1. 空飛ぶ弁護士のフライト日誌─DAY30:ふわり空の旅・その2 機長:古川美和
空飛ぶ弁護士のフライト日誌

 さて,熱気球に乗ったお話。

 熱気球がガスバーナーで熱した空気で膨らむと,地面を離れて浮かび上がるわけですが,その感覚は,本当に何ていうのかな,惹かれ合った恋人たちの心が自然に離れていくように,そっと地球の引力から抜け出すというか,「関係なくなる」という感じ。
 ウインチ曳航にしろ,飛行機曳航にしろ,普段グライダーで飛び上がるときにはそれなりの加速度で「ぐぐ~ん!!!」と「飛び上がるぞう!解き放たれるぞぉぉっっ!!!」という高揚感を経験しつつ飛び上がっている私には,その控えめというか,本当に「何でもない」「自由な」感じが新鮮でした。

 熱気球の浮力の源は,当然ながらガスバーナー(で熱せられた空気)。でも,熱気球自体には舵はついていませんから,方向を決めるのは風任せ。というより,その「風」をいかに「読む」かが,熱気球の勘所なんですね。
 普段私たちは意識しませんが,風というのは,地表上の2次元の各地点でも,強いところ弱いところ,そして風向きも様々です。それと同じように,3次元上の上空でも,高度によって,同じ高度でも地点によって,それぞれ違う強さ・向きの風が吹いています。
 熱気球では,仮に浮かび上がって地上から100m付近までは西よりの風が吹いていたとしたら,東に流されながら上がっていきます。その後,飛び上がった地点に着地したいと思えば,どこかの高度・地点で東よりの風をつかまえなければならないわけです。東よりの風が吹いている高度まで,気象データや気球自体の流され方,雲の動きなどをおそらく読んで,上昇する。そしてその高度でしばしガスバーナーの噴射を弱め,上昇ではなく高度を維持しながら,東よりの風に乗って,離陸地点よりずっと西に流される。その後,ガスバーナーの噴射をもっともっと弱めて下降すれば,今度は下層の西よりの風に乗って東にちょっと流されつつ,ゆっくり着地する,という具合。・・・なんだか,スゴイですよね?

 明け方の空は,東の空から黄色味を増し,浅葱色から夜の宇宙の色へ,西の空に向けて壮大なグラデーションを描いています。その中を,静かに上昇し,下降する熱気球。ガスバーナーの赤々と燃える「ゴー,ゴー」という音だけを友として,空を旅します。
 ああ,いいなあ・・・と思うまもなく,約1時間のフライトは終了。日が高くなると,風が強くなりすぎて熱気球には適しないのだそうです。
 徐々に高度を下げ,地面に近づいていく籠。最後の着地は,ふわりと降り立ち,そう,まるで地面にそっとキスをするかのようでした。

 朝の光の中で,熱気球の感触を胸に,「さあ~,今日も飛ぶぞ~!」とグライダーに思いを馳せる私。
 私にとって熱気球は,短い一夏だけの恋人のように,「ずっと一生いるヒトじゃないけど,特別な時間を過ごした存在」。今でも大切な思い出です。