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福山弁護士の「飲み法題」


  

     民営化について考える(その2)

           7月31日、埼玉県ふじみ野市の市営プールで、7歳の女児が排水口に吸い込まれて死 亡するという痛ましい事件が起きた。この事件は、排水口のふたが外れたことが直接のき っかけで起こったが、排水口のふたがボルトなどで固定されず針金で止められていただけ であったこと、吸い込み防止金具が取り付けられていなかったこと等の原因が指摘されて いる。  こうした直接の原因の背景事情として、ふじみ野市がこの市営プールの安全管理を民間 のビルメンテナンス会社に委託していた事実、その会社はプールに社員を派遣せず、監視 員の募集や教育も任せるなど、業務を下請けに丸投げしていた事実が発覚した。しかも下 請けへの再委託には契約上、市の承諾が必要なのに、同社は市に無断で丸投げしていたと いうのである。  この事件をめぐっては、すでにマスコミやインターネットなどで様々な議論がなされて いる。総じて、市当局の無責任体質を問題にし、行政がきちんと点検すべきであったとの 主張が多い。確かに、市営プールである以上、市がきちんと点検すべきというのは、それ 自体、間違ってはいないだろうが、事故の原因を考える上で、プールの安全管理が民営化 されていたことは無視できまい。  安全管理に万全を尽くすには、当然ながらそれ相応の人員や手間、コストがかかる。そ れを利潤追求を原理とする市場原理に委ねてよいのかを改めて問い直す必要があると思う。 この間、「民にできることは民で」を旗頭とする小泉内閣の下、多くの自治体で、業務の 効率化やコスト削減等を理由に公共施設の民間委託や民営化が進められてきた。マスコミ も規制改革や民営化を煽っているのが実態である。普段は「公務員には任せられない」と 言いながら、何か起こったときだけ「公務員は責任を果たせ」と主張するのは、ご都合主 義というものであろう。  プールに限らず、民間委託や指定管理者制度等を通じて民営化された公共施設において、 コスト削減のために、無理な人員削減が強行されたり、労働者の多くがパートやアルバイ ト等の非正規労働者に切り替えらる例は枚挙にいとまがない。多くの企業で強行されてき たリストラが物語るように、コスト削減とは人件費削減を意味する。公務員がやろうが民 間がやろうが、効率優先でコストを抑えて利益をあげようとすれば、排水口を針金で止め たり、カナヅチのバイト高校生を監視員として雇うような業者が生じても不思議ではない。  また、ふじみ野市は昨年10月に旧上福岡市と旧大井町の合併により誕生したが、問題 のプールは合併前は旧大井町の町民プールで、町職員が毎日、点検をしていたが、合併後 は2日に1回に減っていた。これについて、ふじみ野市は「合併で管理施設が倍増し、職 員の手が回らなくなった」と説明している。仮にこのことが事件の一因であるとすれば、 今回の事件は民営化のみならず、「合併」という名の自治体リストラが生んだ悲劇である とも言える。  今回の事件のみならず、JR福知山線の脱線事故、耐震偽装問題等、私にはこの間、耳 目を集めた事件の多くが、効率重視、安全軽視社会への警鐘と思える。民営化は効率重視 の象徴である。私たちは、民営化によって、命や安全を市場原理に委ねてよいのかを改め て考え直す必要があるのではないだろうか。                       弁護士 福 山 和 人



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