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岡根弁護士のぼやき論壇

  
  

密室での取調でしか真実は明らかにならないの?!

 刑事事件に関連して、被疑者の取調を可視化すべきであるという要請が強くなっていま す。要するに、取調の際に、取調の現場をビデオ撮影したり、少なくとも録音したりして、 どういう取調がなされているのかを後で検証するようにすることが必要だと言うことです。  鹿児島で起こった被疑者全員が無罪となった志布志事件や富山での懲役刑を終わった後 無罪が判明し冤罪であったことが明らかになった氷見事件など、ここのところ、杜撰な捜 査(日常的な捜査?)により、犯罪の被害とは別に、公権力により新たな被害者が作り出さ れています。  これらの冤罪は、氷山の一角で、泣き寝入りをしてしまっている人や冤罪を訴えている のに裁判所が(無罪を)認めない事件は、たくさんあります。冤罪事件を扱った周防正行監 督の「それでも僕はやっていない」という映画は、誇張でもなんでもなく、むしろ控えめ に、捜査や刑事裁判の現状をリアルに表現していたと思います。  そこで、冤罪を防止するためには、取調を透明にできないのか、ということが問題にな ります。お隣の韓国をはじめ多くの国では、既に取り入れている制度です。  ところが、検察庁は、強力に抵抗しています。  その言い分は、平たく言えば「ビデオの前では、被疑者は真実を語らない」という検察 庁の思い込みです。そういえば、検察官を志望する司法修習生と話しをしていたときも、 カメラの前では(被疑者は)話しをしないでしょう、ということを言ってましたね。密室で しか真実は明らかにならない、検察官がよく言うことですよね。  でも、密着取材しているようなテレビ番組でも、最初はぎこちないかもしれないけど、 すぐにカメラなんか意識しなくなります。そうでなければ、密着取材番組なんか「やら せ」ばかりになってしまい、やってられないことでしょう。  実際諸外国で可視化制度を導入してからは、むしろ取調の時間も減り、効率的になった という実態やカメラの前だから話しをしないというようなことはないことは、実証されて きています。   本当に困るのは、違法な取調を繰り返している捜査側です。ところが、カメラを向けら れ困るのは、被疑者ではなく捜査官(検察官や警察官)なんだと言うことは、口が裂けても 言えませんから、「被疑者が真実を語らなくなる」などというなんの根拠もない言い訳を 繰り返すのです。  そのくせ、こっちが被害者の方に喫茶店等に出てきてもらい、被害弁償について示談を すると、示談書の言葉の意味がわかりにくいから(例えば「宥恕」)厳罰を求める気持ちに 代わりはないんだというような、電話聞取書や被害者の調書を証拠として提出してきます (もちろん不同意にはしますが)。この場合、多くは、被害者はあらためて、検察庁に「出 頭」を要請して検察官の取調をすると同じ部屋で聞き取りをしたりします。  真っ昼間の喫茶店(できるだけ被害者の方に場所を指定してもらうようにします)で、 弁護人としては、被害者の怒りを少しでも緩和してもらおうとして交渉するのに、そんな 場所で脅迫なんかしないでしょう。  もちろん、ビデオで取られてもかまいません。  検察庁も、後ろ暗いことがないのであれば、可視化に抵抗する必要性はありません。  もちろん、可視化が導入されたら万全、などと言うつもりはありません。少しでも冤罪 を防止するためには、最低でも、取調の可視化は必要だと思います。                             弁護士  岡 根 竜 介



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