- ホーム >
「心の病」の労災認定〜その3
今回は、「心の病」の労災認定〜その3です。
前回、「心の病」の労災申請について、その出発点として、症状を捉
えることの大切さについて書きました。
今回は、「発症時期」について書いていきます。
前回書きましたように、「心の病」の労災認定に関しては、厚生労働
省は、平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障
害等に係る業務上外の判断指針」(以下単に判断指針といいます)を示
し、「精神障害等」に関する労災認定は、この判断指針よることとされ
ています。
判断指針に従って労災申請の準備を行う場合には、前回述べたように、
「対象疾病」を裏付ける様々な事情の確認が必要ですが、一方で、「発
症時期」についての検討も平行して行うことが必要となります。
それは、判断指針においては、判断要件として、
@対象疾病に該当する精神障害を発病していること
A対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、客観的に当該精神障害
を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められ
ること
B業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病
したとは認められないこと
の3要件をあげ、その3つの要件いずれをも満たすことが必要としてい
ることと関連しています。
@の要件については、前回述べたところですが、Aの要件の「発病前
おおむね6ヶ月の間」に業務が、客観的に当該精神障害を発病させる強
い心理的な負荷となっていたことが必要としていることに注意が必要で
す。
判断指針の考え方は、該当する精神障害の発病を前提にして、その発
病した時を基準にして、その発症時期を境にして、その時より6ヶ月以
前の、仕事上生じた出来事を対象にして、その出来事が、発症させるお
それのある強い心理的負荷と評価できるか否かを検討するとしています。
そして、「発症時期」以降の業務上の出来事に如何に強い心理的負荷
をもたらすものがあっても、それは、「発症時期以降」の出来事として、
評価の対象とはしないという考え方を示しています。
私は、そうした「発症時期」以降の出来事であっても、具体的な発症
状況を踏まえて検討の対象にすべきと考えていますが、現在の労働行政
では、そのような考えはとっていません。
したがって、「発症時期」が何時の時点であるかということは、その
時期以降の出来事が評価の対象にならないということを前提にすると、
非常に大きな意味を持ってくるのです。
たとえば、平成21年6月に発症したと認定した場合には、その後の
平成21年7月に、仕事の変更が行われて、全く経験のない分野につい
ての開発担当者に選任され、何の援助も行われないまま、対応に困って
自ら命を絶つに至ったようなケースでも、その7月の仕事上の出来事は
評価の対象とはされないのです。
多くの場合は、そうした事情があれば、実際にその心理的負荷の影響
により大きな症状の変化が存在するため、実際の「発症時期」を7月以
降に認定すると思われますが、些細な体調の変化を気にして、精神科の
診察を受け、「軽度のうつ状態」と診断されて、対処療法的な薬などが
出されていると、その時期に発症していたという認定が行われることも
あるのです。
したがって、病状の聴き取りを行うとともに、その中で、仕事との関
連も踏まえて、「発症時期」について、具体的な検討を行うことは極め
て重要なことになります。
こうした検討には、専門的な知識を持った医師とも連携をとらせてい
ただき、しっかりとした展望をもった全体の主張を検討していくことが
経験上必要と考えています。
次回は、仕事上の出来事評価について書いていきたいと思います。
弁護士 佐 藤 克 昭
No.42: 「心の病」の労災認定〜その2
No.41: 「心の病」の労災認定〜その1
No.40: 「過労死」等の労災認定〜その5
No.39: 「過労死」等の労災認定〜その4
No.38: 「過労死」等の労災認定〜その3
No.37: 「過労死」等の労災認定〜その2
No.36: 「過労死」等の労災認定について
No.35: 「一筆をとる」ということの意味〜その2
No.34: 「一筆をとる」ということの意味
No.33: 「調停」とはどのようなものか?(その5)
No.32: 「調停」とはどのようなものか?(その4)
No.31: 「調停」とはどのようなものか?(その3)
No.30: 「調停」とはどのようなものか?(その2)
No.29: 「調停」とはどのようなものか?(その1)
No.28: 弁護士との「打合せ準備」(その4)
No.27: 弁護士との「打合せ準備」(その3)
No.26: 弁護士との「打合せ準備」(その2)
No.25: 弁護士との「打合せ準備」(その1)
No.24: 弁護士にかかる「費用」
No.23: 弁護士の「専門」
No.22: 弁護士との相性
No.21: 「法律相談」と「事件の依頼」
No.20: 「消費者契約法」:「レンタルビデオの追加料金」
No.19: 「消費者契約法」を知っていますか?
No.18: 高額な買い物をするときには、契約書を確認しましょう。
No.17: 以前からサラ金とお付き合いのある方は再考を!
No.16: 「過払い金返還請求」
No.15:「エステ、英会話教室、学習塾、結婚紹介サービス」の契約について
No.14:「クーリングオフの仕方」
No.13:「特定商取引法」に関する最高裁判例
No.12:「特定商取引に関する法律」例1
No.11:「特定商取引に関する法律」とは
No.10:「法律相談を受けるにあたっての予備知識」
No. 9:「弁護士の選び方」
No. 8:「頸肩腕症候群」
No. 7:「ハンコ」
No. 6:「法定成年後見制度の種類とその選択」
No. 5:「後見等開始の審判前の保全処分」
No. 4:「任意成年後見制度」
No. 3: 相続財産に賃料収入のある不動産が存在する場合の相続開始後遺産分割終了時までの賃料の帰属
No. 2: 遺言と遺言をする能力
No. 1: 遺言をするなら・・・
