1. 女性弁護士の法律コラム

女性弁護士の法律コラム

ポニョの舞台、景観保全される(鞆の浦)

 
(女性弁護士の法律コラム NO.115)
 
広島県福山市にある鞆(とも)の浦。
風光明媚で歴史のある港町である。
 
万葉集にも詠まれ、宮崎駿監督のアニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台ともなった鞆の浦では、約30年前から鞆の浦の埋め立て・架橋事業が計画策定されてきたが、6月25日、広島県知事は、計画中止を正式に決めた(2012年6月25日付け読売新聞)。
 
景観を重視した事業計画の変更は異例。
 
その背景には、景観を守ろうとする地元住民らの長いたたかいの歴史があり、2009年10月1日には、広島地裁は原告住民に対し画期的な勝訴判決を下している。
地裁判決は、県と市の埋め立て・架橋計画をめぐり、地元住民が県を相手取り、知事が埋め立てを許可しないよう求めたことに対し、住民側の請求を全面的に認め、知事に埋め立て免許の交付をしないよう命じた。
歴史的景観を保護するために大型公共工事の許認可を差し止めることができるかどうかが争われた初めての訴訟だった。
判決は、まず、鞆の浦の景観は住民らの利益にとどまらず、瀬戸内海の美観を構成し、文化的・歴史的価値を持つ「国民の財産ともいうべき公益」と指摘した上、行政側の必要性や公共性は認めつつも、景観保全を犠牲にしてまでの必要性があるかどうかについては大きな疑問が残るとし差し止めを認めた。
 
これまで司法の場で「環境権」や「景観権」などが認められることは非常に困難と考えられてきたが、この判決を読んで、「環境権」や「景観権」を真正面からとらえた画期的なもので、これも世の中の変化・前進であると感じた。
 
私は、地裁判決後、どうしても鞆の浦に行ってみたくなり、一審判決直後の2009年11月に訪れた。
あいにくの雨だったが、江戸時代からの名残が残る港や街並みは趣があり、また、福禅寺の座敷から望む湾や島々は、まるで絵のように美しかった。
 
広島県は控訴したが、一審判決から3年が経過しての今回の知事の決定は、住民の勝利であり、日本のすばらしい景観が1つ守られて本当に良かったと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

原告が法廷に入れない!法廷外ではダメ?

 
(女性弁護士の法律コラム NO.114)
 
九州電力玄海原発の操業停止を求める裁判の第1回口頭弁論が6月15日佐賀地裁で開かれた。
原告数は計4252人。
15日の第1回弁論には、原告・弁護団合わせて約450人が集まった。
弁護団は、体育館のような広い施設での開催を求めていたが、地裁は警備面などから「秩序だった審理が難しくなる」と拒否。
地裁は、原告側用に45席を確保し、残りの一般傍聴席23席分を376人で抽選することになった。(2012年6月23日付け朝日新聞デジタル)
 
裁判を受ける権利は、憲法32条で保障された国民の権利であり、通常の民事裁判であれば、たとえ代理人弁護士に委任していても、当事者自身も、弁護士と共に原告席や被告席に座ることができる。
 
裁判所法では、最高裁判所が必要と認めれば、法廷外で裁判を開くことができるという定めがある(69条2項)が、最高裁によると、原告が多いという理由で法廷外で裁判を開いた例はない。
 
元福岡地裁所長の蓑田弁護士は、別施設で開催すると、不規則発言が相次ぐ可能性や警備面の不安が高まる、として、佐賀地裁の判断に理解を示すコメントを出している。
 
でも、裁判所が破産管財事件の債権者集会を開く時、債権者の数が多数見込まれるような事件の場合には、裁判所外の施設で開かれることもある。
そして、荒れる債権者集会も珍しくない。
だから、やろうと思えばできるはず。
 
2003年に佐賀地裁であった諫早湾干拓事業の差し止め訴訟(当時の原告約600人)では、法廷の音声をワイヤレスマイクで拾って、隣の法廷にスピーカーで流したとのこと。
今回、佐賀地裁は、この方法についても「裁判長の監督が行き届かない」と拒否したという。
 
国民に開かれた司法をめざすのであれば、当事者が出席を希望した場合には、可能な限り、審理の場に同席できる工夫や努力はなされるべきだと思う。
 
 
 
 

あの「堂島ロール」が残業代不払い

 
(女性弁護士の法律コラム NO.113)
 
人気のロールケーキ「堂島ロール」で有名な大阪の「モンシュシュ」が、労基署から、未払い賃金の支払いを求める是正勧告を受けた(2012年6月1日付け毎日新聞)。
 
報道によると、会社は、あらかじめ社員に「みなし残業時間」を設定し、残業代込みの給与を支払っていた。しかし、実際の残業時間がみなし残業時間を大きく超過しているとして、残業時間の短縮と過去2年分の未払い賃金の支払いを求められたという。
 
「みなし残業時間」という言葉は、労基法にはない(労基法が定める「みなし労働時間」とは全く別物)。
この「みなし残業時間」というのは、例えば、「月20時間の残業代分○万円」とあらかじめ定めて支給するもののよう。
でも、その残業時間以上働いた場合には、残業代を払うのは当然である。
 
いくら商品がおいしくても、労働者イジメはいけませんね。
 
 
 
 
 

生活保護と扶養義務

 
(女性弁護士の法律コラム NO.112)
 
人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けていることを女性週刊誌が報じたことをきっかけに、生活保護制度全体に対して大バッシングが起こっている。
でも、生活保護も申請できぬまま「孤立死」や「餓死」するなどの悲惨な社会実態があるにもかかわらず、制度全般や利用者全体に問題があるかのごとき報道は許せない。
 
そのタレントに多くの収入があるにもかかわらず、母親が生活保護を受けていたことがあたかも不正受給であるかのような論評も見られるが、そもそも生活保護法上、扶養は保護の要件ではない。
実際に親族から「扶養」が行われた場合には収入認定され、その金額の分だけ保護費が減額されることはあるが、扶養義務者の扶養は、生活保護を受けるための前提条件ではないのである。
 
また、民法で定められている扶養義務についても、強い扶養義務を負うのは、夫婦の間と未成熟の子に対する親だけで、兄弟姉妹や今回のケースのような成人した子の老親に対する義務は、「経済的に余裕があれば援助する義務」にすぎない。
更に、扶養の程度や方法は、義務者の資力だけでなく、権利者の落ち度、両者の関係の強弱や濃淡などを総合考慮して家裁が決めるとされている。
 
今回のバッシングの中心となっている1人が自民党の片山さつき議員。
誰かがTwitterで「僕が片山さつきの親族だったら、すぐに仕事を辞めて扶養してもらう」とつぶやいて皮肉っていた。
本質をついた、つぶやきで、拍手!
 
報道機関そして国は、制度利用者の声や実態にもっと目を向けるべきである。

クラブじゃ踊れない!?

 
(女性弁護士の法律コラム NO.111)
 
こういう見出しで、2012年5月16日付け朝日新聞が大きく取り上げた、風俗営業法違反店の摘発問題。
 
風俗営業法違反でクラブが摘発される事例が相次いでいる。
昨年、京都でもクラブ3店が摘発されたとのこと。
 
「クラブ」というと、皆さんは、どんな場所を想像するだろう。
バーや、かつて京都にあった高級ナイトクラブ「ベラミ」のような場所?
違うんです。
現在は、DJの流す音楽に合わせ、若者を中心とした客たちがヒップホップなどのダンスを楽しむ店も多い。
ディスコやライブハウスに近い。
 
風営法では、客にダンスをさせ、飲食物を提供する店は公安委員会の営業許可が必要で、しかも許可を取っても営業時間は午前0~1時までに制限されている。
もともと風営法は、1948年、売春婦がダンサーとして客をとっていた時代に、風紀を正す目的で制定された。
当時のダンスは社交ダンス。でも、風営法制定のきっかけとなった社交ダンスは、今や、規制対象から外されているという、なんともおかしな法律である。
 
今年度から中学1-2年の体育授業でダンスは必修科目となり、ダンスは今やスポーツである。
私も、スポーツクラブで、ファンクやストリートダンスのレッスンを受けて、その面白さにはまった。
 
音楽家坂本龍一さんは、「クラブはサブカルチャーのハブ(中継点)。音楽、ダンス、アート、文学、ITなど多くの分野がつながっている。クラブ文化を取り締まるのは時代錯誤。日本文化破壊といっても過言ではない」と批判する。
 
記事によると、京都から法改正を求める10万人署名活動が開始されるとのこと。
私もダンス大好き人間の1人として法改正を求めていきたい。
 
 
 

事実婚と生命保険金の受取人

 
(女性弁護士の法律コラム NO.110)
 
夫婦別姓にするため、現在の夫との間で離婚届を提出し、事実婚としたいという女性の相談を受けた。
 
その際、生命保険の受取人はどうなるんだろう、「事実婚の配偶者」でも受取人として認められるのだろうかという質問があったので、少し調べてみた。
 
生命保険の受取人は、殺人目的で利用されぬよう、配偶者や2親等以内の血族などに限られているよう。
 
「配偶者」には事実婚も含まれるようだが、「妻(未届)」という住民票を要求されたり、実際に調査員が訪問して、夫婦の実態があるかどうかチェックする会社もあることがわかった。
契約している保険会社毎によって調査方法が異なると思われるので、直接、保険会社に尋ねた方が良い。
 
ところで、保険法という法律が2010(平成22)年4月から施行されており、その44条1項では「保険金受取人の変更は、遺言によってもすることができる」と定められている。
だから、保険会社の調査がめんどうと思われる場合には、遺言できちんと書いておくのも1つの方法かなと思った。

判検交流が廃止に

 
(女性弁護士の法律コラム NO.109)
 
検察官が刑事事件の裁判官になったり、刑事裁判官が検察官になったりする人事交流(いわゆる「判検交流」)が今年度から廃止されたことがわかった(2012年4月26日付け朝日新聞)。
裁判官と検察官の距離の近さが「裁判の公正をゆがめかねない」との批判を受け、法務省が「誤解を生むような制度は続けるべきではない」と判断した。
 
要するに、判検交流というのは、昨日まで裁判官だった人が、検察官となって被告人の処罰を求め同僚裁判官がその訴訟を担当する、そして任期が切れるとまた裁判官に戻るなど、常識的にみて「どうよ?」と思うようなことが1970年代からずっと続いてきた。
 
この判検交流は、刑事事件だけでなく、民事の分野でも、裁判官が訟務(しょうむ)検事となって行政訴訟や国賠訴訟の国側の代理人をつとめるという形で行われていた。
 
これまで弁護士会はこのような判検交流に反対してきたが、検察官の証拠改ざんなどが大きな社会問題となる中で、「廃止」になったのだろう。
 
朝日新聞の書き方は、「刑事事件の公正に配慮」となっているが、民事事件だって同じ。
民事分野での判検交流も廃止されたのかな?
 

妻の3人に1人がDV被害

 
(女性弁護士の法律コラム NO.108)
 
内閣府が、4月20日、「男女間における暴力に関する調査」の結果を発表しました。
この調査は、2011年11月から12月にかけて、全国の成人男女5000人を対象に実施されたものです。
 
それによると、結婚したことがある女性の32.9%が、夫から身体的暴力や言葉による暴力を受けたことがあると回答しました。
しかし、被害女性の41.4%は、周囲に相談しておらず、子どもへの配慮や経済的不安から泣き寝入りするケースが目立っています。
 
DV法が制定されてからもう10年以上が経過するというのに、「3人に1人」という数字には驚きました。
そして、多くの被害者女性は、そのことを誰にも言わず、耐えていることにも。
 
すぐに離婚や保護命令などの法的措置をとる決断がつかなくても、世間体などを気にせず、いつでも公的機関や私たち弁護士にご相談ください。
 
 
 

 
(女性弁護士の法律コラム NO.107)
 
私たちが、家裁で、別居中の夫婦の生活費である婚姻費用や離婚後の子どもの養育費を決める時、参考にするのが「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」で、2003年3月に判例タイムズという雑誌の1111号に発表されたものである。
 
家裁では、調停委員や裁判官、弁護士もこの表を使って調停などを進め、また、離婚に関する本などでも紹介されているので、法律相談に来られる方の中にもよく知っている人も見られる。
その意味で、実務にはかなり定着していると言えよう。
 
しかし、発表から約9年も経った現在、この表には構造的に問題があり、そのため算定される金額が低額で、母子家庭の貧困の一因ともなっている。
 
そこで、日本弁護士連合会は、3月15日これに対する意見書を取りまとめ、3月22日付けで最高裁判所および厚生労働大臣宛に提出した。
意見書の内容については、ここで紹介するスペースがないので、日弁連のホームページで読んでほしい。
 
私たち弁護士も、安易にこの表に依拠するのではなく、子どもたちのための生活実態に合った金額を決定していく努力が求められる。
 
 

4月15日は「良い遺言の日」

 
(女性弁護士の法律コラム NO.106)
 
昨日4月15日は「良い遺言の日」。
この場合、「ゆいごん」と読むのではなく、「いごん」と読みます。なぜか、法律家の中には、「いごん」と呼ぶ人も少なくありません。
 
夫婦、特に子どものいない夫婦は、そのどちらかが亡くなると、残された配偶者と亡くなった人の親、親が死亡している時には兄弟姉妹が法定相続人となりますから、争いが起きることも少なくなく、遺言を書いておかれた方が良いことは、当事務所の法律コラムでも紹介しています。
 
また、何人かの子どもの中で特に遺産をたくさん残してあげたいと思う子どもがいる場合、正式な夫婦でない男女の間に生まれた子どもがいる場合、息子の配偶者など他人に遺産をあげたいと思う場合などは、特に遺言を書かれることをお勧めします。
 
「おひとりさまの老後」の著者上野千鶴子さんは、「遺言は、死ぬためにではなく、生きている自分のために書くものだ」、「生きているかぎり人間関係も変われば、考えも変わる」、そして「人間関係が(それに男も)変わるたびにバージョンを書き換えてきた」と書いています。
 
そう、遺言は、気楽に気軽に書きたいものです。
私たち弁護士がそのお手伝いをします。
 
 

メモの重要性(その3)~被疑者ノート~

 
(女性弁護士の法律コラム NO.105)
 
刑事事件におけるメモの重要性。
 
何か犯罪の容疑で逮捕勾留され、身に覚えがないにもかかわらず、警察官が机をドン!とたたいて「お前!早く本当のことを言わんかい!」などと怒鳴って暴力を振るうということは決してテレビドラマや映画あるいは戦前の警察での出来事ではない。
 
●2006年3月兵庫県警に詐欺容疑で逮捕された女性
「20分間、怒鳴られっぱなし」「警察の都合のいい回答をするまで続くと思うと、絶望的な気分になる」
 
●大阪地裁所長襲撃事件で強盗致傷罪に問われた男性(無罪確定)
「ヘタレと何度も言われバカにされた。お前には人間の血が流れていない」「暴力を振るわれ口の中がキレて血が出るし一瞬息ができなかった」
 
いずれも近年明るみに出た警察内での違法な取調べの実態である。
これらが明るみに出たのは、実は、彼らは、留置場の中で、弁護士が差し入れた「被疑者ノート」と呼ばれる取り調べの様子を日記風に記入できるノートをつけていて、これが裁判で証拠として採用されたからである。
 
この「被疑者ノート」というのは、弁護士会が作成したものであるが、別に普通のノートや手帳に書き綴ってもかまわない。警察官による暴言や暴力があっても、なかなか信用してもらえないのが現状である。このように取調の状況をメモしておくことは密室での自白強要を防ぐ重要な手段である。
 
但し、このようなノートは裁判所が必ず証拠として採用するとは限らないので、冤罪を無くすためには、現在、議論されている取調中の録音・録画(取調べの可視化)などが全面的に実施されなければならない。

京に、少女のための「子どもシェルター」開設

 
(女性弁護士の法律コラム NO.104)
 
虐待などで家庭に居場所を失った10歳代後半の少女を一時的に受け入れる子どもシェルター「はるの家」が、4月2日京都市内に開設された。関西では初めての施設で、京都市のNPO法人「子どもセンターののさん」が運営。(2012年4月12日付け読売新聞朝刊)
 
子どもシェルターは、全国7都府県8か所にある。
児童相談所などの公的な施設の限界を補うもので、もちろん児童相談所と連携をとる。
 
「はるの家」では、個室で2~3週間の滞在を想定。定員は6人で、24時間態勢でスタッフが寄り添う。
虐待を受けて家庭を飛び出したり、行き場のない少女らが本当に安心して過ごせる場所として期待される。
 
問い合わせは、同NPOの事務局(075-254-8331)へ。
 
 

メモの重要性(その2)~ある離婚事件~

 
(女性弁護士の法律コラム NO.103)
 
「 メモの重要性」という意味で記憶に残る離婚事件がある。
 
A子さんは、家の中のすべてを取り仕切って彼女を女中扱いする同居の姑とそれに追従する夫の態度に耐えられず、別居した。
 
私がA子さんの代理人となって離婚訴訟を提起すると、夫は弁護士をつけず本人訴訟。
そして、夫は、母は妻が言うようなことはしていない、自分も今でも妻を愛している、妻は精神的な病気ですべて妄想であるなどと繰り返し述べ、「愛している」「帰ってきて欲しい」という内容の妻宛の手紙も裁判所に提出したりした。
このような夫の態度から、裁判官の言葉の端に「本当に妻と姑との間に確執があったのか」との疑念も見え隠れし始めた。
 
そこで、A子さんに「日記とかつけてない?」と尋ねると、日記はつけていないが、家計簿をずっとつけていて、その家計簿の各頁の余白にその日の出来事や思いを簡単に記していたものならあることがわかった。
早速、数年分の家計簿を持って来て読ませてもらうと、よほど姑との関係がつらかったようで、姑の言動やA子さんのつらさ・苦しさが、短い言葉ではあったが、リアルに記されていた。それを証拠として提出したところ、裁判官の態度が一変したことは言うまでもない。
 
夫婦の間の出来事は、夫婦しかわからないことが多く、離婚事件でも立証の決定打に欠けることも少なからずある。
そんな時、日記とまではいかなくても、A子さんのように日々の出来事を家計簿の余白などに記しておくことは、非常に有効である。
 

 
(女性弁護士の法律コラム NO.102)
 
昨今の情報量の多さとそれに反比例するような自分のモノ忘れの速さに、メモの重要性は日々痛感するところである。
 
ところで、日常の事件においてもメモはきわめて有効なので、若干紹介してみたい。
 
~妻のメモも残業の証拠~
 
労働者の残業時間を把握するのは、本来、使用者の責任であるが、タイムカードがない職場も少なくない。
このような職場で働く労働者が、未払いの残業代の請求や長時間労働による病気について労災申請をするような場合には、残業時間の証明が重要になる。
 
そんな時、メモを有力な証拠とした裁判例があるので紹介しよう。
 
大阪の男性が未払いの残業代を求めた事件で、残業時間を裏付ける客観的な証拠はなかったが、裁判所は、毎晩夫の帰りが遅いことを心配した妻が「01年9月27日午前2時半」などの帰宅時間を書いたメモや営業所の戸締まり記録・報告書などの間接的な証拠から残業を認めた(2005年3月大阪地裁、2005年12月大阪高裁)。
 
また、残業代や休日出勤分の賃金を払ってもらえなかった男性が退職後、会社を訴え、東京高裁(2008年5月28日判決)は、男性が手帳に書いていたメモで残業時間を認定した。
裁判の中で会社は「手帳の記載は信用できない」と主張したが、一審の横浜地裁は「労働時間管理を行うべきなのは会社、疑義があるなら会社が根拠となる記録を示すべき」と指摘した。
 
家族の皆さん、夫や父親が仕事で毎晩遅く帰って来るような時には、その帰宅時間もメモしておきましょう。

成年後見、「市長申立」京都で急増

 
(女性弁護士の法律コラム NO.101)
 
身寄りのない人に代わって京都市が家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる「市長申立」の件数が急増している(2012年4月6日京都新聞夕刊)。
 
市によると、市長申立の件数は、2004年度は4件だったが、10年度は41件に増え、11年度も2月時点で90件と前年度の倍以上に急増。
市内の一人暮らしの高齢者は10年に7万人を超えており、支える家族がいない高齢者が増えていることが申立急増の要因になっている。
 
成年後見については、本人や配偶者、4親等内の親族らが申し立てることができ(民法7条)、通常はその人らによって申し立てられることが多い。
 
しかし、身寄りのない高齢者については、老人福祉法32条によって市町村長にも成年後見の申立をする権限が与えられている。
 
認知症などで判断能力が低下した高齢者を悪徳商法などの詐欺商法から守るためにも成年後見制度は有効である。
 
なお、京都市では、4月から下京区のひと・まち交流館京都内に「成年後見支援センター」(電話075-354-8815)を開設したり、低所得者向けに申立費用や後見人の報酬の公費負担の対象も広げたり(問い合わせは市長寿福祉課075-251-1106)と、後見制度の利用を拡大していくとりくみを進めている。
 
近所に身寄りのない高齢者で心配な方がいらっしゃる場合には、是非、ご相談ください。
こんな時、「おせっかい」も大切ですよね。
 
※成年後見制度については、事務所ホームページ「法律コラム・その他 成年後見制度」を参照してください。
 

交通事故の現場へ

 
(女性弁護士の法律コラム N0.100)
 
今日は、依頼者と一緒に、交通事故の事故現場に行って来ました。
 
交通事故の事件を受任した場合、被害者側で過失がゼロの事件でない限り、事故の現場には1度は行って写真を撮るようにしています。
 
あらかじめ警察から実況見分調書を取り寄せ、それにも写真が添付されているので、現場の様子はおおよそ検討がつきますが、やはり実際に自分で見た方が現場の状況がよく頭に入り、示談交渉する時や裁判所に説明する時に役に立ちます。
 
1週間前の天気予報を見て、雨予報じゃないと確認して「今日」を選んだのですが、事務所を出る時に、急な雨。
でも、幸い現場に着いたら晴れて、車が頻繁に往来する中、その隙間を狙って写真を撮って来ました。
 
 

散 骨

 
(女性弁護士の法律コラム NO99~遺言~)
 
このブログで「生前準備」とか「尊厳死」のことを書いたところ、友人が「自分が死んだら散骨してほしいと思ってるんだけど」と手紙をくれた。
 
私も自分が死んだ時には葬儀や墓はいらない。登山が好きなので、遺骨もできれば、どこかの山に散骨してほしいと思っている。
 
散骨とは、火葬場で焼いた後の遺骨(焼骨)を粉状(遺灰)にして、大地や海への自然に帰す葬送の一方式である。
最近、墓への埋葬などの形式や慣習にとらわれず、自分の死後は遺骨を散骨してほしいと希望する人が増えているようである。
 
「墓地、埋葬等に関する法律」4条は、遺骨を墓地以外の区域に埋蔵してはならないと定めているので、この法律との関係が問題となる。
しかし、厚生労働省がこの法律は遺灰を海や山に撒く葬送は想定しておらず対象外という見解を発表したため、節度を持った散骨は違法ではないということになっているよう。
 
ところで散骨の意思表明の方法であるが、遺言などで抽象的に「○○へ散骨して」と第三者に託しても、その人がどうしたらよいかわからず困ることもあるので、生きているうちに信頼できる人に費用も含めて具体的にお願いし、そのことを遺言に書いておく方がよいのではないだろうか。

事実婚と住民票

 
(女性弁護士の法律コラム NO98)
 
旅先で何気なく手にとった女性雑誌に「事実婚のススメ」というタイトルの対談が載っており、思わず読んでしまいました。
 
その中で、事実婚の場合、夫婦が住民票上、同じ住所で届けると続柄欄に「妻(未婚)」と記載されるとありました。
 
今まで事実婚の場合には「同居人」と記載されるとばかり思っていました。
初めて知ったことだったので、京都でも同じ扱いなのかなあと思い、早速、区役所に電話で尋ねてみました。
 
区役所の担当者いわく、本人双方が希望するなら「同居人」でも「妻(未届)」でもどちらでもできるとのこと。
但し、「妻(未届)」という表示は、本人双方が未婚であることが前提で、法律上の配偶者が別にいる時はできませんとしつこく言われました。
 
なるほどね。よくわかりました。
 
 

離婚届を勝手に提出するのは犯罪です!

 
(女性弁護士の法律コラム NO97~離婚~)
 
夫婦の間で「ここまでするか!」と思う事件に時々出くわします。
 
協議離婚は、離婚届を役所に提出することによって成立しますが、役所の戸籍係は受理に際して書類上の形式的な審査しかできませんから、夫が勝手に離婚届を出しても一応受理されてしまいます。
 
私が扱った事件だけでも、過去にこのような事件が2件ありました。
 
どちらも夫が愛人を作って家を出、妻に対し離婚を迫っていたケースでした。
妻の同意がないのに離婚届を勝手に作成して出すことは当然犯罪になります。私文書偽造・同行使罪(刑法159条、161条)です。時間はかかりましたが、夫は処罰されました。
 
また離婚自体も無効なのですが、離婚無効を認めてもらって戸籍を元に戻すには、家庭裁判所に対し調停を申し立て、それでも夫が事実を認めなければ訴訟を起こして判決をもらう必要があります。
 
このようなことが起きる心配のある方は、役所に「離婚届の不受理届」を提出しておきましょう。
 
 

尊厳死について

 
(女性弁護士の法律コラム NO.96~相続~)
 
以前のブログ(2010年7月15日付け)でも、尊厳死のことを書いたことがありました。
尊厳死とは、一般的には延命治療の拒否ないし中止のことを言います。
 
尊厳死を希望する場合には、意識がはっきりしている間に、書面に書いておいたり、家族の了解を得ることが大切であることは前にも書いたとおりです。
 
書面の書き方ですが、本などを読むと「いっさいの延命治療はいりません」などの文例が見受けられます。
しかし、今回、中村医師の「大往生したけりゃ 医療とかかわるな」を読むと、それでは「延命」の受け取り方が人によって異なるので正確ではなく、内容の具体性が必要と書いてありました(同書p146)。
 
中村医師によると、下記の各項目について意思表示が必要だそうです(同書P160)。
①心肺蘇生(心臓マッサージ、電機ショック、気管内挿管など)
②気管切開
③人工呼吸器
④強制人工栄養(鼻チューブ栄養、胃ろうによる栄養、中心静脈栄養)
⑤水分の補給(末梢静脈輸液、大量皮下注射)
⑥人工透析
⑦輸血
⑧強力な抗生物質の使用
⑨その他
各項目内容の具体的な説明もされていますので、興味のある方は1度読んでみてはいかがでしょう。
 
 

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