1. パート、派遣、契約社員の権利
安心して働き続けるための法律問題

パート、派遣、契約社員の権利

Q:パートや派遣、契約社員などの非正規労働者にはどんな権利がありますか?

 

雇用期間満了後の更新拒否(雇止め)は仕方ない?

 期間満了後の雇止めは労働契約法19条により制限されます。すなわち、①労働者が契約期間満了日までか満了後遅滞なく契約更新の申し込みをした場合で、②過去に反復更新され雇止めが期間の定めのない労働者の解雇と同視できる場合か、又は契約更新への期待に合理的期待がある場合で、使用者の更新拒否が客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当と認められないときは、使用者は従前の有期労働契約と同一労働条件で申込を承諾したとみなされます。

 上記の②の判断は、仕事の内容、雇用の臨時性・常用性、更新回数、通算雇用期間、更新の手続、雇止めの実態、使用者の言動などによって判断されます。このように非正規労働者の雇止めは法律で制限されており、諦めることはありません。

 

定年後に再雇用を求める権利はありますか?

 高齢者雇用安定法により、55歳以上の労働者について、65歳未満の定年制をとっている事業所は、65歳までの雇用確保のために、①定年引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制廃止のいずれかの措置を取ることが義務づけられます。

 ②の継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度をいい、事業主は全ての希望者を65歳まで継続雇用しなければなりません。 

 継続雇用制度では雇用形態に規制はありませんが、65歳まで原則として契約が更新されることが必要です。継続雇用後の労働条件について、正社員と業務の内容及び責任の程度、配置転換の範囲等で相違がないのに、精勤手当を支給しないこと、精勤手当を超勤手当の算定の基礎に含めないことは違法とする最高裁判決が言い渡されています(長澤運輸事件最判平成30年6月1日)。

 

非正規社員には社会保険の適用はないのですか?

 「雇用保険」「労災保険」「健康保険」「厚生年金保険」の4つを総称して「社会保険」と言いますが、パートやアルバイト、派遣等の非正規社員にも適用があります。

 雇用保険(失業保険)については、①1週間の所定労働時間が20時間以上で、②31日以上引き続き雇用される見込みがあれば、非正規社員も雇用保険への加入が必要です。保険料は労使で負担しますが、農林水産業や建設業などを除く一般の事業の場合、労働者の負担は給与の0.3%、使用者の負担は0.6%です(2021年度)。

 労災保険は、仕事が原因でけがや病気になった場合に、治療費や休業損害などの補償を受けるものです。労災保険は、正規・非正規を問わず、全ての労働者に適用されます。労働者を1人でも雇用する事業所は加入が義務づけられ、保険料は全額事業主負担で労働者負担はなく、労災が発生した場合、事業主が保険料を払っていなくても労働者は労災請求できます。

 健康保険・厚生年金保険は、非正規労働者でも、以下の条件を充たせば、セットで加入が義務づけられます。まず適用事業所ですが、すべての法人事業所と従業員5人以上の個人事業所は強制適用、5人未満の個人事業所は任意適用です。次に適用労働者ですが、①1週間の決まった労働時間が20時間以上あること、②1ヵ月の決まった賃金が88,000円以上であること、③雇用期間が1年以上見込まれること、④学生でないこと(但し夜間・通信・定時制の学生は対象となる)、⑤従業員数501人以上の会社で働いていること又は従業員数500人以下の会社で働いていて社会保険に加入することについて労使で合意がなされていること、の5つの要件をみたすときは加入が義務づけられます。

 

 

正社員と非正規社員との待遇差別は仕方ない?

 

〇正規・非正規間の不合理な差別禁止

 我が国では非正規労働者が2100万人を超え、非正規率は約4割に達しており、格差是正・均等待遇の実現は喫緊の課題です。そこで2013年に同一企業内での正規労働者と非正規労働者との間の不合理な差別を禁止する労働契約法20条が施行され、その規定がパートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)8条に引き継がれました。

 それによると基本給・賞与その他の待遇につき「不合理と認められる相違を設けてはならない」とされています。不合理か否かの判断要素は、(ⅰ)業務の内容と責任の程度(=職務内容)、(ⅱ)職務内容と配置変更の範囲、(ⅲ)その他の事情の3つです。特に上記(ⅰ)(ⅱ)が通常の労働者と同じパート・有期労働者に対しては、基本給、賞与その他の待遇について「差別的取扱いをしてはならない」とされています(9条)。

 旧労契法20条に関しては、2018年6月1日のハマキョウレックス事件最判及び長澤運輸事件最判、2020年10月13日の大阪医科薬科大学事件最判及びメトロコマース事件最判、同月15日の日本郵便事件最判と、この間、5つの最高裁判決が出されたので、それらを簡単にまとめてみます。

 

〇ハマキョウレックス事件最高裁判決

 ハマキョウレックス事件最判は、旧労契法20条に関する初めての最高裁判決で、同条は「有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で労働条件に差異があり得ることを前提に・・・職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」とし、私法上の効力を有するとされました。

 同事件は有期雇用のトラックドライバーの雇い止めの有効性と各種手当ての支給が論点となった事件ですが、最高裁は雇い止めは有効としたものの、①無事故手当、②作業手当、③給食手当、④通勤手当、⑤皆勤手当の不支給を不合理として損害賠償請求を認容しました(但し、住宅手当と賞与の請求は否定)。

 

〇長澤運輸事件最判

 長澤運輸事件最判は、定年後再雇用された有期雇用のトラックドライバーについて、職務内容は定年前と同一なのに労働条件が正社員と相違していることの当否が争われた事件で、定年後再雇用の場合でも労契法20条の適用があるとされたものの、定年後再雇用という事情を上述の「(ⅲ)その他の事情」として考慮し、①能率給、②職務給、③精勤手当、④住宅手当、⑤家族手当、⑥役付手当、⑦超勤手当、⑧賞与のうち、③及び⑦の相違のみ不合理として損害賠償請求を認容しました。

 

〇大阪医科薬科大学事件最判

 大阪医科薬科大学の研究室秘書に従事してきたアルバイトの秘書(有期雇用・時給制)と正職員秘書(無期雇用・月給制)との間の、賞与及び私傷病休職等の労働条件の相違が問題となった事件で、賞与につき正職員の60%の支給率を下回る部分について不合理とするとともに、私傷病休職中の給与保障等に関する労働条件の相違を不合理とし大学に損害賠償を命じた大阪高裁判決を変更し、最高裁は賞与及び私傷病休職中の給与保障等に関する原告の請求を退ける不当判決を言い渡しました。

 同最判は、労契法20条に関し、ハマキョウレックス事件最高裁判決が立てた「均衡のとれた処遇を求める規定」との趣旨に全く言及せず、賞与の支給目的を、正職員としての職務を遂行しうる人材の確保・定着とした上で、アルバイト秘書と正職員秘書との間の職務内容に共通する部分はあるものの一定の相違がある等として、不合理であるとまで評価できないとしました。

 また私傷病休職中の賃金についても、長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって就労することが期待される職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるとし、原告と正職員秘書との間に職務の内容や配置の変更の範囲に一定の相違があること等として、相違は不合理とは評価できないとしました。

 しかし、労契法20条は均衡のとれた処遇を求める趣旨ですから、職務の内容等について一定の差異があっても共通する部分があるなら、それに応じた均衡ある処遇が求められます。賞与等について割合的な支給すら否定するというのは極めて不当と批判されています。

 なお同最判が、「その他の事情」として、アルバイト職員から契約社員および正職員へ職種変更するための試験制度があることを考慮していることは注目される点です。このような人事登用制度があるか否かが、労働契約法20条に違反しない事情の1つとして考慮されるということが、最高裁によって明示されたことになります。

 

〇メトロコマース事件最判

 地下鉄の売店販売員として長年勤務してきた契約社員の退職金格差が問題となったメトロコマース事件について、最高裁は、正社員の支給率の4分の1を下回る部分を違法としていた東京高裁判決を取り消し、原告らの退職金格差に関する請求を棄却する不当判決を言い渡しました。

  この事件でも、最高裁は、ハマキョウレックス事件が判示した「均衡のとれた処遇を求める」という旧労契法20条の趣旨について言及せず、逆に同事件では挙げられなかった「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図るため(いわゆる有為人材確保論)」という抽象論を認定し、些細な職務内容等の違いを「(ⅲ)その他の事情」に盛り込んで判断し、割合的な支給すら認めませんでした。極めて不当な判決です。

 これに対して、宇賀克也裁判官が、正社員と契約社員の職務内容に大きな相違はないとの反対意見を付していること、林景一裁判長及び林道晴裁判官が、「有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。」との補足意見を述べている点は注目されます。

 メトロコマース事件の原告はいずれも10年ほど勤務をしてきた人達です。いざという時の責任の程度や配置転換等の可能性に違いがあったとしても、日常的には正社員も契約社員も概ね共通する業務に従事してきたにもかかわらず「契約社員は退職金ゼロ」とされてしまうのは均衡処遇に反します。

 

〇日本郵便3事件最判

 最高裁は、①扶養手当、②年末年始勤務手当、③有給の病気休暇制度、④夏期冬期休暇及び⑤祝日給手当について、各手当等の趣旨が原告ら契約社員にも当てはまるものとして、格差は不合理であり違法とする原告勝訴判決を言い渡しました。また、⑥会社が転居を伴う配置転換のない正社員にのみ支給していた住居手当を不合理なとした高裁判決について会社側上告を受理せず、住居手当の格差を違法との判断を確定させました。

 最高裁が、扶養手当(家族手当)や住居手当、一定の休暇等の格差を不合理なものとして違法とした点は、格差是正を一歩前進させるものとして評価できます。とりわけ同事件の大阪高裁判決が手当や休暇の多くについて勤続5年超の労働者のみ違法と判断した「5年基準論」を最高裁が明確に排斥した点は重要です。

 

〇まとめ

 最高裁が、諸手当や休暇制度等について格差是正に動いたことは一定評価できるが、非正規と正規との大きな格差の要因となっている基本給や賞与・退職金などの基本的労働条件の格差是正に踏み込まなかったことは時代遅れと批判されています。しかし、ここで気を付けなければならないのは、最高裁は、「賞与や退職金は、いかなる職場でも非正規雇用労働者には支給しなくてもいい」と言ったわけではないということです。また、最高裁は、賞与や退職金を非正規雇用労働者に支給してはいけないと言ったわけでもありません。正社員と非正規雇用労働者の労働条件に格差を設けることが合理的と言えるかどうかということを、それぞれの事案ごとに判断をした結果、これらの事案では合理的と言えるだけの事情がたまたまあったにすぎず、格差が一般的に許容されたものでない点に注意する必要があります。

 従って、今後、団体交渉などにおいて、使用者側が、非正規雇用労働者の格差是正を求めた際に、メトロコマース事件や大阪医科薬科大学事件判決をもちだして、当然に格差是正をしなくても違法ではないなどと言ってきた場合には、労働組合としては「それぞれの職場で格差が合理的と言えるかが重要なのであるから、合理的であると言えるだけの根拠を示せ。」と迫ることが大切です。パート有期法14条や派遣法31条の2では、待遇差の内容や理由を説明する義務が使用者に課されています。従って、使用者に対して、具体的・合理的な理由をきちんと説明させること、その説明ができないのであれば待遇差を解消しろと要求することが求められます。

 今後、さらなる格差是正と同一価値労働同一賃金の実現に向けて運動をさらに強めることが必要でしょう。