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今回のテーマは、「ハンコ」です。
時々、「身近な法律問題についてのお話をしてください。」との依頼を受けて、30分
余り「身近な法律問題」のお話をする機会があります。
その時、私が題材に選ぶ一つに「ハンコの話」があります。
そうした際には、「印鑑の管理をしっかりするように。」「簡単に判を押してはいけま
せんよ。」という話をします。
それは、よく話を聞かないままに判を押すと、その書類が一人歩きをして、自分では思
ってもみなかった負債や義務を負わされてしまうことが多いからです。
私は、裁判になりますと、「そのような契約は知らない」「そんな約束はした覚えがな
い」と反論しても、これこの通りと「契約書」「確認書」という書面が提出され、そこに、
こちらの判が押してあり、裁判官が「この判はあなたの判ですか。」と確認し、「ハイ、
この判は、私の判に間違いありません。」と答えると、裁判官は、「この契約書は、本人
が作成したものであるから本人の意思に基づくものとして請求は認めることになります。
」と言われてしまうことになる等と説明しています。
契約などをする場合に、実印による押印と印鑑証明書の添付を求められるのは、そうす
ることにより、上記したような場合に、契約書に押されている印影が、その人本人のもの
であることが証明できるからでもあります。
従って、やはりハンコは、しっかりと管理し、判を押す場合にはその書類の内容をよく
確認して、押すことが必要なのです。
しかし、一方で、実際には、同じ家に住んでいる夫や妻が、その判を勝手に用いて、そ
の名義の保証契約書や抵当権の設定契約をしてしまうということも無いわけではありませ
ん。
そのようなご相談も時々お聞きします。
このような場合は、最初に書きましたように、裁判官の中には、その印影が実印として
登録されているものである以上、その責任は負わなくてはならないと簡単に責任を負わせ
てしまう方もおられるようです。
私たち弁護士も、原則としては、そのような相談を受けた場合には、「かなり難しいで
すね」という微妙な回答をすることが多いと思われます。
しかし、判例の中には、そのような事案でも、その契約書が作成されたときには、その
本人は旅行で遠くへ長期にわたって出かけており、実際に本人が押したということがあり
得ない。ということを認定して、その責任を排斥したり、そのハンを預かった人間が、本
人に無断で判を使用しなければならない特別の事情が認められ(例えば印鑑を預かってい
たものが経済的に困窮していて融資を受けるために保証人が必要であった等)、印鑑を勝
手に使ったということが、立証された場合などにも、その責任を否定するものがあります。
その意味では、簡単な法律相談で、原則的な問題を説明され、「難しい」という説明を
受けても、いろいろな事情をしっかり整理して、何とか有利にならないかを検討してもら
うこともあながち意味がないわけではありません。
ハンコの管理や押印には慎重でなくてはなりませんが、万一トラブルに巻き込まれた場
合には、その経過や事情などもよく整理して、そうした事情も含めて検討してもらえる法
律事務所に相談されることも大切なことではないでしょうか。
弁護士 佐 藤 克 昭

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