1. 2016年11月

2016年11月アーカイブ

 一人暮らしの高齢者が亡くなったときなどに、葬儀を行う義務を負うのは誰か?、葬儀費用や埋葬費用は誰が負担すべきか?、香典は誰が受け取れるのか?、等が問題になることがあります。
1 葬儀を行うべき義務者
 まず、葬儀を行う義務を誰が負うかについては、法律に規定はありません。単に配偶者や長男というだけで、当然に故人の葬儀を行う法的義務を負うわけではありません。従って、その地方の慣習や条理を考慮しつつ、当事者間で話し合いで決めるほかありません。
2 葬儀費用の負担者・香典の取得権者
 次に、葬儀費用を誰が負担すべきかについても、法律に規定はありません。従って、これについても単に配偶者や長男というだけで、葬儀費用を負担すべき義務を負うわけではありません。
 学説としては、①葬儀の実質的主宰者(喪主)が支払うべきもの、②相続財産から支払われるべきもの、③共同相続人がその相続分に応じて負担すべきもの、④まず香典で賄い、不足分は相続財産の中から支払い、さらに不足するときは相続人が相続分に応じて負担すべきもの等の見解があり、定まった見解はありません。ただ、近時の高裁判決(名古屋高裁平成24年3月29日判決)は、①の喪主負担説に立っています。その理由は、「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当というものです。確かに分不相応に過大な葬儀を行って葬儀費用が多額に嵩んだような場合は、それを執り行った者が負担するというなら肯けますが、皆が嫌がって葬儀を行う者がいない場合に仕方なく喪主として分相応の葬儀を挙げたような場合に、喪主にだけ費用を負担させるというのは、妥当性を欠くと思われます。
 ただ一般に、香典は葬儀費用に充てるために喪主に対してなされる贈与と解されているので、香典が葬儀費用を賄える程度にある場合は、①の喪主負担説をとっても不当とは言えません。また、相当な葬儀費用については、民法306条3号、309条1項により、「債務者の総財産」に対する先取特権が認められています。この「債務者の総財産」とは死者の遺産のことと解されているので、葬儀費用を上回る遺産がある場合は、そこから支払ってもらうことができます。そうした香典や遺産がない場合には、葬儀の方法や費用負担について、事前に関係者で話し合って決めておくことが望ましいといえます。
3 埋葬費用の負担者
 これについては、前述の名古屋高裁平成24年3月29日判決は、「遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当」と判示し、故人の祭祀承継者が負担すべきとの立場をとりました。
 祭祀承継者とは、祖先のまつりごとを主宰する者を言い、喪主とは限りません。これは、故人が事前に指定していた場合はその指定された人がなり、指定がない場合は地域の慣習に従って決めることになっています(民法897条1項)。慣習が明らかでないときは家庭裁判所が決めることになります(同条2項)。
 ちなみに上記の名古屋高裁の裁判例は、故人の兄弟が支出した埋葬費用を、故人の子2人に請求したという事案ですが、裁判所は故人と2人の子の親子の交流が20年以上も途絶えていた一方、埋葬費用を支出した兄弟は故人と比較的密な交流があったこと等から、子らを祭祀承継者とみることはできないと判断しました。
 これについても故人の遺志や故人との関係、地域の慣習等を考慮して、関係者間の話し合いで決することが望ましいといえます。