1. 集団的自衛権についての権力者の”嘘” ~ その7
小笠原弁護士の“知っ得”

集団的自衛権についての権力者の”嘘” ~ その7

 高村試案は、1972年政府見解の3要件について、憲法の基本原則である平和主義に立ち戻って論理を展開していない、単に安全保障環境が変わったという理由で変更し、新しい3要件を示しました。

 憲法9条の下で許される自衛の措置とは何か、その解釈を変更するわけですね。権力者の嘘をじっくり見破りましょう。

 憲法の基本原則である平和主義は、前文に「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」「この憲法を確定する」と宣言しているように、日本の政府が二度と戦争をしないように定めた基本原則であることは明らかです。

 そして、9条は、1項で戦争と武力の行使を放棄し、2項で陸海空軍その他の戦力を持たない、交戦権は認めないと定めて、非武装平和主義の立場を選択しました。

 120年前に帝国主義国家であったわが国は、日清戦争から太平洋戦争までのいわゆる50年戦争を遂行し、侵略と領土拡大を推し進めました。

 広島、長崎の被爆を契機に敗戦を迎え、新しい日本国憲法は、二度と戦争はしないと誓いました。

 加害者としての経験と被害者としての体験をしたわが国は、また、軍隊は住民の命を守らないことを沖縄戦で痛切に学び、戦争や武力で国際紛争の真の解決をはかることはできないことを知り、発達した現代化学兵器の前に人類はその生存自体を脅かされる現実を認識して、単に戦争放棄を宣言するだけではなく、戦争の手段である軍隊その他の戦力を持たないと決断しました。

 戦争をしようとする政府の手足を完全に縛ったわけですね。

  この平和主義に立ち戻って自衛の措置がどこまで許されるかを考えたとき、高村試案にあるような新しい3要件を導くことができるでしょうか。

 少なくとも、平和主義に立ち戻らず、単に必要性だけを論拠とする議論に、論理的整合性はありません。
 

    弁護士 小笠原 伸児