1. 和解で遺言無効を確認して遺産分割をやり直した事案
福山弁護士の「飲み法題」

和解で遺言無効を確認して遺産分割をやり直した事案

  被相続人(親)の遺言に基づいて共同相続人ABCのうち、Aが遺産である不動産2件(自宅と賃貸マンション)を単独相続したという事案で、Bが遺言の無効確認を求めていた訴訟で、先頃、裁判上の和解が成立しました。和解の内容は、遺言の無効を確認した上で、自宅についてはAが単独相続し、賃貸マンションについては売却した上で代金をBCで2分するという内容で、ほぼ法定相続分に近い解決を得ることができました。

 本件では、被相続人が遺言の1年以上前から認知症を患っており、遺言のちょうど1年前の時点で、長谷川式認知症スケールで14点という結果でした。長谷川式認知症スケールは30点満点で、20点以下は認知症の可能性が高いと言われています。また認知症の重症度別の平均点は、非認知症が24.3点、軽度認知症が19.1点、中等度認知症が15.4点、やや高度認知症が10.7点、高度認知症が4.0点とされており、本件の場合は遺言1年前の時点で中等度以上に進行していました。
  また遺言の約半年前に作成された介護保険専用主治医意見書によると、長谷川式スケール16点、「痴ほう性老人の日常生活自立度」は「Ⅲa」(日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ介護を必要とする状態が、日中を中心として見られるレベル)、「理解および記憶」については、「短期記憶」が「問題あり」、「日常の意思決定を行うための認知能力」は「判断できない」となっていました。また遺言の約1ヶ月後のカルテによると長谷川式9点とされていました。

   遺言無効確認請求訴訟において、和解で遺言の無効を確認することは珍しいと思いますが、本件では、診療記録を受任直後に取り寄せて詳細に分析して遺言能力の欠如を明らかにしたことが、上記のような解決に結びつきました。

 相続に関する事件は、財産的な面のみならず、故人に対する思いや故人との関係も含めた心情が紛争の核心にあることが多いと言えます。その意味で、本件では、Bさんの故人に対する思いが守られたことが最も大切な成果だったような気がします。
                                                           以上