1. 「原爆裁判~被爆者と弁護士たちの闘い」(BSNHK)
ブログ マチベンの日々

最近、NHKはドキュメンタリーやドラマなど、優れた番組を作っているなあという実感がある。

2025年8月8日午後11時25分からNHKBSで放映された「原爆裁判~被爆者と弁護士たちの闘い~」もそうだ

 

「原爆裁判」は、NHKの朝ドラ「虎に翼」のモデルとなった三淵嘉子さんが裁判官として実際に関わった裁判で、「虎に翼」にも登場した。

「原爆裁判」は、アメリカによる原爆投下は国際法に違反するので、その受けた損害の賠償を日本政府に請求した裁判で、原告被爆者5人によって1955年4月に東京地裁と大阪地裁に提訴され、2つの訴訟は東京地裁に併合され審理され、8年後の1963年12月7日判決が言い渡された。

 

過去の著明な裁判の1つだが、私は、大学で教わった記憶もないし、司法試験の受験勉強の中で憲法判例として紹介されてもおらず読んだこともなく、「虎に翼」を観て初めて知った。

 

今回のドキュメンタリーは、「原爆裁判」提訴にあたった岡本尚一弁護士や原告となった被爆者川島登智子さんらに焦点をあてて描かれていた。

 

岡本尚一弁護士は、1892年生まれ、提訴時の1955年は63歳、提訴3年後66歳志半ばで他界されている。

いつの時代にも優れた活動を行う弁護士がおられ、私などはとうてい足元にも及ばないといつも思っている。

岡本弁護士は、終戦後10年も経っていない時に、原爆裁判の法的な理屈を検討し、アメリカを被告にできないかとまで考えられた。「この提訴は悲惨な状態のままに置かれている被害者またはその遺族が損害賠償を受けることだけではなく、原爆の使用が禁止されるべきである天地の公理を世界の人に印象づけるであろう」との檄文を多くの弁護士に送って共同を呼びかけたが、それに応えたのは松井康浩弁護士だけであった。

 

いくら崇高な目的を持った裁判でも、当事者原告が存在しなければ裁判は始まらない。

岡本弁護士の思いに応えた原告は5人。世間の視線が偏見と差別にとらわれている場合もあり、被爆者であること自体を隠したい人が多くいる中で、5人は原告となった。

その中に、今回ドキュメンタリーで取り上げられた川島登智子さんがいた。提訴時24歳。

NHKの金子麻理子ディレクターはご遺族を探し出し、娘時田百合子さんにたどりついたが、時田さんは母親が「原爆裁判」の原告であったことを知らなかった。登智子さんは、なぜ原告になったのか、また、なぜそれを一言も語らなかったのだろうか。番組は、訴状の中で名前が出てくる登智子さんの妹詔子(のりこ)さん(被爆後養女に出された)を訪ねたが、詔子さんも裁判のことは全く知らなかった。

 

それぞれの原告には、私たちの想像を超える人生がその後も続いた。

 

1963年12月7日に言い渡された「原爆裁判」の判決については、以前の私のブログで紹介したとおりである。

朝ドラ「虎に翼」をより楽しむために(その10)~原爆裁判(1)~

 

ただ、判決は、原告代理人であった松井康浩弁護士が語ったとおり、「被爆者としては、政治の貧困を嘆かれても現実の救済にならないのであって、裁判所から見放されては、もはや救われないものであ」った。

そして、その後のたゆまぬ反核運動の中で、2021年、世界でやっと「核兵器のいかなる使用も武力紛争に適用される国際法に違反する」という核兵器禁止条約が発効した。ただ、日本政府は未だにこの条約を批准していない。

 

原爆投下から80年経った現在、そして世界で紛争が続く現在、あらためて平和を考える機会となった。

 

 

 

 

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