1. 「下流老人」(藤田孝典 著)を読んで
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「下流老人」(藤田孝典 著)を読んで

 
100歳以上の高齢者は毎年増加の一途をたどり、今年は6万5692人。
また65歳以上の女性は、女性全体の3割を占めるという。
古来、長寿はめでたいと言われてきたが、少子化と日本の貧困な福祉政策の中、老人にとって手放しで喜べない現状がある。
 
2016年9月17日付け朝日新聞朝刊の別刷「be」の「フロントランナー」のコーナーでは、NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典さんを取り上げていた。
昨年6月「下流老人」(朝日新書)という刺激的なタイトルで著書を出して大きな反響を呼び、本はベストセラーになった。
前々から読んでみたいと思っていたので、朝日新聞の藤田さんの記事を読み、すぐに本を買いに行った。
 
下流老人とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者、またはその恐れがある高齢者」と定義する。
現在、600~700万人と推測し、近い将来は高齢者の9割がそうなると警告する。
 
「今のままの社会だと『下流化』はだれにでも起こりうる」
それは、「本人がどれだけ努力しても、貧困に陥る社会構造がある」ということ。
この本を読んで、本当にだれにも起こ得ると確信した。
 
第1に、予期せぬ病気や介護あるいは交通事故などで、高額な医療費や介護費、療養費が必要になることがある。
当たり前だが、高齢期は想像以上に病気に冒されやすい。
「年金+就労収入」で暮らしていけるという生活設計は、あくまで「健康であること」を前提にして成り立つもの。
これらは、昔からあったことだが、昔は、家族や地域社会のセーフティーネットが機能していた。しかし、現代は、核家族化が信仰し、経済的困窮により子どもを頼れないケースが増えている。
 
第2に、高齢者介護施設に入居できない現実がある。
「特別養護老人ホーム」は入所までに3~5年待ちということはザラで、自立生活が困案になって入ろうと思っても、受け入れてくれる施設がないという状況も十分にあり得る。
金がなければ、まともな介護も受けられない。
 
第3に、子どもに親の介護が期待できないばかりか、子どもがワーキングプアや引きこもりで、成人以降も子どもを養わなければならない高齢者が増えている。
 
第4に、熟年離婚。
慰謝料や財産分与、未成年の子どもの養育費の支払い、年金分割などによって、これまでの生活レベルを下方修正せざるを得ない。
 
第5に、認知症でも周りに頼れる家族がいない。
そのため、オレオレ詐欺などの犯罪や消費者被害に巻き込まれて下流化してしまう。
 
NHKの「老後破産」は、これら下流老人の実態を浮き彫りにしていたが、今後の対策や展望というところの掘り下げは不十分で、不満が残った。
藤田さんは、現状を紹介するだけでなく、政府の政策の不備や、安らかな老後を迎えるための自己防衛策まで言及する。
自己防衛策の中で、とりわけ「幸せな人と不幸せな人との違いは明らかに『人間関係』にある」との指摘は、私の経験からもうなづけるところだ。
 
しかし、彼は、心の問題だけにせず、きちんと政策提言も行い、最後には、「人間が暮らす社会システムをつくるのはわたしたちである」として、私たちは、共に考え、想像し、行動していくことを、願いたいと結んでいる。
 
非常に勉強になった。
藤田さんは、最近、今度は、若者世代の貧困に焦点を当てた「貧困世代」という本を出版された。こちらも是非、読んでみたい。
 
 
 

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