映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」を観た。
登山家田部井淳子(たべいじゅんこ、2016年10月逝去)さんをモデルとした作品で、主演は吉永小百合。
おそらく登山を趣味とする人で、田部井さんを知らない人はほとんどいないと思う。
生前、テレビで何度も田部井さんの番組を観たが、ほんと、その辺にいそうな気さくな「オバサン」だったが、実は、ちょうど50年前の1975年5月、35歳の時に世界で女性で初めてエベレストの頂上に立ち、その後7大陸最高峰も踏破した、すごい人である。
著書も何冊か読んだが、正真正銘のクライマーだ。
そんな田部井さんをモデルにした映画だが、本作品は、彼女の輝かしい偉業への道を描いたものではなく、2025年11月19日付け毎日新聞夕刊で中森明夫氏が書いているように、まさに「頂上を極めたその人が、ゆるやかに山を下りる物語」である。
輝かしい偉業を持つ田部井さんの人生は決して順風満帆ではなく、映画では、エベレストに共に挑戦した仲間からの絶縁や母に反発する息子との確執なども描かれる。
そして、山に登る人でも病気になる。
田部井さんは、2007年67歳の時に乳がんとなったが、この時は初期で、手術10日後には海外の山に出掛けた。
その後2012年、腹膜癌で余命3ヶ月の宣告を受ける。
しかし自分に「そうだ、騒ぐな。オタオタするな。現状を受け入れ、一番いいと思うことをやれ」と言い聞かせ、抗がん剤治療を受けながらも、登山を続けた。確か、テレビでのインタビューで、医者から「抗がん剤治療中、普通の生活をしてください」と言われ、「私にとって『普通の生活』とは山に登ること」と語っていたことがとても印象的で記憶に残っている。
そして、東日本大震災で被災した高校生を励ますため、富士山に登るプロジェクトを企画し、夫や子どもら家族の支えを受けながら、高校生たちと一緒に富士山に登る。亡くなる3ヶ月前まで参加した。
「人生は8合目からが面白い」と言った田部井さん。
そんな言葉どおり、田部井さんは、最期まで、明るく前向きで、そして行動的に生きた。
私の亡夫も、2018年に癌宣告を受けたが、その後も抗がん剤治療を受けながら、国内での登山を続けた。医者からは「貧血状態で登っているようなもんです」と言われた。そして、亡くなる3ヶ月前の2019年12月まで一緒に山に登った。そんな亡夫の姿と田部井さんとがどうしても重なってしまう。
映画の中で、吉永小百合演じる多部純子が「山に登ることは生きていると感じること」と語るシーンがあったが、最近、山に登ると、私も本当に「生きている」と感じる。
「人生8合目から」どんな面白いことが起こるか、ワクワクしながら生きて行きたいと思う。