1. 相続法改正・遺留分〈改正相続法のはなし〉
改正相続法のはなし

相続法改正・遺留分〈改正相続法のはなし〉

 遺留分減殺請求の問題点

 遺留分制度とは、例えば、1人の相続人に全財産を相続させるとの遺言が残された場合、他の相続人が最低限主張できる相続分をいいます。民法では、法定相続分の半分が「遺留分」 として保障されています(なお、第2順位の相続人だけの場合は3分の1、第3順位の相続人には遺留分はありません)。

 改正前は、遺言により法定相続分を超えた財産を相続した相続人が、遺留分が確保できなかった相続人から、遺留分減殺請求権(権利を侵害された人が遺留分を取り戻す請求)を行使されると、全ての財産が共有状態になってしまい、単独での利用が妨げられたり、すぐには処分できないことになっていました。  

 そのような場合、遺産分割の実際の場面の多くのケースでは、差額を支払うことにより解決しようとしていたと思われますが、遺留分の返還方法が決まっていたわけではありません。金銭で返還するように請求するような権利は認められていませんでした。現物で返還するか金銭で弁償するかの選択肢は返還請求に応じるべき相手方にあったのです。その際、遺産の中に遺留分を満足させるだけの預貯金がある場合や、 相手方に蓄えがあれば、それで対処できたかもしれません。しかし、遺産が不動産のみである場合などは、共有状態では容易に売却もできませんので、解決に困難を伴うことが往々にして生じていました。

 

 遺留分の「減殺請求」から「侵害額請求」へ

 そこで、改正法では、遺留分の返還方法については、遺留分減殺請求という形ではなく、遺留分を侵害された額の請求が出来るもの(遺留分侵害額の金銭を請求できる権利)とすることにしました(新民法1042条から1049条)。つまり、遺言によって単独で不動産を取得した場合には、「遺留分減殺請求」により共有になることがなくなったので、単独で利用・処分することが可能となりました。そのうえで、遺留分侵害額はいくらになるのか、どのように支払うのか、という問題として解決をはかっていくことになったのです。  

 また、遺留分侵害額の算定に当たって、改正前は、遺留分を算出する基礎財産に生前贈与を 受けていた分(特別受益)が贈与の時期を問わずにすべて遺留分算定の基礎となる財産に含まれることになっていました。改正法は、これを改め、生前贈与について持ち戻す期間を相続開始前の10年間に限るものとし、対象となる贈与も、婚姻や養子縁組のためのものか生計の資本として受けたものに限ることになりました。

 なお、例えば遺産の中に預貯金等が少なく、遺言により不動産を取得した様な場合において、侵害された価額の返還をする現金が不足するような場合には、支払いについて相当の期限を許与しうることとなりました(1047条5 項)。そのため、すぐに不動産を売却しなければならないというような事態を回避することも可能となっています。

 この改正により、事業を継続していく上で不可欠の財産を取得したにもかかわらず、単独での利用が妨げられたり、その解決のために当該不動産を処分せざるを得ない状況に陥ってしまうことが回避しやすくなったといえます。そのことから、中小業者に多い同族会社などの事業承継対策が行いやすくなったと言われています。