1. 女性弁護士の法律コラム

女性弁護士の法律コラム

DV防止法(正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)の改正が2023年5月12日成立しました(施行は2024年4月1日)。

 

DV防止法は、被害者からの申立てにもとづき、裁判所が相手方配偶者に対し、被害者の身辺へのつきまといや住居等の付近の徘徊などの一定の行為を禁止する命令を出す制度です。

 

今回の改正では、DV被害に「自由、名誉、財産に対する脅迫」が追加され、「精神的DV」が保護命令の対象に加わりました。

また、接近禁止命令等の期間を6ヶ月から1年間に伸長しました。

禁止する連絡手段には、電話やメールだけでなく、緊急時以外の連続した文書の送付やSNSの送信も加えられました。

更に、命令違反の場合の罰則も強化され、現行の「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」となりました。

 

被害者保護が保護が強化された内容となっています。

 

ただ、神奈川大学井上匡子教授が指摘されるように(2023年5月13日付け京都新聞夕刊)、日本のDV防止法は、被害者が逃げることが前提とされており、海外のような「DV罪」の新設や加害者の更生プログラムの導入も検討されるべきと思われます。また、自治体毎で被害者支援の内容が異なるため、全国どこでも充実したサポートを受けられる体制を国が作ることが求められます。

 

 

2023年5月9日付け朝日新聞夕刊に面白い記事が掲載されていた。

黒部峡谷にある宇奈月温泉で「権利ノ濫用除お守り」ができた。

権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事を除(よ)け、良い縁を結ぶお守りだという。

 

私たち法律家は、法学部の大学生時代、「民法総則」という法律を学び始める最初の頃にこの「権利の濫用」という言葉を学ぶ。れっきとした法律用語だ。

その時に出てくる事件が「宇奈月温泉木管事件」。1935(昭和10)年10月5日に大審院の判決が下されている。

当時、宇奈月温泉は、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。その際、約2坪の土地について利用の許諾を得ていなかったところ、この土地を購入した所有者が、温泉を運営する黒部鉄道(当時)に対し、木管の撤去と立ち入り禁止を求めて訴えたという事件である。

大審院は、双方の利益を比べ、土地所有者の主張を「権利の濫用」として訴えを退けた。

大審院が「権利の濫用」を初めて明示した判決であった。

 

そして、現行民法1条3項に「権利の濫用は、これを許さない」という規定が設けられた。

 

更に、上記新聞記事を読み進めると、宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があるとのこと。宇奈月温泉には何度か訪れたことがあるが、これは知らなかった。1度訪れてみたいものだ。

 

そして、訪れた人に喜んでもらえる土産ができないかと議論の末に生まれたのが宇奈月神社の「お守り」だった。今年4月初めから発売されて1週間で欠品になるなど予想以上の反応で、全国から取り寄せ希望もあるとのこと。

 

「権利の濫用」が思わぬ町起こしに役立っている。

 

 

 

 

 

2023年4月20日付け朝刊各紙は、団藤重光元最高裁判事(1913~2012)の遺稿の直筆ノートに、夜間飛行差し止めを巡って争われた「大阪空港公害訴訟」で国側の介入を示唆する記述があったと報道した。

 

これは、団藤氏の資料を保管・分析する龍谷大学が同年4月19日発表したもの。

 

団藤重光氏と言えば、刑事法の大家であり、私が司法試験を受験していた頃、団藤氏の刑法の教科書は受験生であれば誰もが必ず読むバイブルのような本であった。

また大阪空港公害訴訟も司法試験受験生が必ず勉強する判決の1つであった。

 

団藤氏は、東大法学部教授などを経て1974~83年に最高裁判事を務めた。

「大阪空港公害訴訟」は、大阪(伊丹)空港の飛行機の騒音に苦しむ住民らが国を相手取り、1969年に夜間差し止めや損害賠償を求めた裁判である。1審の大阪地裁に続き、1975年に2審大阪高裁でも夜間飛行差し止めが認められたが、最高裁は1981年12月一転して差し止め請求を却下した。同訴訟は、最高裁が初めて審理した本格的公害訴訟だった。

 

同訴訟は、当初、団藤氏が所属していた最高裁第1小法廷に係属し、1978年5月に結審。同小法廷は、2審判決を支持することを決定していた。

ところが、判決を控えた1978年7月18日、国側が大法廷に回付を求める上申書を提出。

団藤氏のノートには、第1小法廷の岸上康夫裁判長(当時)から聞いた話として、翌19日「(最高裁の)村上(朝一)元長官(1973~76年の最高裁長官)から(当時の)長官室に電話があり・・・法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由」と記されていた。

団藤氏は「この種の介入は怪(け)しからぬことだ」とノートに憤りを記した。

結局、審理は1978年8月大法廷に移り、1981年12月、結論は覆り、差し止め請求は却下された。

 

憲法は「すべての裁判官は良心に従い独立して職権を行い、憲法と法律にのみ拘束される」と定めている(76条3項)。

しかし、元長官とは言え外部から介入し、それが圧力となったことは、まさしく司法の独立を侵害したものにほかならない。

 

結局、その後に続く厚木基地公害訴訟や横田基地公害訴訟など、差し止め請求を認めない流れを最高裁は作ったのであった。

 

団藤ノートは多数残されており、司法の歴史を検証する上で、間違いなく重要な資料になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最新法令:その他)相続土地国家帰属法

近年、故郷の不動産を相続したが、「住むつもりはない」「管理が大変」などという声が聞かれます。そのため、土地が管理されないまま放置され、そのうち所有者がわからなくなったりして問題となっています。

そのような人を対象に制定されたのが「相続土地国庫帰属法」です。土地を国に引き取ってもらうことが可能となりました。

2023年4月27日から施行されます。

 

法律の対象となる土地は、どんな土地でも良いというわけではありません。

申請できるのは、相続または遺贈によって土地を取得した人です。

 

そして、以下のような場合、申請できません(却下事由)。

例えば、建物がある、抵当に入っているなど担保権や使用収益権が設定されているなどです。

また、申請しても、承認されない場合もあります(不承認事由)。

いくつかの要件が、法務省のホームページで公開されています。

 

申請は、その土地を管轄する法務局で行います。審査手数料が必要で、土地1筆につき、14,000円です。

 

また、法務大臣に承認されて引き取りが認められも、通知を受けた日から30日以内に負担金を納付しないといけません。負担金は、土地の種目に応じて、10年分の標準的な管理費用を考慮されて算出されます。

 

詳細については、法務省のホームページをご覧ください。

 

 

 

夫婦関係がうまくいかず別居した場合、配偶者が生活費(婚姻費用)を支払ってくれず、また援助してくれるような親族もいないような場合には、生活保護に頼らざるを得ません。

 

とりわけ女性の場合、同居中、専業主婦であったり、パート収入しかないような場合には、すぐに正社員の職場を見つけることは困難です。

 

そのような場合、「生活保護を受けていても、離婚の際に子どもの親権者になれますか?」という相談を受けることがあります。

 

大丈夫です。

 

親権は、子どもを一人前の社会人にするために監護・養育する親の責務というべきものですから、親権者をどちらにするかということは、何より子どもの利益、子どもの福祉を中心に決められるべきものです。

権の決定にあたっては、父母の心身状況、監護・養育の条件、子どもの年齢や意思、現在の監護の状況などを総合的に考慮して決められます。

父母の経済的事情も判断材料の1つではありますが、重視されるわけではありません。なぜなら、本来は、養育費をどのように負担し合うかの問題だからです。

 

きちんと生活保護を受けて、子どもを育てていくことの方が重要です。

 

 

(最新法令:労働)デジタル給与解禁

雇用主が労働者に支払う給与(賃金)は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと法律は定めています(労働基準法24条1項)。

これまで、その例外としては、労働者が個別に同意すれば、労働者が指定する本人名義の預貯金口座などへの振込の方法で支払うことが認められていました(労働基準法施行規則7条の2)。

 

これに加えて、昨年11月に省令が改正され、2023年4月からは、給与をスマートフォンの決済アプリなとで受け取れるデジタル払いも可能になります。

 

電子マネー等の取扱事業者の申請が4月1日以降始まり、厚生労働省が審査で認めた企業が対象となります。

審査には数ヶ月かかると言われています。

 

雇用主が、職場に導入する場合には、労働者の過半数代表者等と一定の事項について労使協定を締結する必要があります。

その上で、個別に労働者の同意を得る必要があります。強制はできません。

 

ただ、一番の問題は、電子マネー事業者が経営破綻した際の利用者の保護です。

銀行口座なら、銀行が破綻しても、預金保護制度によって元本1000万円が保護されます。

厚生労働省では、事業者に対しては破産等による債務の履行が困難になった際には速やかに保証するしくみを求めていますが、実際に破綻した場合にそれが機能するかは不透明です。

 

また、事業者への不正アクセスによる個人情報流出の問題もあります。

現行民法では、隣地の竹木の枝が境界を越えて伸びてきた場合、自分で切ってしまうことができず、所有者に切除させる必要がありました(民法233条1項)。

しかし、切除を求めても応じてくれない場合や所有者不明の場合などについての規定はありませんでした。訴訟を起こす方法もありますが、時間と労力がかかりすぎます。

 

そこで、この点につき、2023年4月1日施行の改正民法で、所有者に枝の切除を求めたにもかかわらず、相当期間内に切除しない時や所有者不明の時で、急迫の事情があるときには、隣地の枝を自分で切ることが認められました(民法233条3項)。

「離婚したいけれど、先に離婚を口に出した方が不利ですか?」という相談を時々受けることがあります。

 

そんなことはありません。

 

離婚できるか否かは、そもそも夫婦の間に離婚原因(民法770条)があるかどうかに関わりますし、慰謝料が取れるかどうかは離婚に至る主たる責任が相手にあるかどうかで決まりますので、どちらが先に「離婚」を切り出したかで有利不利ということはありません。

 

これに関係して、「先に家を出た方が不利ですか?」という相談を受けることもあります。

 

確かに夫婦には同居義務があります(民法752条)から、「ここがイヤ」「あそこがイヤ」という単純な理由で別居というのは、不利になることもあるかもしれません。

でも、いくら努力しても、夫婦関係が改善しない、あるいは気持ちが通じ合えないような場合には、同居を続けること自体で、自分が精神的に追い込まれていく結果にもなりかねません。

そんな時は、思い切って別居をしても不利になることはありません。

 

 

 

 

隣り合う土地を所有する者同士が、自分が所有する土地を利用しやすいように調整し合う関係のことを「相隣関係」と言います。

 

民法は「相隣関係」について定めていますが、2021年4月21日に成立した民法改正で、これまで規定がなかったライフラインに関する規定が新設されました(施行は2023年4月1日です)。

 

ライフライン設備というのは、電気・ガス・水道など継続的給付を受けるための設備のことです。生活に不可欠な設備ですが、これらの設備を使用するため、他人の土地や設備などを利用しなければならない場合もあります。

 

そこで、民法は、必要な範囲で他の土地にライフラインを設置する権利、及び、他人が所有するライフラインの設備等を使用する権利を新たに定めました(213条の2、213条の3)。

 

ライフライン設備の設置・使用の場所や方法は、他の土地または他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(213条の2の2項)。

そして、あらかじめ、その目的、場所や方法を他の土地所有者や他の土地の使用者に通知しなければなりません(213条の2の3項)。

必ず事前に通知しなければならず、事後的通知は認められません。他の土地の所有者が不明な場合には、公示による意思表示(民法98条)によることとなります。

また、通知から設備の設置・使用までは、相手方が準備をするための必要な合理的期間をおく必要もあります。

 

更に、設備を設置あるいは使用する場合には、償金(応分の負担)を支払わなければなりません(213条の2の5~7項)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民法は、隣り合う土地を所有する者同士が、土地を利用しやすいように調整するための規定を定めています。

これを「相隣関係規定」と言います。

2021年4月21日成立の改正民法において、この相隣関係の規定の改正もされました。施行は2023年4月1日からです。

 

現行民法によると、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修善するために必要な範囲内で、隣地の使用を請求できる」とされていました(209条1項)。

例えば、境界付近にある建物の外壁工事をするため、一時的に隣地に入らざるを得ないような場合です。

 

今回、民法209条が改正され、隣地を使用する範囲が拡大されました。

具体的には

・境界又はその付近における建物などの工作物を築造したり、収去したり、修善する場合

・土地の境界標を調査したり、境界に関する測量をする場合

・自分の土地に伸びてきた、隣地の枝を切る場合(民法233条3項)

 

土地の所有者は、要件を充している場合には、隣地の所有者の承諾がなくとも隣地を使用することができ、事前に連絡を受けた隣地の所有者は使用を拒むことができません。

 

また、不動産登記簿や住民票などの公的記録で確認しても、隣地の所有者の名前やその所在がわからないため事前の通知が困難な場合には、隣地の所有者が判明したときに通知することで足りることになりました(209条3項但し書)。

 

もちろん、使用の日時や場所・方法は、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりませんし、もし隣地所有者が損害を受けた場合にはその賠償を請求することができます(209条2・4項)。

 

遺産分割をしないまま、放置されている遺産はありませんか?

 

現行民法では、遺産分割については、被相続人の死亡後何年経過しても、分割方法や分割割合について自由に協議することができます。その意味で遺産分割に「時効」はありませんでした。

しかし、遺産が何年も放置されたまま相続人が死亡したりして相続が繰り返されると、遺産の管理や処分が困難となり、とりわけ不動産については「所有者不明土地」が生じる原因にもなっていました。

 

そこで2021年4月に成立した改正民法によって、2023年4月1日からは、相続開始時から10年経過後にする遺産分割は、原則として法定相続分(民法が定めた遺産の取り分)によることになりました(民法904条の3)。

 

注意しなければならないのは、施行日の2023年4月1日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても改正民法が適用されるということです。

但し、これには経過措置があります。相続開始から10年経過時、または改正民法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに遺産分割の請求を行った場合には、法定相続分以外の分割も可能となります。

従って、分割されないまま放置している遺産がある場合には、速やかに遺産分割の請求を行うことをお勧めします。

 

交通事故に遇って後遺障害が残った場合あるいは死亡したような場合、その程度に応じて「逸失利益(いっしつりえき)」の賠償を請求することができる場合があります。

 

「逸失利益」とは、被害者が、もし交通事故に遇わなければ、将来得られる可能性がある利益のことを言います。

「逸失利益」の計算は、現実に働いている人が事故に遇った場合には、被害者本人の事故前の収入が計算の基礎となります。

また子どもや専業主婦など働いていない人の場合には、賃金センサスという平均賃金が基礎となります。

今回は、聴覚障害のある児童についての逸失利益をどう算定するかが争われました。

 

2023年2月27日、大阪地裁は、交通事故で死亡した聴覚障害のある児童(女性、当時11歳)の逸失利益の算定について争われた裁判で、全労働者の平均賃金の85%と判断しました(原告は控訴)。

 

原告である両親は、全労働者の平均賃金から算定するように求め、被告側は聴覚障害者全体の平均賃金(健常者の約6割)をもとにすべきと主張しました。

 

判決は、「聴覚障害が労働能力を制限しうることは否定できない」と判示して、週30時間以上働く聴覚障害者の平均賃金が全労働者の約7割である状況を考慮し、更に、障害者の進学や就労が進んでいることなどで将来平均賃金の上昇が予測されるとして、全労働者の85%を算定基礎としました。

 

子どもらには無限の可能性があり、一律に決めるのは不可能と言ってよいでしょう。弁護士の中にも、聴覚障害や視覚障害などの障害を有しながら活躍している人もいます。

 

このような判決を目にすると、過去、男女の逸失利益の算定にも差別があったことを思い出します。

私が弁護士になった頃は、同じ事故で同じ年齢の男児と女児が死亡しても、女児は女性労働者の平均賃金で逸失利益が算定されていたため、賠償金額にすごく差が生じました。

 

それを変えたのは、2001年8月20日の東京高裁判決でした。

判決は、将来の就労可能性の幅に男女差はもはや存在しないに等しいと指摘し、年少者の備える属性のうち性別という属性のみ取り上げることが合理的な理由のない差別であると判示しました。

そして現在、女児についても全労働者の平均賃金をもとに算定されています。

 

厚生労働省の調査によると、2022年6月時点で民間企業で働く障害者は61万3958人で過去最高だったそうです。

障害者の雇用が広がっている状況を踏まえた判決が求められていると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

(労働)流産や死産も産後休業の対象です

「流産や死産だった場合も産後休業の対象となります」

 

2023年1月18日付け京都新聞朝刊に、厚生労働省がウェブサイトにページを新設し、改めて情報発信を強化しているという記事が掲載されていました。

事業者(雇い主)や当事者である労働者にあまり周知されていなことが背景にあるようです。

 

労働基準法65条2項(産後休暇規定)は、「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」と定めています。これは強行規定です。

この規定は、妊娠4ヶ月以降に流産や死産した女性にも適用されます{昭和23年12月23日労働局長通達1885号:出産は妊娠4ヶ月以上(85日以上)の分娩とし、生産のみならず死産も含む}。

 

また、男女雇用機会均等法は、事業主に対し、産後1年間は健康管理のために医師の診察を受ける時間を確保することや、医師から指導があれば仕事を休ませることを義務付けています。

 

厚生労働省の研究班によると、流産は10~15%の頻度で起こるそうです。

もう1度、職場内で「流産・死産も産後休業の対象であること」を認識しましょう。

借家人が家賃を2ヶ月以上支払わず、連絡が取れないなどの場合、家賃保証会社は物件を明け渡したとみなす(「追い出し条項」)・・・

滞納が続くと保証会社は立て替え払い金が膨らむため、借家人の同意なく家財道具等を運び出すことを可能とする契約条項を設ける保証会社があります。

 

このような契約の条項が消費者契約法に違反するかが争われた訴訟で、最高裁は、2022年12月12日、条項を違法と判断し、契約条項の使用差し止めを命じる判決を下しました。最高裁としては初めての判断です。

 

賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社の一存で、法的に適切な手続に基づかず明渡しや追い出しと同様の状態になるのは、著しく不当と判断したわけです。

 

家族関係が希薄になり、入居の際に連帯保証人を立てられない人が増えると、今後、家賃保証会社は更に活用されることになるでしょう。

従って、こうした会社に対し、最高裁判決に基づいた、国土交通省による適切な規制が求められます。

 

 

 

奨学金返済が「出世払い」に

新聞報道によると、在学中の授業料は国が肩代わりし、学生は卒業後の年収に応じて納付するという「出世払い」型の奨学金制度について、文部科学省は、2022年12月23日、有識者会議の報告書を公表しました。

対象は、大学院修士課程の学生です。

 

報告書では、納付が始まる目安の年収として「例えば、単身世帯で年収300万円」と記載されています。

 

「出世払い」という言葉を聞くと、私が大学に入って法律の勉強を始めた頃のことを思い出します。

法律をわかりやすく書かれた本として、民法学者我妻栄の「民法案内」というシリーズがありました。確か、その本の民法総則編の中に、「条件」と「期限」の説明として「出世払い」が紹介されていたという記憶です。

私は、この本を読んで初めて「出世払い」という言葉を知りました(今時の若者はどうなんでしょう?)。

 

法律的に説明すると、「出世払い」とは、出世したら返済するという停止条件(注:停止条件とは、それが成就した時に初めて効果が発生するという「条件」のことです)か、それとも出世するか否かがわかる時点まで返済を猶予する「期限」か、という実はとても難しい問題なのです。

通常の感覚からすると、前者のように思いがちですが、「出世払い」については、大正時代の判例があります(大審院大正4年3月24日判決)

これによると「出世払いとは不確定期限であり、出世できないことが明らかになったときは、貸主は借金の返済を請求できる」と判断しました。

要するに、「出世払い」という約束は、出世した時または出世する見込みがなくなった時に返済期限が到来することになります。

 

今回、文部科学省で検討されている奨学金制度は、新聞などでは「出世払い」制度などという見出しで紹介されていますが、本来の法律解釈とも異なりますね。

また、そもそも年収300万円を「出世」と言うのでしょうかね・・・。

年収300万円で返済が始まるのは、決してゆとりある返済とは言えない気がします。

 

 

子どもの法律上の父親を決める「嫡出推定」を見直す民法の改正が、2022年12月10日成立しました。

 

現行民法では、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定すると定められています(772条2項)。

そのため、例えばDVが理由で夫と別居し、別居中に別の男性との間の子どもを妊娠した場合、夫と離婚してもその後300日以内は前夫の子と推定されてしまうため、出生届を出さないというケースが少なからず存在しています(無戸籍児)

今回の改正は、この無戸籍児問題の解消が目的で、離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子とする規定は維持するものの、女性が出産時点で再婚していれば、現夫の子とする例外規定を設けました。

ただ、2020年の調査では、嫡出推定に起因する無戸籍者のうち、例外規定で救済される「再婚後の子」は4割程度と言われています。

離婚後300日以内に再婚できないケースには適用されません。

 

その他の改正点として、

・女性の100日間の再婚禁止期間が撤廃されました。

・夫にのみ認められていた嫡出否認の権利が子と母にも拡大されました。

 なお、施行後1年間は施行前の出生も対象となります。

・虐待防止のため「懲戒権」の規定を削除し、体罰禁止を明記しました。

 

公布から1年6ヶ月以内に施行し、それ以降に生まれた子どもに適用されます。

 

 

 

驚くような判決が下されました。

これまで、労働者が仕事によってケガや病気になったような場合、それを国が労働災害(労災)と認定して保険金の支払いを決定すると、事業主にはその取り消しを求める権利は認められませんでした。

ところが、2022年11月29日、東京高等裁判所は、事業主には訴える資格がないとした地裁判決を取り消し、審理を差し戻しました(2022年12月8日付け朝日新聞朝刊)。

 

高裁は、事業主が支払う保険料が労災が発生すると上がる「メリット制」を重視し、これにより事業主が不利益を受けるため、支給取り消しを求める資格があるとしました。

 

労災保険制度は、被災者や遺族の生活を保護することを主な目的としています。

しかし、一旦国が労災と認めた事案を事業主が取り消しを求めて争えば、その争いが続く間は、労働者の保険金支給を受ける権利は確定せず、万一、取り消しが認められれば、支給された保険金を返さなければならない事態も発生します。

これでは、労働者や遺族の立場はとても不安定になり、労災制度の趣旨を没却するものにほかなりません。

 

12月5日には、過労死弁護団全国連絡会議などが厚生労働省に最高裁に上告するよう要請しました。

 

現在、国の有識者検討会で、事業主の保険料引き上げについての不服申立等について検討されており、抜本的な対策が早急に求められています。

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い子どもを連れて別居した夫に対し、家庭裁判所が妻へ子どもを引き渡すよう命じましたが、子ども本人が嫌がって引き渡すことができない場合があります。

このように、裁判所の決定が下されても、子ども本人が嫌がって引き渡すことができない場合、夫に対し、例えば、「引き渡すまでの間1日2万円を支払え」というような金銭を支払わせることによって子どもの引き渡しを間接的に促す「間接強制」(民事執行法172条)が認められるかどうかが争われていました。

 

原審の高等裁判所は、「明確に拒絶している長男の心身に有害な影響を及ぼさずに引き渡すのは困難。間接強制は権利の乱用」と判断しましたが、2022年11月30日、最高裁判所は、子どもの拒絶は「直ちに間接強制を妨げる理由にはならない」と判断し、間接強制を認めました。

本件の事案では、長男の拒絶は約2ヶ月の間に2回にとどまり、権利の乱用とは言えないと指摘されています。夫の努力が足りなかったとも。

 

子どもの非監護親に対する反発や拒否感情が強ければ、いくら説得しても引き渡せない場合もあり、難しい問題です。今回の最高裁判例も子どもが拒否しているすべての事案について一律に適用があるとは思われません。事案毎の十分な検討が必要でしょう。

 

なお、民事執行法では、間接強制でも引き渡しが実現しない場合には、裁判所の執行官が子を引き渡させる「直接強制」を申し立てることができます(174条)。

 

 

 

最近、よく街で見かけるウーバーイーツの配達員。

リュックのようなおおきな鞄を背負い、自転車やバイクで、

飲食店の料理などを運んでいます。

 

この配達員は、ウーバー側と雇用関係を結ばず、

「個人事業主」として、アプリを通じて飲食宅配代行の

仕事を請け負っています。

全国で13万人以上いると言われています。

 

このウーバー配達員について、東京都労働委員会は、

2022年11月25日、労働組合法上の「労働者」と

認める判断をしました。

配達員らは、2019年に「ウーバーイーツユニオン」という

労働組合を結成しました。

配達中の事故の補償や報酬決定の透明性などについて

団体交渉を求めましたが、会社は配達員が個人事業主で、

団交に応じる必要はないと主張していました。

働委員会は、

①配達員は、飲食宅配事業に不可欠な労働力

②契約内容は会社が決め、配達員は個別に交渉できない

③配送料は配達員の労務の対価である

などとして、労働者にあたると判断しました。

 

待遇改善に1歩道が開かれましたが、

立法的な保護も求められています。

 

 

 

 

 

 

 

 

妻が産休中に、夫も取得できる「産後パパ」育休制度(男性版産休)が2022年10月1日から始まります。

 

男性の育児休業制度は、これまでも存在していました。原則子どもが1歳になる前日までの間、育児のために休暇を取得できる制度です。

それとともに、今回開始される「産後パパ」育休制度は、子どもの誕生後から8週間以内に4週間まで育児休業が取得可能です。2回に分けて取得することも可能です。

通常の育休は、原則1ヶ月前までに勤務先に申請する必要がありますが、産後パパ制度は2週間前まででかまいません。

 

育児休業給付金も通常の育休と同様に支給され、社会保険料免除と合わせると、手取り収入の約8割が得られることになります。

 

なお、通常の育休も、現在は取得できるのが原則子どもが1歳になるまで夫婦それぞれ1回ずつですが、2022年10月1日からは2回に分割して取れるようになります。

夫婦が交互に育休を取ったりすることもできるようになります。

 

育児休業についての相談は、京都労働局雇用環境・均等室まで。

電話075-241-0504

 

 

 

 

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