京都市議の海外行政調査旅行に裁判所が判決

京都市が毎年行っている海外旅行のうち一部は観光であり違法として返還を命じる判決が確定
京都法律事務所  弁護士 岡根竜介(2005年5月記)


 5月12日、大阪高裁は、旅行に参加した京都市会議員に対し、京都市に海外旅行(海外行政調査出張)に費やした費用の一部についてではあるが、返還を命じる判決を出しました。
 全旅程の内、明らかに観光目的としか考えられない行程については、費用を自己負担せよと命令したわけです。
 この判決は、被告(被控訴人)らが上告を行っていないことで確定しました。


 地方公共団体などが行う海外旅行については、最高裁の判決(昭63.3.10第1小法廷、平9.9.30第3小法廷)があって、「議会は、当該普通公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な範囲で広範な権能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することができるが、裁量権の行使に逸脱または濫用があるときは、議会による議員派遣の決定が違法となる場合がある」としてしまっています。
議会に広範な裁量権を認めてしまい、それを糺そうとしても、司法は知りませんという態度に出てしまっています。


 今回の、大阪高裁の判決も、基本的には、この最高裁の判決に添うようになされています。
 しかし、その理解は、京都地裁の判決のような、広範な裁量があるから、それなりの名目的な視察目的さえあげておけば全て許されるというような判断ではありません。
 慣例的に行われているような海外旅行そのものに、税金をつぎ込むだけの価値があるのかという疑問があるようで、まず、議員の海外視察が許されるのは、議決機関を構成する議員としてその職責を果たす上で合理的な必要性がある場合に限られると限定する方向で考え、視察目的が議員の活動との関連で正当性が存在しない場合や、視察目的に合理性があっても、その目的に照らして、派遣計画が相当性を有しない場合には裁量権の逸脱または濫用が認められるとしているのです。
 その上で、派遣計画の相当性については、目的の正当性に関する議会の裁量よりも裁量の幅は制約されると解すべきとし、視察目的との関連性を議会が積極的に示せない視察旅行は、相当性を欠くので違法と解されるとしているのです。
 議会がやるなら何でもOKとでも考えているかのように読めてしまう京都地裁の判決とは、根本的に異なっています。


 ところで、実際の旅行の内容はというと、2期目以上の議員がその任期中に1回参加するという慣行に従い、2001(平成13)年8月に10日に亘りアメリカ合衆国の「視察」に訪れたというものです。シカゴ、ボストン、ワシントンDC、ニューヨーク、トロント(カナダ)の各市を転々と回りました。参加した市議は6名(自民、民主都みらい、団長は現参議院議員二之湯智)、随行員が1名の総勢7名です。その前年には、アメリカとヨーロッパに2回、旅行に行っていますので、その年は議員6名となったようです。
 なお、この年から、公明党議員団は、この観光旅行に参加することを見合わせるようになっています   (共産党議員団はもう少し前から参加を見合わせています)。
 この年からは、京都市議会の4会派のうちその半分の2会派のみが参加するものになっています。
 これだけでも、市の公式行事として行うことが妥当なのか疑問が出てくるところでしょう。

 今、東京の議会でも問題になっており、その費用(150万円)にまでは至らないものの、豪華旅行の市議1人あたりの費用はおおよそ120万円(議会の決めた上限いっぱい)です。そればかりか、参加議員には日当まで支払われているのですから、参加議員の懐は全く痛みません。
 なお、当該年度は支度料(約5万円)も支払われていたのですが、2004年からは、さすがに時代錯誤と思ったのか、支度料は廃止されています。

 なお、自民党議員の1人は、「(視察先が)なぜアジアではなく、ヨーロッパやアメリカなのか」という質問に、アジアでは、120万円が使い切れないからだと、驚くべき回答をしています。自費ならともかく、税金を使うのにこの感覚、あきれ果ててしまいます。

 旅行については、各都市についてそれぞれ視察目的は掲げています。
 たとえば、①循環型社会形成の取組について、②水道事業について、③交通政策について、④DVについて、⑤生活安全対策について、などです。その他に、姉妹都市ボストンとニューヨークの国連日本代表部を公式訪問することになっていたりします。ところが、この旅行では、視察といっても、1時間程度の話を聞くだけです。
 研修や視察に行くなら当然行っていると思われる事前の学習は、全くやっていません。修学旅行であっても、少しは事前学習をしていくものでしょう。やっていかなくても、十分な「成果」が得られるのだそうです(訴訟における議員側の主張)。


 ただ、大阪高裁の判決も、前述の最高裁判決がありますので、旅行のあり方、存在意義に疑問があっても、旅行そのものを違法とはいえなかったようです。

 ところが、「派遣計画の相当性」の検討はなかなか興味深い。
 まず、市会事務局は、この海外出張を恒例行事として、行き先を決めて視察の提案を行っており、調査項目よりも先に派遣場所(北米)が決まっていると正しく事実を認定しました。「本末を転倒したともいうべき海外行政視察の計画」と断じているのです。
 そのため、訪問した都市が最善の選択であったかは疑問が少なくないし、調査した内容も、視察先から入手した資料の域を出ないものや、表面的・概括的なものが多く、京都市の課題との関係でどのように有益な視察結果が得られたのかもほとんど明確にされていないことを指摘しています。
 その上で、海外視察の必要性や、このようなレベルの海外視察を住民が許容していると見るべきか、いささか疑問だというのです。全くそのとおりです。

 また、議員として幅広い見識や国際的な視野を持つことは、もとより(議員に)期待されるところであるが、基本的には自己研鑽によって獲得すべきこととも考えられ、情報化が進み、海外旅行が容易な時代になっていることなども考慮すれば、今後、このような一般教養取得型ともいうべき海外視察を温存すべきかは大いに検討の必要があろう、としているのです。

 このように、全体的な派遣計画の相当性自体は、疑問がありつつ違法とまではいえないとしていますが、個別の日程も検討し、視察日程の中に明らかに視察目的に合致しない日程(観光目的)については、まさに観光目的であって、議会の裁量を逸脱しているので、違法だと判断しました。
 日程中、1日中ニューヨーク市内にとどまり、美術館見学を始め、市内見学をしたのみの日曜日の日程については、観光目的としか考えられません。そんな観光のために、専用バスをチャーターし、8時間にもわたりガイドまで付けています。違法だという判断は当然でしょう。


 全体を違法とはしていませんので、各市議に返還を求めた金額は、各2万7804円です。120万円からすれば、ほんの僅かです。
 しかし、視察全体とすれば違法とまでは言い切れないが、個別の日程には、明らかに観光としかいいようのない部分があり、違法な公金支出であると判断した意義は、とても大きなものがあると思います。
 今後、議会が自主的に、このような無駄な税金の使い道を改めることを期待します。
 恒例的に行われているだけの海外旅行はやめるべきだ、という裁判所からのメッセージを議会は真摯に受け止めるべきでしょう。
 この判決を受けて、市民ウォッチャー・京都では、京都市や市議会に対し、今年度以降の海外視察(恒例的に行われているものについて)を取りやめるよう申し入れを行っているところです。

 ちなみに、2005年の夏に予定されていた北欧への旅行は、選挙を理由に中止されました。北欧に調査に行くとしていたのですが、長期の夏休みをとることが当たり前の北欧に、その休み中に行って、どういう調査をしてくる予定だったのでしょうか。

 2会派だけで行っている、税金の無駄遣い豪華海外旅行は、今後一切中止してもらいたいものです。

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