1. >
佐藤弁護士のなるほど講座

  

「特定商取引法」に関する最高裁判例

 2回にわたり、「特定商取引に関する法律」に関するお話をしてきましたが、過日、こ の「特定商取引に関する法律」(以下特定商取引法とします)に関して、最高裁判所が一 つの判断を示しましたので、今回はこの判決について紹介したいと思います。  この判決は、新聞などにも報道されたものですが、ある著名な外国語会話教室の受講契 約に関するものです。  この外国語会話教室の受講契約は、あらかじめ料金規定に従った受講料を支払い、その 受講料に応じたポイントを登録しておいて、登録したポイントを使用して、1ポイントに 月1回の授業を受けるということを内容としています。  問題は、こうした受講契約において、当初にたくさんの登録ポイントで契約すると割安 なポイント単価になる料金規定となっており、そのため当初に多くのポイントを前提にし た契約を行うことが一つのセールスポイントになっていたのです。  しかし、その契約を途中解約した場合には、その精算について、当初のポイント単価で はなく、別個の精算規定を置いており、その精算規定による計算では、半額以上も損をす ることになってしまうというものです。  最高裁判所第三小法廷は、今年の4月3日の判決において、次のような判断を示し、精 算規定は、実質的には、損害賠償の予定または違約金の定めとして機能するもので、規定 の趣旨に反して受講生による自由な解除権の行使を制約するものとして無効であるとしま した。  本件受講契約は、「特定商取引法」にいう「特定継続的役務提供契約」にあたる。  同法の49条1項2項の規定の趣旨に照らし、精算にあたって評価すべき使用済みポイ ントの対価額は、契約時単価によって算定されるべきであり、精算規定に従って算定され る使用済みポイントの対価額は、契約時単価によって算定される使用済みポイントの単価 額よりも常に高額となることから、解除があった場合にのみ適用される高額の対価額を定 める本件精算規定は、役務提供事業者が役務提供受領者に対して同法49条2項1号に定 める法定限度額を超える額の金銭の支払いを求めるものとして無効というべきであり、本 件解除の際の提供済役務対価相当額は、契約時単価によって算定された本件使用済みポイ ントの対価額と認めるのが相当である。  この判決は、外国語会話教室会社が、その精算条項を定めるにあたって、関係省庁にも 事前に相談をして了解を得ているという主張をしていたことからも、注目されていたもの でしたが、最高裁判所は、この「特定商取引法」の趣旨を十分にふまえた、消費者保護の 立場からの判断を下したものと思います。  特定商取引法は、49条で将来にわたって当該契約の解除をすることができることを定 め、同条2項1号は、解除された場合には、損害賠償の予定または違約金の定めがあると きにおいても、提供済み役務対価相当額と解除によって通常生じる損害の額として政令で 定める額(5万円または総額から提供済み役務対価相当額を控除した額の2割に相当する 額のいずれか低い額)を合算した額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算 した金額を超える額の金銭の支払いを請求することができないと定めています。  この規定は、契約期間が長期にわたることが少なくないことから、役務受領者(つまり 契約者)は、自由に契約を将来に向かって解除できることにするとともに、この自由な解 除権の行使を保証するために、契約を解除した場合に、過大な請求を受けることの無いよ うにしたものと考えられます。  最高裁判所の判断はこうした、特定商取引法の規定の趣旨をふまえたものということが できるでしょう。                             弁護士 佐 藤 克 昭



<トップページへ>