- ホーム >
道路の瑕疵〜国賠訴訟
弁護士 岡 根 竜 介

1 名阪国道上で事故に遭い、後続車両を避けようと、中央分離帯と思えた上り線と
下り線の間に避難しようとしたところ、実はそこは地上10m以上の空間になって
いたため、転落し死亡してしまったという事件で、中央分離帯状の部分の空間を放
置したことが道路設置管理の瑕疵にあたると認められました。
2 事故が起きたのは、2000年10月29日(日)午後7時頃、運転していたのは、人生
をこれから謳歌するはずだった当時24歳の青年でした。
遺体が発見されたのは、事故から3日経ってからであり、その間遺体は、雨に打
たれつづけていました。その間両親は、名神・名阪・伊勢自動車道など三重・神戸
間を走り回り、事故報告がないかなどを訊ね、息子を捜し続けていました。
3 名阪国道は、大半が自動車専用の有料道路ですが、一部の区間は、一般国道とし
て無料となっている部分があります(自動車専用道路である点では同じ)。
その一般国道部分に、山間部に架かる橋が架かっています。事故のあった山添橋
もその一つ。山添橋は、上下線が別々の橋桁に支えられ、並行して走っていますが、
つながってはおらず、間が空間になっていました(幅約60p)。その橋の上の西
端から約30メートルほど橋の中央に向かったところで、まず、車が、両輪ともパン
クした状態で前方を中央帯の方に向け衝突するような形で停止していました。ガー
ドレール(正しくは「防護柵」という)には衝突したようなあとが残されていまし
た。その車が停止した場所から20メートルほど後方(橋にかかったところからほん
の10mあたりの場所)の橋の下に、彼は転落していたのです。
転落場所は、昼間であれば、橋の隙間から下方に地肌が見えるので、そこが橋の
上であることを容易に把握することができますし、空間であること容易に分かると
ころです。ところが、事故が起こった時間は午後7時過ぎ、10月末の午後7時と
いえばあたりは真っ暗です。橋の上には、何ヶ所かに街灯が設置されていますが、
その明かりは、橋の下までは届かないので、橋の上以外は、真っ暗です。実際ほぼ
同じ時間に現場を見ましたが、あたかも中央分離帯があるように思え、空間である
ことは、そう簡単には分かりそうな気がしませんでした。
4 名阪国道は、一般国道の部分でも、ほとんど高速道路と変わらない状態です。
60q/hの制限速度で走行する車両など皆無といってもいいくらいです。走行量も
かなりあります。現場検証の時でも、1分間に24〜25台の走行量がありました。
また、事故現場は、緩やかな左カーブのため見通しも悪く、実際、この衝突事故直
後に、その事故現場のすぐ後方で、玉突き事故が起こり、4歳の女の子が犠牲にな
っています。
転落事故の現場には、彼の手に握られたままの携帯電話が残されていました。そ
の携帯電話には、事故後の着信履歴も残されていました。送信履歴には、「発10月
29日19:06110」と表示されていました。
また、路上には、非常停止板が車に当たられたのか、損傷した状態で残されてい
ました。
おそらく、事故にあって名阪国道上で停車をせざるを得なくなった彼は、自らの
事故を後方の車両に示そうと、非常停止板を設置をし、110番通報を試みたので
しょう。事故車両の運転手とすれば、やらなくてはならない行動を的確にとってい
たのだと思われます。(なお、この自損事故については、乗車車両の欠陥によって
引き起こされた可能性が高いように思われるのですが、立証のしようがありません
でした。)
ところが、国は、彼のとった行動を「異常な行動」であると主張し、国には何の
責任もないと言い続けました。
この事故の後、その中央部分には、ネットが張られることとなったのですが、国
は、必要はなかったが原告(彼の両親)の要望が強かったので設置したと主張して
いました。そんな無駄なこと(必要もないのに費用を掛ける)を国がするものでし
ょうか?
なお、転落した態様は全く違うように思いますが、十数年前にも、その空間部分
から転落して亡くなった人がいました。両親は、その新聞記事を必死になって探し
出してきました。
また、国は、そもそも中央分離帯(正しくは「中央帯」と言うようです)は人が
避難する場所としては想定されていない危険な場所であると主張していましたが、
高速道路のサービスエリアには「ガードレールの外に避難しなさい」というビラも
貼られていました(道路公団名義)。個人的には、少なくとも、たとえ路側帯であ
っても道路上にいるよりはガードレールの外の分離帯の方が安全なような気がしま
す。
5 判決を待つ間、勝訴の確信は全くありませんでした。これは、ご両親も同じでは
ないかと思います。(かといって、絶対敗訴とも思いませんでしたが)。
裁判所に問い合わせるより先に、新聞社から、両親にいくらかずつ払えという判
決がでました、という連絡を受けました。
判決の内容のうち、7割もの過失相殺を認める部分は納得いきませんが、国の「
瑕疵」を認めたことは、それだけでも十分勝訴といえるでしょう。両親に連絡する
と、ホッとされていました。
6 当然国は控訴するものと思っていたのですが、結局国は控訴せず、1審で確定し
てしまいました。うれしい誤算です。控訴されたら、過失相殺割合についての付帯
控訴を考えていたのですが、その主張はできなくなりました。少し残念ですが、逆
転敗訴ともなれば目も当てられませんので(道路の設置管理の瑕疵についての判例
では、一転して敗訴となっている例も沢山ありましたので)、これはこれでよかっ
たと思ってます。
「何もしてやれなかったから、〇〇〇に何か残してやりたかった。これで少しは、国
の道路行政も変わりますよね。」
道路上での痛ましい事故を少しでも少なくしたい、原告である両親の言葉が、現実
のものとなってくれることを強く願います。







