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「過労死」の労災認定〜その4
今回は、「過労死」の労災認定〜その4です。
今回は、前回概略的に述べました過労死認定基準として示されている
時間外労働時間数に関する基本的な考え方を踏まえて、さらにつっこん
だ対応方法を書いていきます。
前回、「過労死」認定基準の基本が、「時間外労働時間数」の把握に
あること、30日を1ヶ月として発症前6ヶ月の時間外労働時間数を把
握し、直前1ヶ月の時間外労働時間数が100時間を超え、または、前
6ヶ月の平均時間外労働時間数が月平均80時間を超えていることを、
認定基準は求めていると書きました。
しかし、では、「80時間を超えていないと労災と認められないのか」
という問題が出てきます。
私は、現行の脳・心臓疾患の労災認定基準を前提にしても、「80時
間を超えていない場合でも労災として認定される場合を予定している。」
と考えています。
* ここで、「現行の脳・心臓疾患の労災認定基準を前提にしても」
と書いたことには大きな意味があります。この連載は、あくまで
「労災認定」を前提にして書いています。
「労災認定」は、労働行政が全国一律の判断基準を持ちそれに従
って労災として認めるべきか否かを判断する行政判断の1つです。
それ故に、あくまで、認定基準を前提にして、担当する労働基準
監督署の担当官は判断を行います。担当官は、これは何とかしてあ
げたいと考えても、「認定基準」を無視する形での判断はできない
のです。
一方で、私は「認定基準」の内容について、問題点が少なからず
存在すると考えており、実際に、行政裁判において監督署長が出し
た不支給処分をとりけすよう求めて、「認定基準」の問題点を指摘
して、不支給処分を取り消し、労災認定をうながす判決を勝ち取っ
てきています。しかし、そうした裁判には時間と費用がかかります。
そうしたことから、判決で示された裁判所の判断を踏まえて、現
行の「認定基準」の内容を前提にして、その運用をより趣旨に従っ
たものにしていくことも大切と考え、「認定基準を前提にしての過
労死の認定」を、求めていくことが大切ではないかと考えています。
少し横道にそれてしまいましたが、本題に戻ります。
「認定基準」は、「業務による明らかな過重負荷」により、「自然的
経過を超えて発症した」ことを、基本的な労災認定上の要件としてとら
えていると考えられます。
「認定基準」には、その「業務の過重負荷」として、長期間にわたる
疲労の蓄積も考慮することとし、その内容として前述した前6ヶ月の時
間外労働時間数の考え方を示しているのです。
同時に、認定基準には、「業務の過重性の評価にあたっては、労働時
間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状況等を具体的かつ客観的に把
握、検討し、総合的に判断する必要がある」と記載されているのです。
したがって、労働時間つまり、時間外労働時間数だけが認定の要素で
はなく、「勤務形態」「作業環境」「精神的緊張の状況」等も、判断の
要素として、「総合的判断」をすることを求めていると考えられるので
す。
つまり、前6ヶ月の時間外労働時間数が、月平均80時間に及ばない
場合であっても、「勤務形態」等の「負荷要因」を検討して、「総合的
判断」として、「業務起因性」を認めることを予定していると考えられ
ます。
具体的には、不規則勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交
替制勤務、深夜勤務等があげられます。
労働時間数を計算してみたところ、前6ヶ月の時間外労働時間数が、
月平均80時間には満たないものの、「仕事以外に原因は考えられない」
「大変な状況だった」等という声があがっている場合には、さらにその
働き方や勤務状況を分析検討することが必要になるわけです。
こうした場合には、様々な認定された事案を念頭において、その申請
内容を検討することが必要になりますので、そうした、対応が見通せる
専門家に相談されることが大切になってきます。
弁護士 佐 藤 克 昭

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