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佐藤弁護士のなるほど講座

  

「過労死」の労災認定〜その2

今回は、「過労死」の労災認定 その2 です。 前回書きましたように、過労死に関する労災認定においては、労働基 準法75条を踏まえて、労働基準法施行規則第35条を前提にするもの として、「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するか否 かを個別に判断するという考えが、厚生労働省の基本的な対応です。  そして、その判断を全国どこの労働基準監督署においても同様のもの がなされるようにするために、厚生労働省は、「通達」をだし、具体的 な過労死の労災認定に当たるようにしてきました。その通達のことを、 「認定基準」と呼んでいます。過労死の労災認定の実務においては、こ の「認定基準」が決定的な意味を持っています。 現行の「認定基準」は、2001年12月12日に出されたもので、 「2001年1063号通達」と私は呼んでいます。 この通達それ自体にも、多くの問題を含んでいますが、労働基準監督 署長による労災認定においては、とにもかくにもこの通達を前提にして、 労災であるか否かが判断されることになりますから、労災を申請するに あたっては、この通達の内容と運用の実際を、十分に理解して、監督署 に対する資料なども整理をしていくことが必要となります。  この労災認定基準を前提にすることなく、業務に起因するか否かの判 断がなされることとなるのは、その監督署長の業務外の判断を争う行政 裁判になってからのことなのです。  もちろん、労災申請の段階でも、認定基準の形式的な当てはめや運用 を批判し、本来のあり方を論じる上では、認定基準の問題点などを意見 書などで述べることもありますが、むしろ、労災申請における監督署な どでの議論の仕方と行政裁判における議論の建て方は異なるものになる というのが私の現実的な対応であり考えとなっています。  私が、過労死問題に関与し始めた頃の認定基準「基発116号」は、 1961年に出されたもので、その通達では、「発症から24時間以内 に災害と認められるような事態が存在すること」が必要な要件となって いるものでした。  こうした極めて狭い基発116号の認定基準の考え方から、現在の認 定基準に至るまでには、多くの行政裁判による判決が積み重ねられ、最 高裁判所の判断などが示されることが必要となりました。  過労死の労災申請や行政裁判、そして会社に対する損害賠償の裁判そ れぞれにおいて、こうした認定基準の変遷やその根拠となった判例、医 学的な文献による解明をしっかりと踏まえた対応ができるか否かが、大 きな影響を持つこととなっています。  次回は、まず、現行の過労死認定基準の内容とそれに基づいた労働者 側の対応の心構えを、書いていきたいと思います。                      弁護士 佐 藤 克 昭



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