1. 「国境なき助産師が行く」(小島毬奈 著)を読んで
ブログ マチベンの日々

 
本屋さんに行くのが好きだ。
若者の間では、最近、普通の本屋さんのことを「リアル書店」と呼ぶ。
ネットで本を注文する「ネット書店」との対比でこう言うらしい。
そしてアナログ派の私が訪れる本屋は専ら「リアル書店」。
時間がかかっても、本屋さんの中をブラブラめぐり、「面白そう」とたまたま手に取った本に思わぬ出会いがあったりして、楽しい。
 
先日、本屋さんで見つけたのが「国境なき助産師が行く」という本。
「国境なき医師団」なら知ってるけど・・・
 
「国境なき医師団」(MSF)は、1971年、フランス人の医師を中心につくられた国際的なNGOで、医療や人道援助を行っている。
1999年にはノーベル平和賞を受賞した。
一口に「国境なき医師団」と言っても、その中の職種は多岐にわたり、医療職では医師だけなく看護師、助産師、薬剤師、臨床検査技師も、非医療職では物流管理や建設などのロジスティシャンや、人事・財務などのアドミニストレーターなども含まれる。
本の著者小島さんは助産師でスタッフの一人。
小島さんは、1984年生まれの女性で、2014年から「国境なき医師団」に登録されている。
医療のない場所や危機のある場所にどこにでも駆け付け、緊急医療援助活動を行っており、そこに自ら参加するスタッフには本当に頭が下がる思いである。
 
でも、私たちが日頃のニュース報道で知る紛争地域の人々や難民の生活などは、ほんの一部であり、まして国境なき医師団がどのような活動をしているかなども全く知らない。
 
この「国境なき助産師が行く」という本を読めば、少しは紛争地域の現状やMSFの活動がわかるかもしれない、そんな思いで読んでみようと思った。
 
小島さんは、2014年3月から2017年9月までの間に、パキスタンの病院、イラクのシリア人難民キャンプ、レバノンの難民キャンプ、地中海難民ボート、南スーダンの国連保護区で働いた。
充実した設備もなく、言葉もわからない、文化も宗教も違う、教科書では見たことがないような症例がどんどん運ばれてくる・・・・
現地スタッフとの意思疎通に困難が伴うことはもとより、小島さんのように多くの海外から派遣されてくるスタッフ同士の意思疎通も大変。
とても想像できない世界だ。
 
中でも、アフリカ大陸から海を渡ってヨーロッパへ向かう難民の実態は壮絶である。
2016~17年だけで8000人近くの難民が、リビアからイタリアに向けて地中海を渡る途中に命を落としている。
リビアからイタリアのシチリア島へは大型船でも2日はかかり、粗末なゴムボートなどで渡れるはずもなく、それら難民を救助する地中海捜索救助船の中で、2016年11月から2017年2月まで、小島さんは働いた。
 
難民救助後は、救急処置はもとより、食事の用意からトイレ掃除まで、お産以外の業務にも従事する。
また、船ではたった一人の助産師として何人もの妊婦検診を行うが、妊婦の半数は売春やレイプからの妊娠だったという実態。
 
小島さんは、思う。
同じ地球で、同じ時を刻んでいるのに、たまたま生まれた国が違うだけなのに、どうして世界はこんなに違うんだろう。
日本という国に生まれ、自由に行動する権利が私にはありました。そして、世界を見ると、それは誰もが持っている権利ではないとわかりました。
 
折しも、シリアで拘束されたフリージャーナリストの安田純平さんが解放されて帰国し、またしても、ネット上では、自己責任論が炎上しているとのこと。
でも、日本では想像できないような、海外で今、起こっている事実を誰かが伝えてくれなければ、私たちはそんな実態を知ることすらできないと思う。
 
実態を知っても、何か大きな貢献ができるわけではないが、それでも私たちができることは、きっとある。
 
※この本の印税の一部は、地中海救助船で働く市民団体「SOSメディテラネ」にあてられるとのことです。
また、「小島毬奈」でネット検索すると、いくつかのサイトで、写真も含め、彼女が書いた海外の実態を読むこともできます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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