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岡根弁護士のぼやき論壇


  

相隣関係

 毎日顔をつきあわすことになりかねないお隣さんとは、仲良くやっていきたいもので、 余り揉めたくはないですよね。昨年、お昼のワイドショーなどを賑わしていた「お引っ越 し!お引っ越し!」の騒音おばさんのような人がお隣さんになったら、ほんと悲劇としか 言いようがありません。  そこまで極端ではなくても、あれこれ問題となるのが相隣関係です。  ということで、今回は、ちょっと新しい制度のご紹介をさせていただきます。  「隣が新築することになったけど、うちの敷地に侵入している。」「うちの壁の工事を したいのに、お隣さんが敷地への立ち入りを拒むので工事ができない」「隣の窓から覗か れているようで、不安」「夜中にドラムを叩かれてうるそうてたまらん」など、いろいろ あります。中には、そもそも法律的な解決ができないケースもたくさんあります。  そのうち、お隣の敷地との「境界」に争いがある場合、どうすればいいか、以前から問 題となっていて、「境界確定訴訟」「所有権確認訴訟」などがありましたが、土地登記簿 に1筆ずつ登記された土地の相隣接する境である境界を決める手続(一種の行政処分)は、 境界確定訴訟だけです。この訴訟では、裁判所は、当事者の主張に拘束されませんので、 いろんな資料を見る中で、当事者の言い分のいずれとも食い違うと考えられるような場合 には、両当事者が全く主張していなかった位置に境界が存在するという結論もありえます。  ただ、普通、訴訟までして争うというような場合には、純然たる境界線のみの紛争は少 なくて、土地所有権の有無やその範囲に関する紛争がほとんどだと思われます。純然たる 境界線が必ずしも所有権の範囲と一致しないので、話がややこしくなります。なにを求め るかによって、選べる手続も変わってきます。いくら隣同士が合意しても、純然たる境界 線の位置は変わりません。  いずれにせよ、これらの手続には、時間と費用がかかるのでなかなかそこまではできな いと諦めていた場合もあったと思われます。  この「筆界」(境界と同じような意味)を確定する方法として、今年(2006年)1 月20日から新たに開始された制度があります。不動産登記法の一部を改正した「筆界特 定制度」です。 この制度は、筆界(境界)に争いがある当事者が申し立てることにより、筆界特定登記 官が筆界調査委員の調査を経たうえで、現地における筆界を特定するというものです。  土地の筆界について、迅速かつ適正な特定を図って、筆界をめぐる紛争の解決を容易に しようと設けられたものです。しかし、筆界特定登記官が行うことは、事実の確認(特 定)であって、新たな筆界の形成、確定までの効力はありませんので、法的に筆界を確定 する必要があるときは、やはり、今までと同じように境界確定訴訟(民事訴訟の手続によ る境界確定)によることになります。これにより筆界が確定した場合には、筆界特定は、 抵触する範囲でその効力を失うとされています(不動産登記法148条)。  この筆界特定の制度の立法化議論がされた当初は、境界確定訴訟は廃止することも検討 されていたようですが、結局存置される(併存する)ことになりました。  したがって、どの制度を利用するのかは、当事者が選択するするしかありません。例え ば、離婚訴訟などのように、訴訟をする前に離婚等の調停を先にしなければならない(調 停前置)ということもありません。  とはいうものの、筆界特定がされた場合には、そこで特定された筆界について境界確定 の訴訟が提起された場合には、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、登記官に対して筆 界特定手続の記録の送付を嘱託することができます。また、境界確定訴訟が提起された後 (でまだ判決が出ていないとき)に筆界特定がされたときも同様となります(不動産登記 法147条)。  そのような記録を見た上で、裁判所が、境界を確定することになります。  この手続に必要な費用は、例えば、問題となる2筆の土地の合計価格が4000万円で あれば、申立費用は8000円となります。その他に測量費用などが必要となることもあ ります。  境界問題について、迅速な解決の一助となることが期待されます。                            弁護士  岡 根 竜 介



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