1. 2012年9月

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自主退職?解雇?

 自主退職なのか、それとも解雇なのかが争われることがあります。

 使用者は正当な事由があれば労働者を解雇することができます。

 

 ただし、原則として、少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労基法20条1項)。このように、退職の理由が自主退職か解雇かによって大きな違いが生じます。

 

 次のようなケースがありました。

 

 Aさんは正社員として入社し真面目に勤務していたところ、ある日、顧客から激しく叱責され自信喪失状態となり、社長に対して「もうこの現場では働くことは無理です」と伝えました。しかし、社長がAさんの話をよく聞いたうえで顧客との関係を修復し、Aさんのことを励ましてくれるなどしたため、Aさんは引き続き同じ現場で仕事を続けていました。Aさんは退職するつもりは全くありませんでしたし、社長から退職の意思を確認されることもありませんでした。

 

 ところが、その後、社長から「あなたに仕事を続けてもらうことは難しい」と言われました。そのうえ社長は「これは解雇ではない」と述べて解雇予告手当ても支給しませんでした。

 

 大阪地裁平成10年7月17日判決(労判1999.2.15No.750-79頁)がAさんのケースと似ています。大阪地裁は、辞職の意思表示は、生活の基盤である労働者の地位を直ちに失わせるという重大な効果をもたらす意思表示なので、その認定は慎重に行われるべきであり、確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合にのみ辞職の意思表示と解するべきであると述べています。

 

 大阪地裁のこの事案では、労働者が「会社を辞めたるわ」などと言い残して会社を飛び出し翌日も出社せず、翌々日になって「謝りたい、復職させてほしい」と申し出ていたところ、裁判所は、辞職の意思表示がなされたとは認められないと判断しました。

 

 Aさんは労働審判を申し立て、退職する意思など全くなかった旨主張しました。その結果、会社側から一定の解決金が支払われて解決しました。

 

 

2012年9月21日 弁護士 津島理恵