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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜憲法改正国民投票法附帯決議その2

 みなさん、こんにちは  自民党は、党本部で憲法審議会を開催し、会長の中山太郎氏が、国民投票法の会を衆議 院の小選挙区ごとにつくる必要があると述べて、憲法改「正」に向けた国民運動を盛り上 げる組織を設置すべきだという考えを示したそうです。  よっぽど、加藤周一さんや井上ひさしさんや大江健三郎さんらが結成した「九条の会」 の活動やその広がりが、目の上のたんこぶなんだなあと思います。  さて、前回に引き続き、憲法改正国民投票法について、参議院憲法調査特別委員会がつ けました附帯決議の内容についてお話しします。 ■公務員等及び教育者の地位利用について  今回審議で大問題になった論点ですが、この附帯決議も驚きます。  まず、公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制については、意見表明 の自由、学問の自由、教育の自由等を侵害することとならないよう特に慎重な運用を図る と述べています。  しかし、日本国の基本法である憲法を改正するかどうかの国民投票ですから、本来は、 主権者である国民が、賛成であれ、あるいは反対であれ、自由な立場で投票運動をするこ とができなければなりません。公務員や教育者だけ、国民投票運動の規制をすることには、 極めて異論があります。自民党は、公務員の労働組合を嫌悪してこのような規制をもうけ たと言われていますし、それを認める発言も国会審議の中でなされていますが、自由や平 等といった基本的人権を全く理解しない暴論だと言わざるを得ませんね。  この附帯決議は、続いて、禁止される行為と許容される行為を明確化するなど、その基 準と表現を検討すること、とありますが、びっくりしますね。  この附帯決議は、国会審議を通じて、いかなる言動や行動が地位利用に該当するのか、 規制を受けるのか、具体的に明確な基準を示せなかった、だから、附帯決議という形で、 法律の“欠陥”を補おうとしたのです。  これって、やっぱり国会の怠慢ですし、公務員や教育者の立場からするならば、自らの 言動や行動が、どこまで許されて、どこからが禁止されるのかが不明確なため、結局萎縮 させられてしまうわけで、もし、その萎縮効果を狙ったとするならば、極めて悪質なやり 方だと言わなければなりません。 ■罰則について  この附帯決議には、正直、本当にびっくりしました。  次のように述べています。     罰則について、構成要件の明確化を図るなどの観点から検討を加え、必要な法制    上の措置も含めて検討すること  この法律では、罰則に関しては、第2章第8節に、組織的多数人買収及び利害誘導罪 (第109条)とか職権濫用による国民投票の自由妨害罪(第111条)とか多衆の国民 投票妨害罪(第115条)などの規定をもうけています。  この附帯決議は、これらの罰則規定について「構成要件の明確化を図る」よう「検討」 せよと言っているのです。どうしてびっくりするのか。  刑罰法規は、これこれの行為(犯罪行為ですね)をしたならば、これこれの刑罰を科す という法規です。そして、刑罰は、身体の自由や財産の安全、さらには生命をも侵奪する 重大な国家行為ですから、どのような行為が犯罪行為に該当して、どのような刑罰を科せ られるかについて、事前に、明確な基準を示しておかなければならないとされています。 でなければ、国家の恣意的な判断で犯罪行為と断定され、刑罰を科せられることになり、 私たちの自由、生命、財産は危機に瀕してしまうからです。つまり、私たちの自由や生命、 財産の安全などの基本的人権を保障するために、犯罪行為とその犯罪行為に対応する刑罰 は、事前に、明確な基準に基づいて規定しなければならないとされているのです。罪刑法 定主義の重要な内容のひとつですね。  ところが、この附帯決議は、罰則規定について、その構成要件つまりいかなる行為が犯 罪行為に該当するのかについて「明確化を図る」ようにせよと言っている、つまり、罰則 規定は構成要件が不明確であると言っているわけです。  明らかにこの決議は、法律の条文化を手抜きしましたと宣言している決議です。  近代刑法の大原則である罪刑法定主義について、国会議員とりわけ与党の議員の皆さん は、全く理解していない、本当に開いた口がふさがらないということはこういうことを言 うのだと実感しました。                     弁護士 小 笠 原 伸 児  



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