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岡根弁護士のぼやき論壇

  
  

「高裁判決を嘆く」

   先月の2月27日、大阪高等裁判所で、学生無年金裁判の判決(控訴審)がありました。 控訴棄却。1審京都地裁で原告が敗訴していますので、上告しなくてはいけないことにな りました(既に上告及び上告受理申立済み)。  学生無年金裁判とは、学生の間に交通事故などで重度の後遺障害を負った場合、その学 生が国民年金に加入していない場合には、障害基礎年金がもらえないことになってしまう のですが、そんな状態を40年以上も放置してきたことが問題ではないかとして年金支給 及び損害賠償を求めている裁判です。  国民年金は、1959(昭和34)年に立法されましたが、その際、国民年金に加入す るのは、20歳以上とされました。国民年金制度には、老齢年金の他に障害年金なども含 まれています。当初の立法では、学生は国民年金の加入は任意とされたことから(強制加 入としなかった)、大半の学生は国民年金に加入していませんでした。無年金の問題が取 り上げられるようになってきた1989(平成元)年時の調査でさえ、学生は1.2%程 度しか加入していませんので、それより以前はほとんど加入していなかったと思われます。  学生の中には、当然20歳未満の人もいますが、20歳未満に障害を負った場合には、 立法当時は障害福祉年金という年金(障害年金より少し金額が低い。後の法改正で障害福 祉年金自体はなくなり、同額の障害基礎年金となっている)を受けることができました。 ところが、20歳を超えてしまうと、学生は国民年金には入っていませんので、障害福祉 年金を含め障害年金は一切もらえなくなるのです。  もともと、20歳を超えた学生を「任意加入」としたのは、学生には収入がないからで した。また、通常ですと、卒業すれば就職して厚生年金等にはいることになるので、卒業 まで掛けた掛金が無駄になるということも理由とされました(ただし、2年後の昭和36 年にはこの掛捨て問題は解決されます)。  老齢年金ですと、人は誰しも老いていきますので将来予測できる老いのために、働ける 間から少しずつ蓄えるということを求めてもそんなに不当とは思えません(個人的には少 し違う考えを持っていますが・・・)。ところが、重度の障害を負うことを予想すること は極めて困難です。普通は予測できません。  また、老齢年金では、学生は、卒業後は就職するのが普通ですから、1〜2年掛金をか けるのが遅れても、老齢年金の支給額にはそんなに影響はしません。  ところが、障害年金の場合、もらえるかもらえないか、全か無かです。しかも、障害を 負いながら障害年金をもらえない場合にも、将来の老いのための老齢年金はかけ続けなけ ればならないのです。  そんな事態となることを知っていた学生はまずいませんから、ほとんど加入することな どなかったのです。私も学生時代は、当然加入はしていませんでした。判決を出している 裁判官もおそらくほとんど全員が未加入だっただろうと思われます。  国の制度のもとで、不幸にも学生時代に障害を負ってしまい障害年金を受けることがで きないケースが何万件も発生してきました。中には、20歳になったので、役所に年金の 加入の相談に行ったのに、担当者から、卒業したら厚生年金にはいるのではいる必要はな い、と説明され、その直後(20歳の誕生日からわずか10日程度)に交通事故に遭い障 害を負った人も含まれています。  これは問題だ、ということで、何回も改正がされ、学生も強制加入することになりまし た(現在では、免除申請等をすれば、学生の間は掛け金を支払わなくても大丈夫)。とこ ろが、既に障害を負いながら年金のない多数の人は放置され続けてきたのです。  行政に訴えても改善されない(加入できたのにしていなかった自己責任だ等と言われま ともに取り扱われない)、立法も何十年に亘りほったらかし。(ようやく2年前に特別給 付金制度ができましたが、障害基礎年金からすると極めて不十分です。) 原告らには、最後の最後は、裁判所しか残されていなかったのです。  それにもかかわらず、「少数者の人権の最後の砦」と言われる裁判所でも、無年金障害 者は、人数が少ないので、国が放っておいたことも「合理的」だと言い切ったのです。判 決文には、原告らの実態に触れられた部分は全くありません。それでどうして「合理的」 などと判断できるのでしょうか。  中国残留孤児でもそうですが、裁判所に、少数者の虐げられてきた人権を回復するとい う本来の機能を求めることはできなくなってしまったのでしょうか。  最高裁判所が正しい判断を示すことに期待するしかありません。
                           弁護士  岡 根 竜 介



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