事務所では、新聞4紙を購読しているので、毎朝、新聞各紙にざっと目を通した後、4紙とも新聞1面下段のコラム欄を音読している。
なんのことはない、声の老化防止のためである。
単に老化防止のための音読だが、これらコラム欄には、歴史、人、自然、政治などなど、実に様々な分野の内容がコンパクトに書かれており、元新聞記者の知人に尋ねると、数人で分担執筆されているそうだが、その博識には敬服するし、とても勉強になる。
「畠山重篤(はたけやましげあつ)」さんのことも、2025年4月に81歳で亡くなられたことに触れた新聞コラム記事で初めて知った。
「森は海の恋人」という素敵な言葉とその言葉の持つ意味の深さに興味を持ったので、それ以降、彼に関する新聞記事をコピーして保存しておいた。
そんな折り、名古屋で環境問題に取り組んでいる高校時代の友人が京都に来てくれたので、久しぶりに出会い、彼女から「センス・オブ・ワンダーを語る」という本をいただいた。
この本は、レイチェル・カーソンの遺作「センス・オブ・ワンダー」の出版60年を機に、レイチェル・カーソン日本協会が開く講演会などで語られた4名の方の生命をめぐる話を集めた記録である。
偶然にも、その中に「畠山重篤」さんの講演と対談が掲載されていた。
「森は海の恋人」という素敵なフレーズそのものが、畠山さんの活動を見事に示している。
畠山さんは、宮城県気仙沼市舞根湾(もうねわん)でカキを養殖する漁師でありながら、1989年から気仙沼湾に注ぎ込む川の上流にある室根山に植樹を始めた。カキを育む海の養分は川がもたらす。森の土に含まれる養分が川から海に注がれるからだ。ならば水源の森を豊かにしなくては、と。
畠山さんの講演録を読んで、新たに知ったことがあった。
カキを育む海の養分は、植物プランクトンだ。その植物プランクトンを増加させるのは、1つには川から海に流れてくる腐葉土があり、その中に植物プランクトンの肥料になる成分も含まれている。そして、もう1つ。腐葉土のほか、地質に含まれている成分のうち鉄分は植物プランクトンの繁殖に不可欠であることがわかったという。広島のカキも宍道湖のしじみも鉄分と関係があった。
また、2011年3月の東日本大震災後の様子も気になったところだった。
畠山さんは、津波で母親を失い、カキの養殖場は流され、被害額は2億円。生き物が消えた海に絶望しかけた。だが、気仙沼の海に流れ込む大川にはダムがなく、それによって、震災後もカキの餌である植物プランクトンが潤沢にあり、カキ養殖は復活した。
学問の世界も政治の世界も、海、川、農地、山と、分野が分かれているが、本当は、それらはすべてつながっていることを知ることが大切であることを教えられた。
畠山さんは、子どもたちに環境教育を実践したり、執筆活動を行ったりと、多彩な活動を展開した。
そして畠山さんの言葉、「大切なのは、人の心に木を植えることです」