1. 黒澤弁護士の“知ってますか”

黒澤弁護士の“知ってますか”

息子が父親の成年後見人になれる?

Q:
父に最近認知症状が現れたため、成年後見の申立をしようと思うのですが、息子の私が成年後見人として選任してもらえるのでしょうか。

A:
成年後見の申し立ては家庭裁判所に行うことになりますが、申し立ての際に、後見人の候補者がすでに存在する場合は、候補者の住所・氏名などを記載して提出することになります。

したがって、息子さんが成年後見人として関与する意向を有しているのであれば、その旨を記載して申し立てを行うことになります。

ただ、後見人として誰を選任するかは裁判所が決定するため、親族間で紛争が生じているケースや法律問題の処理が必要なケースなど、被後見人を取り巻く状況によって候補者として記載されている以外の者(たとえば、弁護士など)が選任されることも珍しくありません。

申立が受け付けられると家庭裁判所から申立人や候補者に対して事情聴取が行われ、ケースによっては親族照会も行われ、その内容も後見人選任の判断資料とされます。

注意しなければならないのは、一度申し立てがなされると裁判所が仮に予定していた候補者が選任されない方針を示したからといって、勝手に取り下げることができないことです。

一度なされた申し立てを取り下げる場合には、裁判所の許可が必要となります。

                       弁護士 黒澤誠司

「終活」の講師に行ってきました

 先日、「終活」をテーマに講師を行ってきました。

 あまりお話しをする機会のないテーマで、私自身、葬儀やお墓など人生の終焉に向けての事前準備のイメージを持っていたのですが、最近は、「人生のエンディングを考えることを通じてこれまでの人生を見つめ直し、今をより良く、自分らしく生きるための活動」という意味合いになってきているようです。

 日本は、今4人に1人が65歳以上の超高齢化社会となっており、他人や家族に迷惑をかけないようにと終活を考える人が増えています。

 インターネットで検索すると終活のセミナーや終活をサポートするNPO団体、民間業者、終活専門誌、終活ライフケアプランナーといった民間の資格まで存在します。

 一般に終活の手始めとして「エンディングノート」を作成することが勧められています。

 たしかに、自分が抱えている漠然とした不安や悩みなどは頭で考えていてもなかなか整理ができないですが、文字にして表すと自分の考えが非常に整理されていきます。

 そうした作業をすることで自分が本当にやりたかったことなどが明確になり、残りの人生を目的意識を持って生活できるようになるという終活は非常に意味のあることだと改めて思いました。

 多くの人は小さい頃に大人になったときのいろんな夢を抱いていたと思います。

 「エンディングノート」を作成することで今一度自分が本当にやりたかったことを再認識してみてもいいかもしれませんね。

                         弁護士 黒澤誠司

医療事故訴訟の審理期間

医療事故訴訟の審理期間は一般民事の裁判に比べて長くかかると言われています。以前は5年以上を要する事件も珍しくありませんでしたが、平成15年に裁判の迅速化に関する法律ができてからは裁判所も医療専門部を設けるなどして期間が短くなる傾向にあります(平成27年時点では京都に医療専門部は設けられていません)。平成25年の最高裁の報告書によれば、医療事故訴訟の一審の平均審理期間は2年強となっています。ただ、それでも民事一審訴訟の平均審理期間の約3倍はかかっています。また、上記期間は提訴してから一審判決が出るまでの期間なので、原被告のいずれかが不服申立(控訴)手続きを取ることになるとさらに期間は長くかかります。さらに、医療事故訴訟の場合、提訴時までに証拠保全や過失の有無について見通しを立てる「調査」の期間が必要になることが多いので、当事者としては、やはり相当長期間かかることを覚悟する必要があります。もちろん事件を引き受ける弁護士の側も相当の覚悟をもって引き受けることになりますが…。

原付バイクで転けました

先日、原付バイクで走行中、小雨の中急ブレーキをかけたため転倒をしてしまいました。幸い周りの人に迷惑をかけることはなかったのですが、たまたまパトカーが通りかかりました。膝の打撲と擦過傷程度だったので、お巡りさんに「大丈夫です」と言ったのですが、「事故だから交通課を呼びます」、「救急車は呼ばなくて良いですか」と言われました。さすがに救急車は固辞したのですが、わざわざ交通課の方がおいでになり、事故状況について尋ねられました。仕事柄実況見分調書はよく見るのですが、自分で指示説明をすることになるとは思いませんでした。私の場合、怪我が大したことなかったのですが、それでもどこでブレーキをかけた等を事故直後に尋ねられてもなかなか明確に答えられないものです。何事も自分で経験することで具体的なイメージが持てるものだと実感しました。あと、年とともに体の治りが遅くなることも痛感いたしました。

京都市ゴミ屋敷条例

京都市がいわゆるゴミ屋敷対策のために「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例」を制定しようとしています。条例案では、行政の改善命令に従わない場合は、強制的に「ゴミ」の処分を行うことができる内容となっています。大阪市など一部自治体でも条例が制定されているところがありますが、他の自治体の条例では、有識者による審議会が設置され強制処分を行う前にその意見を聞かなければならないとされています。ところが、京都市の条例案ではそうした審議会の設置が予定されていません。「ゴミ屋敷」を作ってしまう人の多くは地域社会から孤立し、何らかの問題を抱えている人です。医療や福祉の専門家の意見を聞くことなく強制的に「ゴミ」を処分できるというのは、いかがなものかと思います。

もちろん、「ゴミ屋敷」が地域住民にとって大きな問題であること、その改善が必要であることは全く同意見です。しかし、強制的に「ゴミ」を処分するというだけでは根本解決にはならず、同じことが繰り返されるだけでしょう。その人が抱えている根本の問題を解決しなければなりません。

嫌なもの、見たくないものは、隔離排除するという最近の風潮がありますが、隔離排除して私たちの目につかないようにすることだけで問題を解決したことにはなりません。行政は、野宿者を公園から閉め出すために寝ころべないように長いすの間に仕切りをもうけたり、寝泊まりできないように橋の下にフェンスをはったりしていますが、同じような安易な考えだと思います。行政は個人とは異なりそうした問題を抱える人を救う力を有しているのですから、安易な方向に流れないように願うばかりです。

解釈改憲

  安倍首相が憲法解釈を変えるなどと言い、マスコミも一つの争点のように取り上げることで、解釈改憲が可能なことを前提としてその是非が問題であるかのような扱われ方をしてきました。

 

  しかし、一応司法試験を経てきた者としては、是非以前にそもそもあり得ない話しだと思います。

 

  司法試験の問題とした場合、今回のような解釈改憲は可能と答えないと不正解になるのでしょうか。

 

  一度、裁判官・検察官・弁護士にアンケートを取ってみて欲しいと思います。

 

            弁護士 黒沢誠司

フェイスブック

先日、誕生日を迎えましたが、フェイスブックでつながっている複数の方からお祝いのメッセージを頂きました。
昔ご依頼をいただいた方からもお言葉を頂いたりして、元気な様子をしることができ、本当にうれしい限りです。一度ご依頼を受けると数年にわたっておつきあいをさせていただくことが多いため、お互いの人となりを知ることもあり、事件終了後も交流が続くことがあります。
最近忙しくてフェイスブックもなかなか見ることができないのですが、メッセージを受け取る側に立つと本当にうれしいものなので、誕生日のメッセージくらいはできる限り送るようにしたいと改めて思いました。

ラーメン

唐突ですが、ラーメンが好きです。内輪の話で恐縮ですが、実は今、京都弁護士会内で何処のラーメンがおいしいかということで密かに盛り上がっています。ちなみに、私の一押しは「一蘭」です(京都にも支店があります)。豚骨ベースだと思うのですが、微妙に甘いスープとちょっとしたこってり感がツボにはまってしまいました。仕事で遠出したときなどは良くラーメンを食べてくるのですが、正直京都のラーメンは全国的にもトップレベルと思います(ちなみに「一蘭」は京都発祥ではありませんが…)。どこで食べても大体一定レベルを維持しているのが凄いと思います。ただ、一度だけ中京区堀川通り近くでいただいたラーメンはまずかったです。あまりのまずさにその日は体調が悪かったのかもしれないと思い後日もう一度足を運んでいただいてみましたがやはりまずかった。でもしばらく立つと不思議なことに、あのまずさを確かめたい気持ちに駆られます。意外とお客さんがいるので、ついつい「本気でおいしいと思って食べておられるのですか?」などと聞いてみたくなります。おいしいラーメンベスト3も楽しい話しですが、心底まずいと感じた一押しラーメンというのも聞いてみたいです。

参議院議員各位

憲法では衆議院と参議院で国会が構成される二院制が設けられています。衆議院とは異なる角度から改めて参議院で審議がなされることで政権与党(権力)の暴走に歯止めをかけて、多様な意見を国政に反映させることが期待されているわけです。衆議院と参議院で意見が異なることは当然憲法の予定している本来の姿なんですが、今年の参議院選挙では、一部政党やマスコミが「決められない政治」からの脱却、「ねじれ国会の解消が争点」などと宣伝・報道し、まるで両院の意見が異なることが悪いことであるかのようなイメージが植え付けられました。その結果、参議院選挙でも自民党が圧勝し、ここぞとばかりに数の力にものを言わせて強行採決の連発を行っています。今世論は特定秘密保護法について慎重審議を求める意見が多数となってきていますが、もし参議院が憲法が本来想定しているように「ねじれ」ていれば、自民党の拙速な審議と強行採決を防ぐ役割を果たすことができるのになぁと残念に思わざるを得ません。参議院議員各位には、後世で「あのとき特定秘密保護法案について賛成した議員だ」と後ろ指を指されないように政党の党議拘束というようなちっぽけなことに捕らわれない見識のある行動を強く期待したいと思います。

名前を覚える

昨日は弁護士任官の企画に参加をしたところ、以前京都地裁に3年ほどおられた裁判官も参加しておられました。裁判官は1人で常時200件前後の事件を担当しておられるので、以前事件を担当していただいたことなど覚えていただいているはずもないと思っていましたが、思いがけず懇親会で名前で声を掛けていただきました。とても感激しました。恐らくこっそり参加者名簿に目を通された上でのことだったのでしょうが、それにしても裁判官がそうした心遣いをされることに感激です。私は特に人の顔と名前を覚えるのが苦手で、いつも難儀しているのですが、名前を覚えるということはとても大切なことだと再確認いたしました。

外国人からお声をかけていただいた

昨日、弁護士会主催の特定秘密保護法案反対の街頭宣伝に参加をしたところ、四条河原町で突然外国人から「Can You Speak English?」と尋ねられ、思わず「あいあむそーりー」と答えてしまいました。もっと英語を勉強しておけば良かったと反省しつつ、大勢の人が行き交う中なぜ私が選ばれたのか? 英語を話せそうに見えたのであればちょっと嬉しいかも。

預貯金のみの相続と遺産分割調停

Q
  父が他界しました。預貯金のみが相続財産だったのですが、相続人間で協議がまとまらなかったため、家庭裁判所に遺産分割調停の申立をしたところ、「一般調停の扱いになります」と言われました。どういうことでしょうか。


 遺産分割調停は、未分割の遺産があることが前提です。

 ところが、遺産が預貯金のみの場合、相続開始時に銀行に対する払戻請求権が、法定相続分で法律上当然に分割されて各相続人に帰属していると考えられているため、未分割の遺産がないことになります。

 遺産分割調停の場合、調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が遺産に属する物または権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。

 しかし、本件のように預貯金のみが相続財産で法律上未分割の遺産がないと考えられる場合は、一般調停として扱われ、話し合いがまとまらず不成立となった場合も、当然に裁判官の判断による審判に移行することはありません。

 なお、現金については、有体物であって可分債権ではないから当然に分割されて承継されるものではないと考えられており、ゆうちょ銀行の定額貯金についても、預金から10年間は原則として払戻ができないので、未分割の遺産として扱われます。ややこしいですね。

            弁護士 黒澤 誠司

氏や名の変更の手続

Q:氏・名の変更は、どのような場合に認められますか。

A:氏の変更については、戸籍法107条1項に定めがあり、「やむを得ない事由」がある場合、戸籍の筆頭者および配偶者が家庭裁判所の許可を得て行われます。

 この「やむを得ない事由」の有無については、家庭裁判所が個別のケースごとに判断することになりますが、一般にその氏を継続することが社会生活上著しい支障をきたす場合をいうとされており、例外的な場合でないと認められないと理解した方がよいでしょう。

 具体例としてよくいわれているのは、①難読、珍奇な氏であったり、他人との区別がつかないなど、その氏の継続を強制することが社会観念上はなはだしく不当であると認められる場合、②通称氏を長年使用し、その氏の変更を認めないと社会生活上著しい支障をきたすと認められる場合、③婚氏の続称の届出期間経過後に、その婚氏に変更を認めないと社会生活上著しい支障をきたすと認められる場合等があります。
 
 
 これに対して名の変更については、戸籍法107条の2で「正当な事由」によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならないと規定しています。

 名の変更の要件である「正当な事由」については、氏の変更の要件である「やむを得ない事由」より緩やかに解されていますが、家庭裁判所の許可が必要であることは変わりありません。

 具体的に変更を検討される場合は、弁護士に相談された方がよいでしょう。

               弁護士 黒澤 誠司

被相続人の生前中に書かせた相続放棄の書面の効力

Q : 親兄弟に散々迷惑をかけてきた三男が、「自分は迷惑をかけてきたから、父の相続が発生したときは、相続権を放棄します」という念書を作成すると言い出したので、念書を書いてもらい、実印を押してもらいました。有効でしょうか?

 

A : 無効です。このような念書を書いてもらっていても、また推定相続人全員の合意の形を取っていても無効です。

 相続放棄は、被相続人の死亡後の家庭裁判所への申述と審判によってのみ効力が発生するからです。

 このようなケースでは被相続人が遺産のすべてを三男以外のものに相続させる旨の遺言書を作成することが考えられます。

 しかし、そのような遺言書が存在していても三男(子ども)には「遺留分」といって、一定期間内に法律で定められた遺留分割合を請求する権利が認められていますので、上記のような遺言書を作成しても、後日三男が心変わりすれば、親兄弟の意向に沿わない結果になる可能性があります(この場合、「相続人の廃除・欠格」という制度も存在しますが、要件がかなり厳しく定められています)。

 もっとも、もし真意に三男がまったく相続はしないという意向を有しているのであれば、三男が自ら相続開始前に「遺留分の放棄」をすることは可能です(民法1043条)。

 ただし、「遺留分の放棄」は必ず家庭裁判所の許可を得ておかなければなりません。

 家庭裁判所としては、①申立が三男の真意に基づいてなされているか、②放棄の理由に合理性・必要性が認められるか、③放棄と引き換えに贈与等の代償給付がなされたかどうかといったことを考慮して、許可をするか否かを判断することになります。

 ただ、こうして考えると、三男が真意に相続したくないとの意向を有しているのであれば、心変わりのリスクはありますが、相続開始後に相続放棄をするか(家庭裁判所への申述は必要ですが、放棄の理由や合理性・必要性等は問われません)、相続開始後に三男の取得分をゼロとして遺産分割協議を成立させる(家庭裁判所への申述も不要です)ことが現実的な方策と思われます。

               弁護士 黒澤 誠司

お腹の赤ちゃんに相続権は認められるか?

 妊娠中に夫が死亡した場合、妻のお腹の赤ちゃんに相続権が認められるでしょうか。
 相続権が認められるか否かで結論が大きく異なってきますので、知っておく必要があります。
 
 人は、生まれてはじめて権利を有し、義務を負担する能力を取得するというのが大原則です。
 しかし、それでは将来生まれることが予想される胎児にとっては不利益となることから、相続に関しては、例外的に「胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなす」と定められています。

 ただ、現実には、流産等の可能性も否定できないため、判例では、胎児の段階では、まだ相続権はなく、将来生まれてきた時点で、相続開始の時にさかのぼって相続権を有していたものとして扱われることになります。

 少しややこしいので例をあげると、妊娠中に夫が死亡した場合、赤ちゃんが生まれる前に赤ちゃんを除いて遺産分割協議をすると、その後赤ちゃんが生まれた時点で、赤ちゃんも相続人に加えた形で遺産分割協議をやり直さなければならないということになります(相続回復請求権を行使)。
 これは、手続としては非常に面倒ですので、妊娠中である場合、赤ちゃんが実際に生まれてから遺産分割協議を行ったほうがよいと思われます。

 なお、赤ちゃんは意思表示ができませんから、赤ちゃんを相続人に加えた形で遺産分割協議をする場合、家庭裁判所に対して特別代理人を選任してもらい、その特別代理人に加わってもらって遺産分割協議を行うことになります。
 母親は赤ちゃんとともに相続人となるため、特別代理人になることはできませんので注意が必要です。

                       弁護士 黒澤 誠司

身寄りのない人が死亡したときの財産はどうなるか?

 最近、相続財産はあるのだけれど、相続人がまったくいないケースや、相続人がいるのかいないのか分からないケースの相談を受けることがあります。

 こうした場合、そうした方の世話をしてきた方から相談を受けることになります。

 この場合、家庭裁判所に対して相続財産管理人選任の申立を行い、裁判所から「相続財産管理人」を選んでもらうことになります。

 相続財産管理人は、亡くなった被相続人の債権者等に対して一定期間内に請求をするように官報に公告し、その後、相続人がいるなら一定期間内に名乗り出るようにさらに官報に公告します。

 それでも相続人が名乗り出ない場合に、相続人の不存在が確定します。

 官報を日常的にチェックする人はいないので、通常は名乗り出る人がないまま相続人の不存在が確定することになります。

 被相続人の債権者に対しては、相続財産の中から支払いがなされますが、それでも余剰があった場合、残った相続財産は原則として最終的に国のものになります。

 ただ、

  ①被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻や事実上の養子など)
  
  ②被相続人の療養看護に努めてきた者(生計を同じくしていなかった親族、友人など)

  ③その他、特別に縁故があった者(①②に準ずる者)

については、一定期間内に家庭裁判所に特別縁故者として財産の分与を請求することで、被相続人の相続財産の全部または一部を受け取ることができます。

 冒頭のケースで相談を受けたような場合は、この時点で特別縁故者として財産の分与の請求をしてもらうことになります。

死亡退職金は相続財産か ?

 生前に支給された退職金、並びに退職後で退職金の支給を受ける前に死亡した場合の退職金はいずれも相続財産となります。

 

 ただ、本人の死亡後、遺族等に支払われる死亡退職金が相続財産に含まれるか否かについては、昔から争いがありました。

 

1.死亡退職金の支給について受給権者が規定されている場合

 

 就業規則等で受給権者が被相続人と定められている場合は、相続財産となります。

 

 他方、遺族等と定められている場合、考え方が分かれますが、最高裁を含めた多くの判例は、死亡退職金について遺族の生活保障が目的であると考えて、相続財産ではないと判断しています。

 

2.死亡退職金の支給について受給権者の規定がない場合

 

 例えば、死亡退職金についての定めが勤務先会社に存在していなかったが、本人の死亡後、勤務先会社の決議で死亡退職金を支給する旨の決議を行って遺族に支払いをした場合などについては、判例でも考え方が分かれていました。

 

 ただ、最高裁判所昭和62年3月3日判決では、退職金支給規定を有しない財団法人の理事長が死亡した後に、理事会が亡理事長の妻に対して死亡退職金を支給する旨の決議を行い支払った事案について、死亡退職金は相続財産として相続人の代表者としての妻に支給されたのではなく、相続という関係を離れて亡理事長の妻個人に支給されたものであると判示して相続財産ではないとの立場に立ちました。

 

 死亡退職金が相続財産となるのか否かは、被相続人が他に多額の負債を抱えており、相続放棄を検討しなければならないケースなどでは、重要な問題となりますので、慎重な事前の検討が必要です。

 

 

2013年1月7日  弁護士 黒澤 誠司

囲繞地(いにょうち)通行権の対価

 京都でも比較的多く見られるのですが、ある土地が他の所有者の土地に囲まれて、公路に出るためには他人所有の土地を通らなければならないような土地が存在します。これを「袋地」と言います。

 「袋地」の周りの土地所有者全員が自己の所有土地を通らせないと言い出すと、当該「袋地」は利用価値のない土地となってしまい、これは社会経済的に見てよろしくないということで、「袋地」については、法律上当然に「囲繞地(いにょうち)通行権」というものが認められています。

 「囲繞地通行権」というのは、難しい言葉ですが、簡単に言うと「ある所有者の土地が、他の所有者の土地等に囲まれて(この状態を囲繞という)、公路に接していない場合に、囲まれている土地(袋地)の所有者が公路まで他の土地を通行することができる権利」です。

 このような土地の位置関係にある場合に、囲んでいる側の土地を「囲繞地」といいます。

 「囲繞地通行権」は「袋地」所有者に法律上当然に認められる権利ですが、反面、囲繞地に損害を与えるものですから、囲繞地通行権者は、囲繞地の所有者に対して、償金(対価)を支払わなければならないのが原則です。

 ただ、例外として、共有土地を分割して袋地を生じさせた場合や、一筆の土地を分筆して袋地を生じさせた場合は、そのような分割ないし分筆をすると「袋地」が生じることを承知の上で、分割ないし分筆をしているので、「袋地」所有者は、分割後の残地または分筆前に一筆の土地であった土地を無償で通行することが認められます。

        2012年10月25日  弁護士 黒澤 誠司

医療事故の調査

 最近では、医療事故に取り組まれる弁護士も増えてきましたが、医療事故の場合、いわゆる一般民事といわれる事件とは少し異なる面があります。

 一般民事事件の典型例としては、貸金請求事件や交通事故事件などがありますが、これらの事件については、最初の相談をお聞きした時点で、ある程度、勝訴の見込みやその後の回収可能性の見通しを立てることができるため、2回ほどの打ち合わせで調停や訴訟などで受任をすることが可能です。

 ところが、医療事故の場合、医療行為の内容が問題となるため、最初に相談をお聞きしただけで、医療機関側に過失が認められるか否かの見通しを立てることは困難です。
 そのため医療事故の場合、一般民事事件とは異なり、最初医療機関側の過失が認められる可能性があるか否かについての見通しを立てるための「調査」が必要になり、最初は医療事故の「調査」として受任することになります。

 「調査」の内容としては、具体的にはカルテの取り寄せ(ケースによれば証拠保全)、翻訳、医学文献の調査、判例調査、協力医の意見聴取などです。
 こうした「調査」の依頼からスタートすることが、医療事故と一般民事事件との大きく異なる点の一つだと思います。

 もちろん、「調査」の結果、勝訴が見込まれないとの判断に至ることもありますので、その場合、費用だけかかって何にもならなかったということになりかねず(私はそうは思いませんが…)、弁護士に依頼することへの一つの大きなハードルになっていると思います。
 医療事故は難しい、費用がかかるあるいは時間が掛かるといわれていることの一つの原因はここにあると思われます。

 ただ、この「調査」がしっかりと行われていないと、その後の訴訟等で医療機関側から思わぬ反論を受けて訴訟を維持できなくなるなどの事態も生じうるため、医療事故ではこの調査が非常に重要であると考えています。

        2012年6月8日  弁護士 黒澤誠司

刑の一部執行猶予制度

  昨日、刑の一部執行猶予制度についての講演を聞いてきました。

 同制度の法案は、すでに参議院を通って、現在衆議院で審理中です。

 もともと刑務所が過剰収容状況になっている状況をふまえ、被収容人員適正化方策を検討する中で出てきた法案ということです。

 いろいろ問題点も指摘されており京都弁護士会では今年度反対の意見書を出しております。
 
 そもそもこれまで実刑であったケースが一部執行猶予となるのであれば、たしかに刑務所の収容人数の減少につながるかもしれませんが、これまで全部執行猶予であったケースが一部執行猶予となるのであれば、かえって収容人数が増えることになります。

 当初の検討目的とは異なる結果となる可能性があります。
 
 また、一部執行猶予の場合、保護観察を付けるケースがかなり増えることになることが想定されていますが、現実にこれに対応できる保護司の確保ができるのか、きわめて疑問に思われます。

 重要な改正であるにも関わらず、ほとんど話題にもならず十分な検討がなされていないように思われ気になります…。

           2012年4月25日  弁護士 黒澤誠司