1. 配偶者居住権ってなあに〈改正相続法のはなし〉
改正相続法のはなし

配偶者居住権ってなあに〈改正相続法のはなし〉

配偶者居住権とは?

 被相続人の配偶者は、被相続人が所有する建物に相続開始時に居住していた場合、一定の要件を満たせば、居住していた建物を相続しなくても、そこに無償で居住することができるようになりました(民法1028条)。

 例えば、被相続人であるHさんが、遺産として2000万円の居住用建物としての自宅と預金2000万円を死亡時に持っていたとします。相続人は配偶者であるWさんと娘のDさんの2人です。Hさんは遺言を残さなかったため、WさんとDさんは法定相続分に従い、各2分の1ずつHさんの遺産を相続します。Wさんとしては、長年住み慣れた自宅を手放したくありません。そこで、自宅を相続したいと考えていますが、そうすると2000万円の預金は全てDさんのものとなり、Wさんの手元には今後の生活をしていくためのお金がありません。

 このような場合に、自宅の所有権をDさんに相続させ、配偶者居住権をWさんが相続し、預金は2人で分けることで、Wさんの生活場所と生活費の確保を図れるのです。

 

どんな場合に権利取得できるの?

 配偶者居住権は、無条件で取得できるものではありません。

 簡単にいえば、①相続人全員で決める②被相続人が決める③家庭裁判所の判断で取得させるという3つのパターンがあります(民法1028条1項、1029条)。

 

配偶者居住権の内容ってどんなもの?

①存続期間(民法1030条)

 特別な取り決めをしなければ、配偶者が終身の間、すなわち死亡するまで存続するのが原則となります。

②無償の使用収益権(民法1028条1項)

 居住期間中は賃料の支払義務がありません。

 ただし、遺産分割においては配偶者居住権自体の価値は評価されるので、無償というのはあくまで賃料支払義務がないという意味であることに注意しなければなりません。

 

配偶者居住権に デメリットはあるの?

 配偶者居住権は創設されたばかりの権利ですが、現段階で少なくとも以下の4つのデメリットも指摘されています。

①不動産の譲渡・売却ができない

 自宅に住み始めた後に認知症を発症したため病院や介護施設へ入らざるを得なくなった場合、配偶者居住権は原則として配偶者が死亡するまで有効に存続するため、実際には配偶者が住んでいなくても、配偶者居住権はなくなりま せん。そのため、第三者は住むことができないため、自宅は売れず、もてあましてしまうことになります。

②所有者の税負担が大きい

 固定資産税は通常不動産の所有者が負担するものですが、改正相続法では配偶者居住権を取得した者は通常の必要費として、固定資産税の支払義務を負います。しかし、これはあくまでも「建物」についてであるため「土地」については原則どおり土地所有者が支払義務を負うことになり、土地所有者にとっては自分が住んでいない土地の税金を支払うことになるので不満を感じやすくなります。

③配偶者の年齢によっては手元に残るお金が少なくなる

 配偶者居住権の価値は存続年数が長ければ高くなります。そのため、配偶者の年齢が若ければ配偶者居住権の価値も相対的に高くなるため、その分手元に残るお金が少なくなります。

④利用できるのが法律上の配偶者のみ

 配偶者居住権は被相続人の配偶者が利用できる権利なので、事実婚や内縁配偶者は対象外となっています。

 以上のように、デメリットもある配偶者居住権。これを利用して、住み慣れた家に住み続けながら、後の生活資金も残せるという利点をとるかどうか、迷ったら、弁護士にご相談ください。