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福山弁護士の「飲み法題」


  
       

残業代を上げると言うけれど・・・

 今度の国会は「労働国会」と言われており、安倍内閣の「再チャレンジ支援」というス ローガンに基づいて、労働関連の6法案が提案されている。  その中で、サラリーマン向けの一つの目玉が、残業代の割増率の引き上げである。1日 8時間を超えて残業をした場合の残業代は、現行法では、通常の時間外労働の場合が25 %増、深夜に及んだ場合がさらに25%増、休日の場合は35%増となる。つまり、時間 外が深夜に及んだ場合は50%増、休日に時間外労働をした場合は60%増となる。  厚労省によると、今後は、@残業時間が月45時間までならば割増率は25%とする。 A月45〜80時間ならば25%以上とするよう努力する。B月80時間を超えたら50 %とするという方針だそうである。  しかし、アメリカでは、残業代の割増率は、法律で週40時間超の場合50%増と定め られているほか、就業規則や労働協約によって、日曜は100%増、祝日は150%増と 定められていることが多い。またフランスでは、法律で、週の労働時間が35時間超の場 合25%増、40時間超の場合50%増、42時間超の場合75%増と定められている。 ドイツでは労働協約等により、週の労働時間が35時間を超える場合25%増、41時間 超える場合が50%増となっていることが多い。要するに、欧米では、週40時間を超え て働く場合の残業代の割増率は5割増というのが常識なのであり、残業が月80時間を超 えた場合にようやく50%増にするという厚労省の方針くらいで喜んでいてはいけないの である(しかも残業時間が月80時間というのは過労死水準である!)。  しかも、政府の方針では、従業員300人未満の中小企業については、負担増をさける ため、割増率を3年間据え置き、その後、引き上げるかどうかを検討するというのである。  これでは、5000万人の就業者の半分を占める従業員300人未満の中小企業で働く 多くの労働者は、残業抑止の効果は働かないことになる。  また、外国では割増率50%というと実額で50%増となるが、日本では、残業代の割 増賃金を計算において、賞与を除外しているので、それも含めて計算すると割増率はさら に下がる(日本の場合、仮に賞与を年4ヶ月とすると実質割増率は18%余りに下がるの に対し、外国では賞与はほとんどない)。これでは人を雇うよりも残業をさせた方が安上 がりになってしまう。  財界は何かというと「国際競争に負けてしまう」というワンフレーズを繰り返して、労 働者のフトコロを増やすことに消極的である。しかし、それならアメリカやフランス、ド イツの企業は国際競争で敗北し、とっくに市場から姿を消していてもおかしくないのに、 決してそーゆーことはないわけで、賢い労働者は、「国際競争に勝てない」という財界の インチキ宣伝に惑わされてはいけないのである。    弁護士 福 山 和 人



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