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佐藤弁護士のなるほど講座

  

「過労死」等の労災認定について

これまでは、民事の身近な問題などを取り上げつつ、実践的な解決や 対応を考えていただくことを念頭において記事を書いてきましたが、今 回以降しばらくは、私がライフワーク的に取り組んできています労災職 業病のことについて、順次書いていこうと思います。 今回は、「過労死」の労災認定〜その1〜です。  6月8日、厚生労働省は、「平成20年度における脳・心臓疾患及び 精神障害等に係る労災補償状況について」を発表しました。  「過労死」等事案の請求件数は、平成20年度で、全国で889件、 労災として認定された件数は377件とされています。  業種別では、運輸業が最も多く、職種別では、運輸通信従事者が最も 多いとされ、年齢別では、50歳代が最も多いようです。  私が、過労死に取り組み始めた25年以上前と比較すると認定件数は 飛躍的に増加しています。  しかし、一方で、まだまだ多くの方々が、労災と認定をされない状況 が現実には存在すると共に、労災申請そのものをされないままになって いる方々もかなりの数に上るものと思われます。  それは、過労死の認定にあたって、監督署が、個別にそれぞれの事案 を検討し、「認定基準」を前提にした対応をしていることにも原因があ ると思います。     * 「過労死」という言葉を、厚生労働省はなかなか使用してきませ   んでしたが、この間の社会状況の中で、厚生労働省自身も「過労死」   という用語を使用するようになってきています。「過重負荷による   脳・心臓疾患」、「いわゆる過労死」という表現方法をとることが   一般的です。     労働基準法は、使用者が災害補償責任を負う業務上疾病の範囲につい て、その施行規則別表第1の2に列挙しています。(労働基準法75条、 同施行規則第35条)。  しかし、これまでは、「過労死」等仕事上の加重な負荷により発症す る脳血管疾患・虚血性心疾患等は、その分類リスト化された項目に該当 するものがなく、第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」 として個別事案ごとに業務上か否かの認定を行うというものになってい ます。 このため「業務に起因することが明らか」であることを、個々の個別 事案ごとに認定を行うことが必要であり、業務に起因することが「明ら か」であることを検討することとなり、過労死の認定を困難で大変なも のにしている側面があると思います。 * この間厚生労働省は、「労働基準法施行規則第35条専門検討会」   を設置し、労働基準法施行規則第35条のリストへの追加について   検討を始めています。この検討会で、「過重負荷による脳血管疾患   及び虚血性心疾患」(過労死等)「心理的負荷による精神障害」   (過労自殺等)が別表にリスト化されることとなれば、過労死や過   労自殺等が、業務上の疾病として明確に位置づけられたこととなり、   認定業務にも大きな影響をもたらすことになるのではないかという   期待を持つ論者もいます。                      弁護士 佐 藤 克 昭



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