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1 建設アスベスト訴訟について最高裁で勝訴
  2021年5月17日、最高裁判所第1小法廷は、建設アスベスト訴訟(神奈川1陣、東京1陣、京都1陣、大阪1陣)について、国と建材メーカーの責任を認める原告勝訴判決を言い渡
    しました。
2 最高裁判決の意義
(1)今後の全面解決への梃子
  この裁判は、一番最初に言い渡された横浜地裁判決で、国と企業の双方に敗訴する最悪のスタートから始まって、東京地裁で国の責任を認めさせ、京都地裁で企業責任に風穴を開け、大阪
 地裁では国の責任割合を3分の1から2分の1に上げさせ、東京高裁で一人親方の救済を認めさせるなど、全国の原告弁護団・支援者が、連携し、時には厳しい議論も行って、一歩ずつ歩ん
 できた訴訟です。ようやく最高裁で国と企業双方への勝訴と、一人親方や零細事業者も含めた救済が確定したことは、今後の全面解決の梃子となる大きな意義があります。
(2)判決理由の特徴
 【国の責任】
     最高裁は一人親方等に対する国の責任について、労働安全衛生法57条に基づく警告義務は、物の危険性又は場の危険性に着目した規制であって、危険物を扱う者が労働者か否か、或い
 はその場で作業する者が労働者か否かで危険性が変わるわけではないとして、安衛法に基づく規制権限は労働者のみならず、労働者に該当しない建設作業従事者も同法の保護の対象となるこ
 とを正面から認めました。
    【企業の責任】
     企業責任について、原告らは、アスベスト建材に関する国交省データベースに基づいて各職種毎の主要取扱建材を明らかにし、次に原告本人尋問の結果や被告の反論も踏まえて取扱建材を
    絞り込み、さらに建材の市場占有率(シェア)資料に基づいて、シェア上位企業の建材が現場に到達した可能性が高いことを主張立証しました。これを踏まえて、最高裁は、石綿建材が実際
    に被害者に到達したことの立証は不要であり、原告らの採った主張立証方法によって特定された建材は現場に到達したと推認できるとして、被告企業らに共同不法行為が成立するとしまし
 た。長年にわたって多数の現場を渡り歩いてきた原告たちにとって、加害企業や加害建材を特定することは極めて困難で、そのことが企業責任追及の壁になっていましたが、今回の最高裁判
 決はその壁に風穴を開けたといえます。
3 最高裁判決の限界~屋根工の救済を拒否
  大きな意義ある判決でしたが、他方で、京都一陣原告の木村さん(屋根工)の救済が認められなかったのは大きな問題点です。
  原審の大阪高裁判決は、産業衛生学会が平成13年に過剰生涯発がんリスクが10-3となる評価値0.15本/?を上回る屋外粉じん濃度測定結果があったこと等を理由に、平成14年
 1月1日~平成16年9月30日までの期間、屋外作業者に対する国の責任を認めました。しかし、最高裁はこれを覆して屋根工の救済を拒否しました。その理由として、最高裁は、0.1
 5本/?は法令の規制値ではなく学会の勧告に過ぎない、それを下回るデータもあった、屋外は屋内と異なり風等により換気される等として、屋外作業の危険性について予見可能性がなかっ
 たと言いました。
     しかし屋根上は外気があっても、電動工具を使って建材を切断すれば、粉じんは20~30㎝しか離れていない作業者の口や鼻を直撃します。木村さんも実際にそうした作業に従事してお
 り、基本的に屋内と変わらない量の粉じんを浴びていたのです。屋根工の粉じん作業の危険性を過小評価するのは現実をみない空論と言わねばなりません。また国は、平成15年7月22日
 に主に屋根工事に従事していた屋外工について、労災認定を行っており、遅くともこの時点で国が屋外作業の危険性を予見できたことは明らかです。最高裁判決の屋外に関する判断はいずれ
 是正されるべきでしょう。
4 国との基本合意の成立
  最高裁判決を受けて、翌5月18日、菅首相は総理官邸で原告団・弁護団と面会して謝罪しました。そこには京都一陣原告の義經さんも参加し、首相から直に謝罪を受けました。同日夜に
 は、田村厚労大臣が、与党のプロジェクトチーム同席の下、原告団・弁護団に直接謝罪し、国との和解に関する基本合意書に調印を行いました。 合意書によると、
 ア 国は、係属中の訴訟について、
   ① 「昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの間に屋内作業に従事した者」
       又は
    「昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの間に吹付作業に従事した者」で
   ② 「石綿関連疾患に罹患した者又はその相続人」に対し
   ③ 民法724条所定の期間制限に抵触していない限り
      病気の軽重に応じて一人550万円から最大1300万円の和解金(喫煙等による減額あり)、
  和解金の10%の弁護士費用、長期間の訴訟対応の負担を考慮した解決金総額30億円を支払
  うこととなりました。
  イ また未提訴の被害者に対しても、国は一人550万円から最大1300万円を支払うとともに、
  ウ 今後石綿被害を発生させないための対策や医療体制の確保、被害者に対する補償について、
  さらに継続的な協議を行うこと
  が合意されました。
5 さいごに
  これで2008年の東京一陣の提訴から13年、2011年の京都1陣の提訴から10年の長きにわたる闘いに一つのけじめがつきました。しかし京都の原告団長の寺前さん、副団長の青
 山さん、岩木さんはもうこの世にいません。約7割もの被害者が志半ばに亡くなっています。寺前さんは、亡くなる直前、病床で私に手を合わせて「最後まで頑張れずにすみません」と言っ
 て旅立ちました。我々は彼らの思いを背負って今ここにいます。いわばこれは彼らの文字どおり命懸けの闘いによって勝ち取られた成果といえるでしょう。そのことを率直に喜び、亡くなっ
 た方々の墓前に捧げたいと思います。
  しかしこれは全面解決ではありません。建材企業は依然として和解には加わっておらず、2陣訴訟では争い続けています。企業に対しては、改めて無益な争いを続けるのではなく、責任を
 認めて早期解決に向けて足を踏み出すよう強く求めたいと思います。また司法は屋外工の救済を拒否しましたが、それなら政治の責任で救済すべきです。無用な線引きを持ち込まず、国の高
 度成長を支えてきた全ての建築職人を分け隔てなく救済するように、与野党が協力して、救済法を速やかに制定するよう求めます。
  私たちは、引き続き2陣訴訟の全面解決、埋もれている被害の掘り起こしと救済のために全力で奮闘する決意です。今日まで支えて頂いた皆様に心から感謝申し上げるとともに、引き続き
 のご支援をお願いしたいと思います。
 (京都法律事務所は、京都建設アスベスト訴訟弁護団の事務局事務所を務めるとともに、福山和人・津島理恵・佐藤雄一郎の3弁護士が弁護団に参加しています。)
                                                                                   以上

国と企業への勝訴が最高裁判決で確定したこと(一部破棄差し戻しを含む)、一人親方も救済されたこと、企業の共同不法行為が認められたこと、石綿建材が実際に被害者に到達したことの立証は不要でシェア等による到達の推認は合理的とされたこと等は大きな成果だ。

この訴訟は、最初の判決で国にも企業にも全面敗訴した。そこから各地の原告と弁護団、支援組合が力を合わせて、一歩ずつ道なき道を拓いてきた。東京地裁で国責任を認めさせ、京都地裁で企業責任をこじ開け、大阪地裁では国の責任割合を2分の1に増額させ、東京高裁で一人親方の救済をかち取るなど、10年以上かけてここまでたどり着いた。

しかしこの結果を見ることなく、約7割もの被害者が志半ばに亡くなっている。京都の原告団長の寺前さんは、亡くなる直前、病床で僕に手を合わせて「最後まで頑張れずにすみません」と言って旅立った。

僕らは彼らの思いを背負ってここにいる。いわばこれは彼らの文字どおり命懸けの闘いによって勝ち取られた成果だ。そのことを率直に喜び、亡くなった方々の墓前に捧げたい。

だが大阪高裁判決が平成14.1.1~16.9.30の間、屋根工一人に対する国と企業の責任を認めたのに、最高裁はこれを破棄して救済を否定した。その原告は他ならぬ僕が担当した木村さんだ。自らの責任と無念を痛感する。

屋外は風により換気されるとか、規制値より低いデータもあったから、屋外の危険性について予見可能性がなかったと最高裁は言う。しかし国は平成15年に屋根作業に従事していた屋外工について労災認定していたではないか! 国は屋外の危険性を当時から知っていたのだ。また屋根工の石綿疾患発症数は大工や左官などよりよほど多い。僕らはそれらを訴えた。しかし最高裁は一顧だにしなかった。はっきり言う。最高裁は間違っている。

この問題ではすでに政治も動き始めている。司法が救済しないなら政治が救済の役割を果たすべきだ。救済に無用な線引きを持ち込まず、国の高度成長を支えてきた全ての建築職人を分け隔てなく救済するよう切望したい。

DSC01750.JPG2021年5月14日、関西建設アスベスト京都(二陣)訴訟の3次提訴を行いました。

提訴したのはいずれも京都市内に居住する建築作業従事者及びその遺族の合計7人(被害者単位では4人)です。4人の被害者はいずれも大工で、疾病別では肺がんが2人、中皮腫が1人、石綿肺が1人です。既に亡くなった方が3人、生存原告が1人です。
これで京都二陣訴訟は、被害者単位で30人、原告数で40人の集団訴訟となりました。
週明け5月17日には京都一陣訴訟についての最高裁判決も出されます。
一陣訴訟では屋外工(屋根工)1人を除く24人の被害者との関係で、国と企業の責任が確定しました。しかし国も企業も二陣訴訟では今のところ争いをやめていません。日本では2006年にアスベストの使用が禁止されるまで多数の建材にアスベストが使用されてきました。2006年禁止時点の建設業従事者は全国で約560万人、そのうち相当数の方が10年から40年という長期の潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫などの石綿疾患を発症する危険があります。今後、数十年の間に10万人の死者が出るとの推定もされています。
原告たちは裁判によらなくとも被害救済するための補償基金を、国と建材メーカーの責任で創設するよう求めています。そうした制度を早急に制定しないと今後も裁判が延々と繰り返されることになるでしょう。しかし、被害者や家族に、時間と労力を費やす裁判を強いるのではなく、補償基金の創設により早期の全面解決を図ることが強く求められます。

P8310016.jpg2021年5月17日午後3時から、関西建設アスベスト京都(一陣)訴訟の最高裁判決が言い渡されます。この日は、東京、神奈川、京都、大阪の4訴訟について最高裁がまとめて判決を言い渡します。

2008年5月16日に、東京一陣訴訟が提訴されて丸13年、2011年6月3日に京都一陣訴訟が提訴されてから約10年かかってようやく最終決着を迎えることになました。

この裁判は、大工や左官、電気工、配管工、解体工など建設現場で働く職人たちが、建材に含まれるアスベスト(石綿)の粉じんを吸い込み、肺がんや中皮腫、石綿肺などの重い呼吸器疾患を患ったことから、アスベスト含有建材を製造販売した建材メーカーと、適切な規制を怠った国に対して、損害賠償を求めた事件です。京都一陣では被害者25人中、約7割の17人がすでに亡くなっています。
アスベストの危険性は戦前から知られており、その医学的知見は、石綿肺については1940年(内務省・保険院報告)、肺がんについては1955年(ドール博士報告)、中皮腫については1965年(1964年:NY科学アカデミー、国際対ガン連合=UICC「報告と勧告」)には確立していたと考えられています。また1972年(ILO・WHO報告)には少量曝露による中皮腫発症の危険も明らかとなり、閾値がないことも知られるようになりました。当然、国やメーカーもそれを知っていました。しかし戦後の高度成長期に、国策として進められた都市化政策のために、官民が一体となって安価な耐火材であるアスベストを大量に普及しました。現場の建築職人はその危険性を何も知らされず、電動工具などを使用してアスベスト含有建材を切断したり、吹付作業を行うなどして、大量のアスベスト粉じんを浴び発病したのです。
国は、1971年時点で建設現場が危険だということを認識し、同年制定の旧特化則で石綿を微量でも危険な第2分類物質に指定しました。本来、そのときにブレーキを踏むべきでした。しかし国と企業はその後もアクセルを踏み続けました。その結果、石綿スレート出荷数は1973年に1億554万枚と第1のピークを迎え、1990年には8748万枚と第2のピークを迎えました。いずれも国が危険性を認識した後のことです。少なくとも70年代に抜本的な規制をかけていれば、今日の被害は大きく減らせることができたはずです。
 世界的にも、アスベストの危険性が明らかとなり、1980年代以降多くの国がアスベスト使用を禁止するようになりました。しかし日本では、2006年までアスベストが使用され続けました。その結果、我が国では、毎年約1500人が中皮腫で死亡する事態となっています。肺がんや石綿肺等による死者も含めると今後我が国だけで10万人が死亡すると推定されており、史上最大の産業被害と言われています。
建設職人は国と企業が護送船団方式で進めた国策の被害者ということができます。この構図は、過去の薬害・公害訴訟や原発被害と全く同じです。本件ではそのことが問われているといえます。
京都一陣の被害者25人中24人については、既に最高裁が国と企業の上告を退けたので、大阪高裁の勝訴判決が確定しました。しかし最高裁は、大阪高裁で国と企業に勝訴した屋外工(屋根工)一人について、国と企業の上告を受理したため、高裁判決が見直される可能性があります。しかし、建設現場の危険性について屋内屋外で差はありません。
最高裁判決では、国と建材企業の責任を明確に断罪すること、いわゆる一人親方や零細事業主をも救済の対象に含めること、屋内作業・屋外作業の区別なく全ての建設作業従事者を等しく救済することが求められています。多くの皆様にご注目頂きたいと思います。
(当事務所は、京都訴訟の事務局事務所を務め、福山和人、津島理恵、佐藤雄一郎の3弁護士が弁護団に参加しています。)