「保育園落ちた 日本死ね」
子どもが保育園に入れず、国に不満をぶつけるインターネットの匿名ブログが大きな反響を呼んでいる。
待機児童問題が深刻であることは、私たち弁護士も身近に感じている。
夫と別居し離婚協議中の妻が、なかなか復職できないケースがある。
単に別居中で離婚協議しているというだけでは、なかなか保育所入所の優先順位は上がらない。
家裁に離婚調停が係属していることの証明書を発行してもらった。
それでもダメ。
その後、調停離婚が成立。
やっと、4月からの入園が決まり、彼女の復職も決まった。
共働きの普通の夫婦なら、もっと入園順位は低くなるはず。
大切なのは、待機児童問題は、女だけの問題じゃないってこと。
男性ももっともっと声を上げて!「保育園に落ちたのは、私だ」と。
(女性弁護士の法律コラム NO.221)
福島原発事故が発生して5年目となる2016年3月11日の直前の3月9日、大津地裁は、再稼働中の福井県高浜原発3・4号機の運転差し止めを命じる仮処分決定を下した。
翌日以降、新聞各紙が決定内容を詳細に報じているので、決定内容の紹介はしないが、とりわけ決定の中で「発電の効率性でもって、甚大な災禍と引き換えにすべきとは言い難い」と論じられているところが、すべての出発だと私は思う。
福島では、未だにふるさとに帰れず、否、ふるさとを失った被災者が多数存在する。
電気料金や地元経済という経済効率などと比べものにならないほどの多くのものを福島では失ってしまったのである。
「福島原発事故の原因究明は・・・津波を主な原因として特定できたのかも不明だ」
「災害が起こるたびに『想定を超える』災害だったと繰り返されてきた過ち」
「事故発生時の責任を誰が負うか明瞭にし・・・避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要がある」
この裁判の弁護団長である元裁判官井戸謙一弁護士は、「裁判所は被災者に希望を持って震災5年を迎えてほしいと信じたい」と語る(2016年3月12日付け京都新聞朝刊)。
この決定を書いた山本善彦裁判長は、直接、会ったことはないが、私の大学の後輩だと思う。
井戸弁護士は「裁判官の世界で無難に生きようとすれば却下しただろう。それがこれまでの体制だった。山本裁判長は正しいと思う決定を出し、批判も含め反響も折り込み済みだろう。」と続ける。
福島原発事故を経ても、なおも、「原発を再稼働する方針に変わりはない」と発言する政府。
原発事故後も再稼働を容認する裁判官もいる中で、勇気ある決定に大きな敬意を表したい。
(女性弁護士の法律コラム NO.220)
2016年3月5日、日本弁護士連合会主催で、シンポジュウム「公平な離婚給付を考える」が開催され、参加しました。
場所は、東京の日弁連会館。
とは言っても、東京まで出かけたわけではありません。
最近は、便利なもので、インターネットを通じたテレビ中継により、京都にいながら、東京のシンポジュウムを視聴することができます。
私は、京都弁護士会会館で、シンポジュウムのテレビ中継を観ました。
今回のシンポジュウムは、現在の実務における離婚に伴う財産分与が、本当に夫と妻との間の「公平を確保する」という要請に応えられているであろうか、という問題提起でした。
確かに、現在の実務での財産分与は、たとえ妻が専業主婦であっても、名義のいかんを問わず、婚姻中に形成され残っている財産について、原則2分の1での分配が認めらています。
しかし、例えば、夫の転勤などの理由により、やむなく妻が仕事を辞めたような場合、夫のキャリアは離婚後も継続しますが、妻の方の再就職はママなりません。
また、例えば、夫が自分の収入を自由に浪費し、他方妻が懸命にやりくりして貯蓄を作った場合、それも半分は夫に分与しなければならないのか、など、現実に離婚事件に関わっていると、単純に2分の1にするのでは納得できないケースも少なくありません。
今回のシンポジュウムでは、犬伏由子慶応義塾大学法学部教授による諸外国の財産分与制度に関する講演も交えながら「現実の財産分与は公平か」という問題提起がなされ、わが国の判例や学説の紹介などもありました。
実務の壁を破ることはなかなか簡単ではありせんが、今後、離婚事件において「公平な財産分与」という視点をもっと追及していこうと思いました。
(女性弁護士の法律コラム NO.219)
今日は、京都市ひとり親家庭支援センターで「離婚について」というタイトルで、お話をしてきました。
対象は、京都市在住のひとり親家庭の親のようですが、現在、離婚を考えている方も参加されていました。
主催者からは「離婚の手続きや法律についての話をしてください」とのリクエストでしたが、一般的な説明以外に、統計数字や、私がこれまでの弁護士経験の中で感じたことなどを織り交ぜてお話しました。
2015年の離婚の推計値は22万5000組で、これは、2分20秒に1組の夫婦が離婚していることになります。
離婚って、全然珍しいことではないんですよね。
参加者の方と話をする中で、やはり、離婚を考えた時、離婚する前に、専門家に相談して、色々な知識を得ておいた方が良いと思いました。
どうぞ、お気軽にご相談ください。
(女性弁護士の法律コラム NO.218)
男女雇用機会均等法が施行されたのが、1986年4月。
今年4月で、丸30年となる。
私が弁護士になった頃、雇用における男女平等を定める法律はなく、真の男女雇用平等法を作ろうと、女性労働者たちは全国で様々な運動を展開していた。
私も新米の女性弁護士として、それらの運動に関わり、講演なども多数行った。
しかし、その後1985年に成立した均等法は、採用などが努力義務となるなど、不十分な内容だった。
それでも、日本で初めて、雇用における男女平等を定めた法律ができたことは、女性運動の大きな成果だったし、成立後も、様々な分野で、均等法を活用した女性たちの闘いが展開されてきた。
そして均等法施行から30年。
日本の男女平等は進んだのだろうか。
2016年1月24日付け京都新聞朝刊の1面トップは、「女性総合職1期8割退社」という見出しだった。
均等法が施行された1986年に大手企業に入社した女性総合職のうち、昨年10月時点で約80%が退職していたという報道だった。
共同通信のアンケートによって、企業の基幹業務を担う幹部候補生である総合職となった大卒女性1期生たちが、長時間労働、育児と仕事の両立支援の遅れなどにより、現在50代前半で、多くが仕事から、当初の仕事から離れている現実が明らかとなった。
確かに、30年前とは職場の状況は大きく変化したと思う。
公務員はもとより、私たちに身近な法律事務所などの民間の職場でも、育児休暇などを取得する労働者も増えていることは事実だ。
しかし、均等法1期生の女性たちの8割もが職場から離れている現実は、30年経っても、雇用における男女平等が実は遅々として進んでいない現状を物語っているのではないだろうか。
そして均等法施行10年目や20年目の女性たちは、今、どうしているだろうか。
国は、女性の活躍推進を目玉政策として打ち出している。
単にかけ声だけでなく、均等法施行30年を機に、職場の実態を把握し、女性が本当に活躍できる制度や条件を作ってほしいと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.217)
昨年12月、私が所属している弁護士グループの主催で、「マイナンバー制度の問題点」の勉強会が開催されましたので、参加しました。
講師は、日本弁護士連合会情報問題委員会委員長の坂本団弁護士(大阪弁護士会所属)。
坂本弁護士は、マイナンバー制度の問題点を非常にわかりやすく解説され、勉強になりました。

マイナンバー法の正式名称は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」。
マイナンバーというのは、あくまで行政機関における事務を効率化するための制度で、民間の事業者や個人がそのために「お手伝い」をするという制度なんです。
ですから、現時点では、国民にはほとんどメリットはありません。
制度が始まる以前から、マイナンバーの流出事故が報道されていますが、番号や個人情報の不正利用や改ざんなどにより、本人に「なりすまし」て財産その他の被害を負うおそれも指摘されています。
アメリカでは、深刻ななりすまし被害が増大し、2006~2008年の3年間で1170万人、損害額が毎年約5兆円と報告されています。
もし、今後、マイナンバーの利用範囲が拡大されれば、逆に、不正利用の危険性も高まると言えるでしょう。
また、マイナンバー法は、定められた目的以外で、個人番号を他人に提供したり、他人の番号を収集したりすることを禁止しています。
ですから、例えば、いくら自分の番号だからと言って、ブログやtwitterなどに番号を掲載することはできません。
また、客が身分証明書代わりに個人カードを店舗に提示しても、店が個人カードの裏面をコピーしたり、番号を書き取ったりすることは許されません。
(2016年1月8日付け京都新聞夕刊)。
国は、個人番号カードの普及に全力をあげていますが、悪用された時のリスクを考えると、取得するか否かは慎重に判断した方が良いと思います。
(女性弁護士の法律コラム NO.216)
当時、厚生労働省事務次官であった村木厚子さんが最高検察庁によって逮捕されたのは2010年9月。
その後、大阪地検特捜部の前田恒彦検事(当時)が証拠のフロッピーを改ざんしたことが明るみとなり、村木さんは無罪となった。
他方、前田氏は、その後、実刑判決を受け、受刑者となった。
2014年5月、京都弁護士会は、前田元検事を招き、全面証拠開示・全面可視化のシンポジュウムを開催した。
前田氏服役後、初めての講演だった。
彼が語る捜査の実態は生々しくリアルで、被疑者・被告人にとって有利な記述の削除や不利な供述だけを調書にする方法が実際に行われていると語った。
そして、前田氏は、今年1月5日までに、共同通信の取材に応じた(2016年1月6日付け京都新聞朝刊)。
証拠改ざんについては「最低でも官僚の立件」という誤った方針が先にあって罪を犯したこと、証拠は「検察のもの」として不利なものは隠すという歴史の末に改ざん事件があるなどと回想した。
「独善的な正義感に酔いしれていた」と当時を振り返るとともに、全事件での取り調べの録音・録画(可視化)の義務づけや被告人・弁護側に全証拠開示する必要性を強調した。
前田氏の事件以後も、検事が取調室で被疑者にカッターナイフを示したり、自白と引き換えに便宜を持ちかけたりする問題が表面化し、検察庁の体質は変わっていないのではないかと思わざるを得ない。
前田氏には、様々な所から「圧力」があるようだが、それらに屈せず、どんどん発言し、検察機構を改革する力となってほしいと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.215)
2016年1月から本格的に運用が始まるマイナンバー制度。
個人情報が漏洩される危険性が高く、憲法が保障するプライバシー権を侵害するとして、2015年12月1日、弁護士や住民ら計156人が、国を相手にマイナンバーの利用停止や削除を求める「マイナンバー違憲訴訟」を一斉に提起しました(2015年12月1日付け京都新聞朝刊)。
提訴したのは、仙台、新潟、東京、金沢、大阪の5地裁です。
今後、横浜や名古屋、福岡でも提訴が予定されているようです。
訴状では、マイナンバー制度は、個人情報を本人の同意なく集めており、自分の情報がどう使われるかをコントロールする権利を侵害していると主張。
さらに、セキュリティ対策が不十分で、民間から個人情報が漏れ、成りすましの被害に遭う恐れもあるとしています。
先日もこのブログで書きましたとおり、私もマイナンバーについては、大きな不安や危険性を感じていますので、まだ通知カードを受け取りに行っていませんし、個人カードを申請しようとも思っていません。
でも、もう私に番号はつけられてしまっていますし、行政側からどこかへ番号が漏れてしまうことは当然あり得ることです。
訴訟の推移に注目していきたいと思っています。
(女性弁護士の法律コラム NO.214)
私の離婚事件の元依頼者女性が、今年夏にガンで亡くなった。
私よりずいぶん若かったのに・・・未成年の子どもを残して・・・
実は、彼女は、数年前、ガンの手術を受ける1週間前に、私のところに法律相談に訪れた。
自分に万が一のことが起こった場合に、未成年の子どもの親権だけが気にかかるという相談だった。
民法839条には、「未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる」と定められている。
それで、彼女に遺言を書いておくことを勧めた。
彼女が亡くなったという知らせを母親からもらった時に、私は母親に、彼女の遺言の有無を尋ねたが、母親自身は「知らない」とのことで、「時間ができたら探してみます」と言われた。
その後も気がかりだったが、つい先日、遺言が見つかったようで、その遺言には、未成年者の後見人として、ちゃんと母親(未成年者の祖母)が指定されていた。
今後まだいくつか手続きがあるが、ひとまず、天国の彼女も少し安心しただろう。
(女性弁護士の法律コラム NO.213)
11月第1週が過ぎましたが、皆さんの所には、もう、マイナンバーの通知カードは届きましたか?
私の周囲では、まだ「届いた」という声は聞かれません。
法律コラムや当ブログで、少しだけ、マイナンバーの通知カードの授受についての一般論を書きましたが、実は、私自身は、マイナンバーは欲しくない、できれば通知カードを受け取りたくないと思っています。
マイナンバーの法律の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。
赤ちゃんからお年寄りまで、すべての国民に12桁の番号をつけて、個人情報を一元的に管理するというもので、基本的に番号は一生変更できません。
要するに、国民総背番号制です。
その意味では、いくら私が欲しくないと言っても、既に番号はつけられてしまっています。
10月5日以降に住民票所在地に簡易書留で送られてくるのは、マイナンバーが記載された通知カードと個人番号カードの申請書です。
ICチップが入った個人番号カードの申請は任意ですから、申請をしないかぎりは個人番号カードが自動的に発行されることはありません。
雑誌「ねっとわーく京都12月号」では、国民にとってのマイナンバーのメリットは「まったく無い」と書かれています。
憲法13条(個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉)に違反するということで、訴訟の準備をすすめている弁護士グループもあります。
政府は、暮らしに役立つ便利なカードのように言っていますが、紛失した時に悪用される危険性や個人情報をすべて国が収集することになるなど、多くの問題点が指摘されています。
個人番号カードをなくした場合、紛失届を出せば再発行されますが、単に「落とした」というだけで番号そのものを変更してもらうのは難しいようです。
では、どうしたらよいでしょうか。
個人番号を記載しなければ、行政上の給付を受けられないかのような宣伝がなされていますが、法律ではそのような強要はできないことになっています。
通知カードを受け取りたくない場合でも、番号をどうしても知りたければ、住民票を請求するときに請求すれば、個人番号を記載した住民票の写しを受け取ることができます。
国税当局に提出する申告書や法定調書等の税務関係書類には個人番号や法人番号を記載することが義務付けられています。
ただ、国税庁のホームページでも
「個人番号・法人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません」
「個人番号・法人番号を記載しなかった場合や誤りがあった場合の罰則規定は、税法上設けられておりません」
と書かれています。
カードを落として、なりすましで犯罪にまきこまれる可能性のあるカードは申請したくありませんし、できれば廃止してほしいと思っています。
(女性弁護士の法律コラム NO.212)
マイナンバーの通知カードを住民票の住所以外の場所で受け取る特例措置に関し、DV被害者を支援しているNPO法人全国女性シェルターネットは、居場所を書いた書類を自治体に提出することをためらい、断念する被害者が相次いでいるとして、総務省に配慮を求める要望書を提出しました(2015年10月15日付け京都新聞夕刊)。
10月5日からマイナンバーの通知カードを住民票の住所に郵送する手続きが始まりました。
他方、新聞報道によると、茨城県や北海道の自治体で、職員が住民票に誤ってマイナンバーを記載するというミスも既に起こっています。
個人情報が漏れるのではないか、悪用されるのではないか、マイナンバーに関する不安は増すばかりです。
9月7日付け法律コラムで、DV被害者など住民票の住所以外に居住している方についての特例措置についてご紹介しました。
ところが、同ネットによると、ある被害女性が手続きをしようとしたところ、戸籍謄本や住宅の契約書など書類7点の提出を求められ、「出せば加害者に居場所を知られるかもしれない」と恐怖を感じ、申請を諦めたといいます。
また、あるDV被害女性は、番号変更してから受け取ろうとしましたが(不正利用の恐れがある場合には例外的に変更ができます)、応対した職員から「DV被害証明が必要」と言われた上、被害に遭ったのが数年前だったことから「差し迫った危険はないので、制限できない」と告げられたそうです。
このように自治体によって対応がさまざまで、しかも、自治体によるミスが続いており、DV被害者は安心して居住場所を連絡することができないのが現状です。
同ネットは、総務省に対し、10月8日付けで要望書を提出し、その中で、DV被害者が番号変更を求めた際は現在の居所情報や被害証明を求めないこと、マイナンバーを担当する職員にDV被害者の安全配慮に関する研修を徹底することなどを求めました。
(女性弁護士の法律コラム NO.211)
1961(昭和36)年3月に起きた名張毒ぶどう酒事件の死刑囚奥西勝さん(89歳)が、10月4日死亡と報道された。
奥西さんは、長年、再審無罪を訴えて来られたが、結局、存命中には、その扉は開かなかった。
さぞかし無念だっただろう。
心からご冥福をお祈りします。
ところで、こうした「えん罪」が強く疑われる事件の再審請求を支援しようと、国内の研究者たちが、来春4月、立命館大学を拠点にネットワークを立ち上げる(2015年10月3日付け京都新聞夕刊)。
米国では、1992年から「イノセンス・プロジェクト」が始まっており、受刑者の無実の訴えに基づき、学者やジャーナリスト、弁護士らが新証拠を収集。
DNA鑑定などの新技術や従来の構図と異なる観点を基に事件の問題に光をあて、死刑囚を再審無罪につなげた例もあるとのこと。
同様の試みは、フランス、オーストラリア、台湾など国際的に広がっている。
現在、立命館大学以外の心理学者や法学者、弁護士も関与しながら、「日本版」の制度設計が進んでいるようだ。
このような新しい動きに、大いに期待したい。
(女性弁護士の法律コラム NO.210)
9月7日付けの法律コラムでも書いたが、10月5日から、いわゆるマイナンバー法が施行されるということで、配偶者と別居し、住民票の住所地に居住していない人たちから色々と心配する声が寄せられている。
マイナンバーの通知カードは、10月5日以降、住民票の住所地に世帯ごとに簡易書留で送付されることになっている。
「やむを得ない理由で住民票の住所地で受け取ることができない方は、8月24日から9月25日までに、居所情報登録申請書を住民票のある住所地の市区町村に持参又は郵送してください」と広報されているが、いったい、どのくらいの人が、この広報の内容を知っているのだろう。
9月25日はもうすぐだ。
私の依頼者の中には、新聞も読まないし、テレビもあまり観ないという女性がいる。
彼女も住民票を住所地に置いたまま別居しているので、メールで連絡した。
また、元依頼者の中には、離婚せず別居のままという女性もいるので、久しぶりに電話をかけてみた。
彼女は、既に居所情報登録申請書を提出し認められたと言っていたので安心した。
彼女は、言葉によるDVで自宅を離れ、確か、警察などには相談に行っていないはず。
そこで、「DV被害者としての公的な証明がなくても、申請は認められたの?」と尋ねると、詳しく別居した事情を説明し記入したら認めてもらえたと教えてくれた。
DV被害者として、警察や配偶者暴力相談支援センターなどの証明がなくても、きちんと事情を説明すれば、申請は受理されるよう。
これも安心した。
ただ、行政のミスでDV被害者の居所が漏れることも頻発しているので、居所登録情報申請書を提出したくない人もいるだろう。
そのような場合には、後日、身分証明書を持参して、住民票の住所地の役所に直接受領しに行くしかないであろう。
個人情報保護の観点からはとても問題の多いマイナンバー制度にふりまわされるのは、とても腹立たしい。
ただ、とりあえず、周囲に別居している人がいたら、これらの情報を教えてあげてくださいね。
(女性弁護士の法律コラム NO.209)
「私は、中立公正を本質とする最高裁の判事の職にあったことを考慮し、単なる政策の当否に関する政治問題については、発言を控えてきました。」
「しかし、国を運営する元となる憲法の大原則に深刻な変更が加えられるとすれば、全く別の問題になります。」
「法律家として、いうべきことをきちんという社会的責任がある、と考えます。」
こう語ったのは、2006年5月から2012年2月まで最高裁判事であった那須弘平さん。しんぶん赤旗のインタビューに答えた(2015年9月8日付け)。
那須さんは、
一内閣の閣議決定で憲法解釈を変更するには限界があり、集団的自衛権行使は違憲といわざるを得ない、
尖閣列島や北朝鮮などの問題は、外交で解決すべき問題である、
憲法前文は、「日本が不戦を約束した誓いの言葉」であり、アメリカ独立宣言、フランス人権宣言に匹敵する、
憲法の理念が破壊されようとしている今、前文の誓いを十分に果たしたと言えるか、国民一人ひとりが自身の良心に問うてみる必要がある、
などと語った。
参議院での安保法案審議が、来週にもヤマ場を迎えると報道されている。
主権者である私たち国民一人ひとりが、大きな反対の声をあげましょう。
(女性弁護士の法律コラム NO.208)
昨年10月に、最高裁が「妊娠による降格は男女雇用均等法が原則禁止しており、本人の同意がなければ違法」と初めて判断したことをうけて、厚生労働省は、今年3月末、育児休業の終了などから原則1年以内に女性が不利益な取り扱いを受けた場合には、直ちに違法と判断することを決めました。
そして、9月4日、厚生労働省は、妊娠を理由とした解雇をやめるよう求めた勧告に従わなかったとして、男女雇用機会均等法に基づき、看護助手の女性を解雇した茨城県内の病院名を公表しました(2015年9月5日付け京都新聞朝刊)。
マタニティーハラスメントで企業名を公表をするのは、初めてです。
勧告に従わなかった病院は、茨城県牛久市の「牛久皮膚科病院」です。
看護助手の20代女性が、院長に妊娠を報告したところ、約2週間後に「妊婦はいらない。明日から来なくていい」と突然解雇を告げられたそうです。
この病院は、労働局から口頭や文書で指導されても、解雇を撤回せず、厚生労働大臣が初の勧告を行いましたが、「均等法を守るつもりはない」などと答えたため、企業名公表に踏み切ったとのことです。
マタハラがこれほど社会問題化しているにもかかわらず、まだまだ職場の中ではマタハラが横行していることを痛感しました。
企業名公表が、マタハラは違法であることの認識を広めることやマタハラ抑止に働くことを期待します。
被害にあった場合には、 泣き寝入りせず、声をあげていくことが大切ですね。
(女性弁護士の法律コラム NO.207)
とうとう、元最高裁長官の口からも、安保法案は「違憲」の発言がなされた。
元最高裁長官山口繁氏は、8月3日、共同通信の取材に応じ、安保法案について「集団的自衛権の行使を認める立法は憲法違反と言わざるを得ない」と述べた(2015年9月4日付け京都新聞朝刊)。
山口氏は、1997年10月から約5年間、最高裁長官を務めた。
政府や与党が1959年の砂川事件最高裁判決を法案の合憲性の根拠として持ち出していることから、私は、最高裁判事経験者は、このような政府の見解をどのように思っているのだろう、元裁判官は誰も発言しないのだろうか、などとずっと思っていた。
多数の憲法学者が「違憲」と指摘されていることについて、高村自民党副総裁は「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と強調した。
しかし、ここに来て、その「憲法の番人」である最高裁の元長官が初めて意見を表明した。
画期的なことだし、それほどまでに現在の政府や与党のやり方が無茶苦茶だということの現れだ。
山口氏は、砂川判決に関し、当時の時代背景を踏まえ「集団的自衛権を意識して判決が書かれたとは到底考えられない。憲法で、集団的自衛権、個別的自衛権の行使が認められるかを判断する必要もなかった」と語った。
更に、
従来の解釈を変えるなら「憲法を改正するのが正攻法」
こうした憲法解釈変更が認められるなら「立憲主義や法治主義が揺らぐ」
などとも述べた。
政府・与党の独裁政治に、多くの人が声を上げ始めている。
安保法案が廃案しかないことは明らかだ。
(女性弁護士の法律コラム NO.206)
Eさんの事件を担当し始めて、途中、空いた年月はあったものの、もう数年が経過する。
長いつきあいになった。
Eさんは、60代後半で、一人暮らしの女性だ。
通常、事件を担当していても、依頼者のプライバシーのことは、事件に必要な範囲あるいは雑談程度にしか聞くことはない。
Eさんも、高齢者の域には入ってきたが、パートで頑張って働いていると聞いていたので、普通に生活しているものと思っていた。
ところが、最近になって、借家の家賃を滞納していることがわかり、相談を受けた。
必然的に家計状況を尋ねることとなり、かなりの金額の家賃滞納と、ほかにも借金があることがわかった。
元々、計画的に金を使えない性格であることは、知っていたが、反省して、堅実に生活しているものと思っていた。
「食事はどうしているの?」と尋ねると、節約のため、ほとんど毎日おにぎりなどですませているとのこと。
それでも「葬式代だけは貯めてますから」と言う彼女。
「死んだ後より、生きてる今の方が大事じゃないの!」と腹が立ったが、日本人やなあと哀れささえ感じた。
お中元でいただいたサラダ油があったので、それをさしあげたら、「これで、もやし炒めができる」と嬉しそうだった。
Eさんは大金を手にしていた過去もあり、自業自得と言えば、それまでだが、高齢になり、今はまだ元気で働けているが、これから先が心配だ。