1. 交通事故による鎖骨変形障害についての示談解決例
福山弁護士の「飲み法題」

交通事故による鎖骨変形障害についての示談解決例

 交通事故により右鎖骨骨折等の傷害を負った事案について、示談交渉を受任しました。被害者(事故時7歳)は、事故後、PTSD症状もあったため、実通院日数こそ32日でしたが、症状固定までに約2年1ヵ月を要しました。被害者の右鎖骨には、骨折治癒後も、視診上明らかに分かる程度の変形が残りましたが、当初の主治医は、子供の骨変形を後遺症と認めないという特異な立場を取っていました。そこで依頼者と協議した上で、別の大学病院に転院し、後遺症診断書を作成してもらい、12級5号という後遺症認定を受けることができました(症状固定時9歳)。
  加害者は事実関係を全て認めて不起訴処分となっていましたが、その後、死亡してしまいました。加害者は韓国籍だったため戸籍の取り寄せができず、相続人への訴訟提起が困難だったので、任意保険会社との交渉を粘り強く行うことにしました。想定された争点は、①過失相殺の有無、②後遺症逸失利益の有無・金額でした。
 保険会社の当初提案は、過失相殺こそ0%でしたが、通院慰謝料73万円(修正通院期間3.5ヵ月の青本中間値)、後遺症慰謝料224万円、後遺症逸失利益はなし、既払金約270万円を除き50万円余りを支払うという低額提案でした。鎖骨変形の後遺症について、後遺症診断書に「自覚症状なし」との記載があったことから、労働能力の喪失なしと判断されたことが最大の問題でした。
 しかし、鎖骨の変形は、仮に自覚症状がなかったとしても、性質上、外貌醜状と類似の後遺障害であり、12級の醜状障害については、外貌、服装によって就労機会が制限されるとして、後遺症逸失利益を認めた裁判例があること等を主張して、逸失利益として、4,860,600円(賃金センサスによる平成20年産業計・企業規模計・男女計平均賃金)×14%(12級の労働能力喪失率)×11.7117(9歳に適用するライプニッツ係数)=7,969,624円を請求しました。また通院慰謝料は、修正通院期間3.7ヵ月の最大値98万7000円、後遺症慰謝料も12級の最高額300万円、総額で約1200万円(既払分を除き約950万円)を請求しました。
 保険会社の2回目の提案は、後遺症慰謝料を約50万円増額して275万円とした以外は、前回と同じで、後遺症逸失利益はやはりなしでした。さらに交渉を行いましたが、保険会社の回答は、逸失利益を認めるとしても最大5年分(約190万円)までで、それ以上は無理というものでした。それでも諦めずに、裁判例を多数示し、訴訟になった場合の想定損害額も挙げて、繰り返し電話交渉を行いました。その結果、最終的に保険会社から、後遺症逸失利益と後遺症慰謝料、通院慰謝料の合計で730万円、総額で約1000万円(既払分を除き730万円)という回答を引き出すことができたため、その時点で示談に応じることにしました。この額は、後遺症慰謝料を300万円、通院慰謝料を100万円とした場合、後遺症逸失利益は330万円と10年分の逸失利益にほぼ等しい額です。
 不十分な部分は残りますが、裁判に持ち込むこと自体の困難さがあったことや、鎖骨の変形について、必ずしも労働能力喪失を認めない裁判例もある中で、交渉による解決としては、一定の水準をかちとることができたのではないかと思います。
                                                                    以 上